3 - 将軍の回想 i

あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。私のうぬぼれた、傲慢な行動が、私たちの運命を決定づけるなんて、その時は考えもしなかった。


エリシアはいつも不安そうだった。あの子は優れた召喚力を持っていたし、その知識も豊富だったけれど、どうしても自分に自信を持てない子だった。


私が「行こう」と誘っても、彼女は決まって嫌な顔をして、「やめた方がいいよ、ミレイア」と尻込みしていた。


その日も、そうだった。イーストヴァレーの王家の谷に秘宝があるって噂を聞きつけた私は、何が何でもそれを見つけ出してやろうと決心し、エリシアを無理やり連れ出した。私たちが育ったイーストヴァレーは、帝国に占領された華やかな首都から遠く離れた地。青春を謳歌したい多感な10代の私は、この平凡で退屈な辺境に嫌気がさしていた。エリシアはやっぱり反対して、いつものように言った。


「ミレイア、本当に大丈夫? 私たち、あそこまで行って戻れるの?」


と心配そうに聞いてきた。


「大丈夫だって! 私が一緒にいるんだから、何も心配することないよ。」


その時の私は、自分の能力に酔っていた。周囲から「優秀だ」と言われ続け、誰一人として私の決定に異を唱える者はいなかった。だから、エリシアの慎重さもただの臆病としか思えなかった。


王家の谷への道のりは険しかったけど、森を抜け、幾度かちょっと危ない魔物に出くわしたくらいのもので、召喚士としても一流だった私は、簡単にそんな奴らは焼き払うことができた。私は迷いなく進む一方で、ずっと後をついてきたエリシアは、心なしか青ざめていた。


「本当にここで合ってるの?」


エリシアは声を震わせて尋ねた。


「うん、絶対ここだよ。王家でも一部の人間しか知らない財宝を私たちが見たと聞いたら、ばあ様とかえらい人たちみんな驚くだろうな。」


私は笑って答えた。でも、彼女はうつむいたままだった。


やがて、私たちは谷の奥に辿り着いた。そこには古びた神殿があって、中央には煌めく王冠が輝いていた。それを見た瞬間、私はすぐに理解した。これが女王の戴冠に使われる秘宝「王冠」だ、と。胸の奥から興奮が湧き上がり、私はエリシアに叫んだ。


「これだよ、エリシア!」


エリシアは息を呑んで叫んだ。


「ミレイア、触らない方がいいかもしれない。戴冠式の時に首都に持っていく大事な秘宝だから、何かの罠が仕掛けられているかもしれない、それに――」


「大丈夫だって!」


私は彼女の言葉を遮った。


「こんな機会、めったにないよ。大体、私が将来女王になるんだから、今かぶったっていいじゃない!」


私は躊躇なく王冠を手に取り、それを自分の頭に乗せた。瞬間、世界が輝き、私は自分が本当に「特別」だと感じた。その時は、何の疑いもなく、自分が王国を導くべき存在だと信じていて、未来の女王となっている自分の姿がありありと目の前に浮かぶかのようだった。


でも、その次の瞬間だった。神殿の扉が突然開き、臣下たちが押し入ってきた。


「ミレイア様、何をしておられるのですか!」


彼らは驚きと恐れの表情を浮かべ、私を取り囲んだ。


「あーあ、ばれちゃった。」


正直私はそれくらいの感覚で全く反省はしていなかったのと対照的に、エリシアはその場で震えていた。


私たちはその後、厳しく叱責され、王家の谷から強制的に連れ戻された。そして、ばあ様――私たちの召喚士の先生のもとへ引き出された。ばあ様は私たちを前にして、古い伝説を語り始めた。

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