第6話 なぜバレている

「お前西宮さんとどういう関係だ!」

「そもそもなんでお前なんかに⋯⋯!」


 こうなってしまったのには理由がある。美術室で終わるかと思ったあの謎絡み、西宮さんは休み時間ごとに僕へ話しかけに来たのだ。そしてその本人である西宮さんは昼休みなのに教室にいない⋯⋯非常に困った。僕の望む平穏な日々がどんどん遠ざかっている気がする⋯⋯。


古謝こさお前さぁ⋯⋯西宮がいる遊びの誘いも断ってたのに一体どこで仲良くなったんだよ」


 言い方は頭にくるが落ち着いてる人がいて助かった。話にならないからな。この人は⋯⋯確か中学が同じだった横谷よこや拓実たくみ、目つきが鋭くてクラス内で影響力がある人物の一人。


「⋯⋯体育祭が初対面」

「ここ数日で一気に仲良くなったってことか?」


 横谷拓実が話し始めたら周りの三人は黙りか。


「仲がいいかは分からない、でも何故か話しかけてくるんだよ」

「なるほどな」


 全部西宮さんが引き起こした事だ、なんで僕が責められてるんだ! ──って言ったら更に責められるんだろうなー⋯⋯。


「それで結局西宮とはどういう関係なんだ?」

「ただのクラスメイト──」


 僕はすぐさま机に突っ伏し半分以上顔を隠した。教室の前のドアが開いてそこから西宮さん黒城こくじょうさん柚三ゆずみさんの三人が入ってきたからだ。これ以上面倒なことは避けたい⋯⋯いやマジでホントに切実に!


「廊下暑すぎん?」

「ホントそれ」

「だったらトイレ行くな、あと私を巻き込むんじゃねえ」


 手で顔を仰ぎながら黒城さんは二人に問いかけ、それを聞いた西宮さんは共感したことを知らせる肯定。そして西宮さんの後ろから柚三さんの横谷拓実の目つきより鋭いツッコミ。見るだけなら面白いんだよ、見るだけならな。


「それは無理。てかどうしたの? そんなに一箇所に集まって」


 そりゃ気になるよなぁ西宮さん⋯⋯頼むぞ横谷拓実とその他の名前覚えてない男子たち!


「いやぁ⋯⋯なんでもないって」

「うんうん、なんでもない⋯⋯」

「ああ⋯⋯なんでもないぞ」


 ダメだこりゃ。寝てるふりしてこの場を乗り切ろう、そうしよう。


「怪しい⋯⋯」


 僕の周りから人の気配が消えたかと思えば誰かの足音がどんどん近づいてくる。


「古謝か」


 この声は柚三さんか。


「これは⋯⋯寝てるな」


 良かった、一応バレてないみたい。けど⋯⋯お弁当食べてる途中で寝るとか、僕なら信じないね。


「古謝が寝てたから集まって何かしようと思ったわけね。やめときなー、多分古謝が怒ったらヤバいから」


「怒ったらヤバいってなに!? 古謝くんが怒ったとこ見たことないからちょー気になるんだけど!」


 話し声的に近くに寄ってきてるのは柚三さんだけか。あと怒ったらヤバいって黒城さんからの僕そういう印象? たまにいるけど、普段大人しい人が怒ったら想像以上に勢いすごすぎてびっくりするみたいなやつ。


「それより西宮は職員室だろ」

「そうじゃんプリント!」


 西宮さんの声が僕の耳に入った瞬間から走るような足音が聞こえ、黒城さんだと思われる「私も行くよ」という声が教室内に残りつつも二つの足音は遠ざかって行った。


 後はなるべく自然に起きたふりをしてお弁当の続きを楽しむとしますか。


「ゆっくり食べろよ」

「横谷たちの事は気にすんな、どうせ嫉妬だろ」


 バレてる⋯⋯藤堂くんは見られてるからしょうがないとしても柚三さんになんでバレてんだよ。


 僕が顔を上げると少し心配した様子の柚三さんと微笑みかけてくれる藤堂くんの姿が見えた。窓から射す夏の始まりを合図するような強い日差しが当たったからなのか、背にじんわりと温かさを感じる。


