第2話 日陰から日向へ
「さあ! 早くも一着目がゴールしました! ですがお題が一致していないとゴール判定になりません。確認してみましょう、
僕たちが一番に到着したようで、ゴール地点には今放送が流れた黒城さんらしき人が待機していた。黒髪ロングにタレ眉で清楚っぽいけどギャル、最近流行りの清楚系ギャルというやつか。
「はい
西宮さんが黒城さんにお題の紙を渡すと黒城さんは「はいよー」と言いながら折りたたまれた紙を開き、口元にマイクを持っていく。
「お題は⋯⋯優しい人!」
⋯⋯なるほど。体育祭に明らか乗り遅れてる僕を気遣ったんだな。西宮さんはさっきそれを察知したわけだ、優しい人とか友達とかでいいわけだし。人目を気にしない西宮さんだから出来ることではあるけど。
「どう? 優しいっしょ」
「⋯⋯確かに」
確かにってなんだ確かにって。話したこともなければ顔も合わせたことがない僕を優しい人って判断するのか。
「合格! 保健委員なので優しいでしょう」
「当たり前じゃん!」
確かに僕をそう見ればここにいる全員が納得する。頭良いなこの人。
「じゃあ私たち邪魔にならないようこっちにいとくねー」
黒城さんから少し離れた所を指さしながら移動する西宮さんに、黒城は「オッケー」と一言。流れるように僕も西宮さんの後を追う。
「びっくりしたっしょ?」
口元に手を当ててニヤニヤ笑いながら僕の目を見る、スクールカースト上位のギャル⋯⋯どうすんだよこれ。今後の学校生活終わったかもしれん。
「びっくりしすぎて声も出なくなった感じ?」
「いやぁ⋯⋯それほどでは無いですけど」
僕がそう言うと西宮さんは顔にクエスチョンマークを貼り付けたような、何か気になることでも見つけたような顔をする。
「⋯⋯敬語、別に無くていいよ。ってか逆に新鮮? 私に敬語使う人この学校で先生ぐらいよ」
「不自然ってことか⋯⋯まあ、なるべく頑張ってみるよ」
「その調子その調子!」
借り人競争で西宮さんに連れられて目立った挙句、タメ口で会話を交わしているところを見られでもしたら⋯⋯うん、絶対面倒くさいことになる。
「あっ!」
「えっなに?」
急に声を発したかと思えば僕の目? じゃないな。額あたりをじぃーっと見つめてニヤニヤしている。一体何がしたいん──。
「ほいっ!」
「えっ⋯⋯
僕の額に巻いていた白の鉢巻を一瞬で解き、その鉢巻を西宮さんは隅から隅まで凝視している。
「あれっ? この
「そうです。というか急にどうしたんですか?」
「鉢巻交換してるから私と一緒にいるの、誰かに見られたくないのかなって」
「鉢巻交換?」
なんだそれ。
「知らない? 体育祭中に友達とか好きな人とか、これからも仲良くしたいなって人と鉢巻を交換すると大人になってもずっと仲良しでいれるっていうこの学校のおまじない」
「初めて聞いた」
「じゃあ女子と鉢巻交換してないんだ」
「女子というか、誰ともしてない」
「なんか⋯⋯ごめんね?」
手のひらを合わせて僕に謝る西宮さん。相変わらずその整った顔に気圧されるが、僕自身がこの場からかき消されることはなかった。それどころか、体育祭の一部になれている気がした。
続々とゴールした人たちがこの場に集まり、僕ら二人がこれ以上話すことは無かった。主に僕が西宮さんから距離を取ることで、面倒なことが起こらないようにしただけだけど⋯⋯視線をめっちゃ感じる⋯⋯。周囲の一部生徒からは予想していたけど、さっきまで真横にいた西宮さんまで僕を睨んでいる気がする⋯⋯。
その場に立っていることしか出来ない僕は、退場の合図をただ待つ。カカシのように無駄な動きはせず、息を殺して。
僕にとって地獄のような数十秒を体感したあとは席に座り、藤堂くんから貰ったジュースを片手に部活対抗リレーや三年生による男女ペアダンスなどを観戦する。やがて閉会式が始まり、体育祭は僕たち白組の勝利で幕を閉じた。
意外にも僕に対する陰口や嫉妬は体育祭というほかの大きな目標によりかき消され、面倒なことにはならなかった。帰り道、皆が仲良く友達や親と帰る中、僕は一人夕食のことを考えながら足を進めている。
ほらいつもと変わらない日常に戻った⋯⋯のか?
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