第325話 GC.D. 探索一日目の宿泊。


 アイナが魔力を操作するスキルを無事に得られたことに全員が安堵すると共に、今日のダンジョン探索はここまでとし、アレスたちは今夜の休息所を設営すると決定した。普段の優奈の探索で考えると中層で一泊するというのはまずやらないペースである。

 けれど今回はアイナがダンジョンの魔力に身体を慣らさせていくということも目的としていることや、普通の探索者たちの探索であればダンジョン探索初日の休息所の設営を中層終端部で行うというのは、割と基本の選択であるということだった。


「そもそも、優奈嬢はマップクリエイトなどでダンジョンの現在地の階層構造や敵の位置を常に把握していらっしゃいますが、多くの探索者はそういうことはできませんし、行ったりしません。ですので探索時は周囲を警戒しながら進まざるを得ないため、移動の速度も遅くなるため時間がかかるものなんです」

「狭いダンジョンや何度も行き慣れてて地図が頭に入っているダンジョンだったら、下層まで一気に行くこともあるけどね。

 それでも泊りで行く予定なら、戦闘が下層よりも楽で警戒もしやすい中層でキャンプ地を作るっていうのはよくある話よ」

「トラップにしてみても、ほとんどのダンジョンだと中層であれば命に係わるようなものはでてこないからね」


 オルター教授からだけでなく、茜やアレスたちからもそう説明される。


「ダンジョン内での安全なキャンプというか宿泊ってことなら、私の影の中の世界で休むという手もありますけど……?」


 おずおずとそう優奈が提案するのだが、それにはアレスが苦笑して断りを入れた。


「たしかに優奈嬢の世界で休ませてもらえるのなら、ダンジョンのモンスターからの襲撃の心配は無くなるけれど……それだとアイナのためにならないからね。

 アイナは今回が初めてのダンジョン探索でもあるのだから、下層に行く可能性が高い明日からはともかく、少なくとも初日くらいは一般的な探索者としてのダンジョン内での宿泊の仕方を経験させて苦労や一般的な感覚を理解してもらう方が良いと思うんだ」


 アイナちゃんのことを引き合いに出されてそう言われてしまうと、優奈としてもそれ以上の異を唱えることはできない。それに自分としてもこんな風に他の人と一緒にダンジョンで普通に宿泊する経験はしたことがなかったので、優奈もアレスやアイナたちと一緒にダンジョン内で宿泊してみることにした。わりと優奈も、一般的な探索者のダンジョンキャンプのやり方と言うものに興味があったりはしたのだ。



  *   *   *


「じゃあ、ここを今夜のキャンプ地にするとしよう」


 そう言ってアレスたちがキャンプ地として選んだのは、通路の行き止まりとなっている小部屋であった。これは仮に徘徊するモンスターから襲撃されることがあった場合でも、その侵入路の方向を限定させ護りやすくするためだという。

 そうしてモンスターの襲撃方向を限定しておくと、次に鳴子などの警報装置を時間を置いて複数設置していく。時間を置いて複数設置していくのは、例え警報装置だとしても一定時間放置しているとダンジョンに吸収されてしまうためだ。だから定期的に不寝番で起きている者がチェックしてもしもダンジョンに吸収されていた場合は新しいものを張りなおすのだが、その際に鳴子がまったくゼロにならないように時間を置いて設置しているのだということだった。

 また、不寝番は交代で行い、常に二人以上の者が起きておくことにするのだという。一人だとうつらうつらと眠くなってしまうことがあるかもしれないが、複数人であれば話をしたりすることで眠気を誤魔化すことが可能だからだ。

 組み合わせは基本的に前衛と後衛が一人ずつとして、焚火をする場合は火の番もその者たちで行うということだった。


「この場所のように天井がある洞窟のエリアでは窒息を避けるためにも基本的に火を使ったりはしないんだけどな。

 この先の下層のように、空間が広い場合であれば二酸化炭素による中毒の心配が無いため、火を使うようにすることが多い」


 中層でのキャンプの場合、それも小部屋のようになっている空間の場合は、二酸化炭素中毒を避けるため、火は基本的に使わないのだという。そのため、食事は地上から持ってきた弁当類や缶詰を使うのが基本らしい。また、食後のゴミは荷物にもなるのでまとめて放置してダンジョンに吸収させる探索者がほとんどではあるのだが、W.D.Cの場合は原則的にきちんと持ち帰るようにしているのだということだった。