「ありがとう」


 柚三さんと藤堂くんを交互に一瞬ずつチラッとだけ見て両方に感謝を示しながらそう言う。すると二人は笑みを浮かべながら僕の机から離れていってくれた。なんて空気の読める二人だ、感謝しかない。



 今日も色々と起きたが無事学校が終わり、僕は昇降口から外に出て帰路に着く。毎日のルーティーンのように夕食の献立をスマホで検索、考えてはぶつぶつと独り言を喋り、見慣れた道のりを一人で歩く。


「買いだめしたから大丈夫なはず⋯⋯」

「食材何か切らしてたり?」

「切らしてたら買いに行くか別の作るかだな」


 うーん⋯⋯まあ大丈夫で──え? 僕は声のした方へ首を回すと両手を後ろで組み、少し前傾姿勢になって僕を覗くように見る西宮さんが何故か隣を歩いていた。


「古謝くん料理とかするんだ」

「いやそうじゃなくて⋯⋯え?」

「え? って、話したかったからじゃん?」


 それだけで追ってくるかよ普通、明日学校で話せばいいだけなのに。いや⋯⋯それはそれで面倒だな。クラスメイトに見られない分こっちの方がまだマシまである。


「それで料理は普段するの?」

「しますね。お母さんがほぼ家にいないんで」

「へー、めっちゃ偉いじゃん!」

「料理ぐらい誰でも出来ますよ」


 一瞬会話が止まったあと西宮さんは人差し指を自身に向けながら口を開いた。


「私⋯⋯出来ないんだけど」

「⋯⋯レシピ通りやってもですか?」

「うん、どこかで失敗する⋯⋯」

「ま、まあ経験も大事ですよ。西宮さんがしてる化粧と同じです」


 少しの気まずい雰囲気を無くそうとどもりながらも僕は声に出す。それと同時に西宮さんの顔を見ると僕が変なことを言ったみたいな顔をして不思議そうにきょとんとしていた。


「ど⋯⋯どうしたんですか?」

「私ほぼすっぴんだよ?」

「え、あっそうなんですか。化粧してるから顔が整ってるのかと思ってました」

「なんかひどー!」


 これでほぼ化粧してないのかよ⋯⋯素材良すぎだろ。


 西宮さんがやっと前を向き始めたかと思えば、何故か再度僕に顔を向けているのが視界の左端に映った。横目でチラッとだけ見ると目が合ってしまったので僕は即座に視線を前へ。


「もっと可愛い私が見たいなら、今度の日曜遊び行こ!」


 身を乗り出して強制的に僕と目を合わせてくる西宮さんに驚き咄嗟に上半身を後ろへ引きつつ、僕はそのニヤついた表情を見た瞬間──勝手ながら驚きというか身体の熱が一気に冷めた。


「別にいいです」


 もちろん断る。休みの日まで西宮さんと一緒とかさすがに耐えられない。


「古謝くんが化粧してるから可愛いと思ってたって言ったんだよー? 素で可愛いと化粧しなきゃ可愛くないを同時に言ってしまった⋯⋯これは私の本気を見せて思い知らせないと気が済まない!」


「それは⋯⋯僕が悪かったです。でも遊びに行くのはさすがに⋯⋯」


 手を西宮の方に出して遠慮してる感を演出しつつ、僕は人生初のギャルから誘いを断る。すると西宮さんは何か思いついたような顔をして人差し指を頬の横辺りに持っていった。


「じゃあ、古謝くんの好きな魔法少女カリスマのキュアフローゼに似せてメイクしてあげる!」


「⋯⋯っ! いやー⋯⋯えまってどこでそれを」

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