グランドキャニオン・ダンジョンここみたいに入場制限がかかっているダンジョンであればともかく、そうでないダンジョンだとゴミとして放置した場合、ダンジョンに吸収されない間は他の探索者やモンスターに自分たちの痕跡を残すことになるからな。不要なトラブルを避けるためにも極力、跡を残さないようにするんだ」


 後をつけられて悪質な者やモンスターに襲撃されてしまう場合もあるし、そうでなくても逆に寄生のように後を追いかけてきてW.D.Cのメンバーが倒した後のモンスター素材のおこぼれに預かろうとする者たちが居るから警戒しているのだという。

 そういう者たちに痕跡を残して後を付けられないようにするために、ゴミについてもW.D.Cではなるべくきちんと回収しているのだということだった。

 また、それに加えてW.D.Cの場合は、弁当類については食べた後に軽く洗えば素材収納ケースとして使えるよう工夫が施されているのだという。だから素材の持ち帰りにも使えるといった点からも、わざわざ捨てる必要というのはほとんど無いということだった。


「逆にこんな基本的なことに驚いてる優奈嬢の場合は、普段はダンジョンキャンプをする場合はどうやって過ごしてたんだ?」


 そうグレアムに尋ねられて、優奈は自分の探索の場合を思い出す。


「えーっと、まずダンジョンの中で泊まる場合は、ファレンさんや花織ちゃんたちと梅田ダンジョンでやったみたいに、影の中の世界に潜ってあっちで寝起きしてますね」

「…………」

「もしくは、新宿ダンジョンでやったみたいに、シールドを周辺に張ってモンスターが入ってこれないようにした上で、寝たりしてるかなぁ。景色がいい所とかお日様でぽかぽかするとこだと、そういうのを良くやったりしますね」

「…………」

「あと深淵とかであれば、特殊ルールが無いタイプの階層だったらクーちゃんとかを呼んで一緒に寝たりすることもありますねー」

「…………なるほど」


 優奈が自分のダンジョン内宿泊方法について挙げていくたびに、だんだんとそれを聞いているグレアムやアレスたちがジト目になっていってしまった。


「あ、あれ? どうしました??」

「あぁ、うん。気にしないでくれ。

 ――参考にならないと、そう再認識しただけだ」


 若干、呆れたようにグレアムにそのように言われてしまったのだが、優奈にも言い分はある。


「だ、だってあっちで寝泊まりする方が安全ですし、寝るためのベッドもちゃんとあるから快適だし、ご飯だってミーナさんとかが作りたてを用意してくれるから栄養満点で美味しいんですよ! それにお風呂もちゃんと有りますし!!」

「……ダンジョン探索で、ベッド……作りたてのご飯……お風呂……」

「なるほど、それなら優奈嬢が各国からの勧誘や交渉を避けるのにダンジョン内に逃げ込んでいたはずですね」

「しかも優奈ちゃんの場合、服とかもクリーンの魔術で綺麗にするんでしょ?

 食材は食べられるダンジョンモンスターを狩ればどうにでもなるんでしょうし……そりゃ、そうするわよね」


 ははははは、と乾いた笑いを浮かべるしかない茜たちとアレスたちであった。

 一方でアイナはそんな優奈の話を聞いて、


「一度、優奈さんの世界にも泊りに行ってみたいです!」


と目をキラキラさせていた。


「じゃあ、明日はアイナちゃんの体調に問題がなかったら、私の自創造世界クリエイト・マイ・ワールドの方で寝泊まりしてみましょうね!」


と彼女に提案し、明日は優奈の影の中の世界の方に宿泊してもらうことを改めて決定としてもらったのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


茜「ちなみに普通の探索者がダンジョン内で寝る時は、毛布で身体を包むか敷いてその上にゴロンって横になって寝るかのどちらかね」

春香「不寝番の時以外は、靴も鎧も全部外して横になるんです。

   そうしないと身体がリラックスしてくれなくて、休息になりませんから。

   ただ、その代わり襲撃された時に無防備になってしまいますので、不寝番の人は襲撃があった場合は時間稼ぎを念頭に行動しないといけないんですよ」

りんね「パーティーによっては、警報のトラップ以外にも、休息所にする部屋や通路の入口側に止水板みたいな板を持ち込んで、襲撃された場合に時間稼ぎのための簡易バリケードとなるものを作ったりすることもあるわね」

千鶴「よく代用品として土魔術で壁を作ろうとする人も居るんですが、魔術で作った壁はわりと早くダンジョンに吸収されてしまいますので、効率が悪くてすぐにやらなくなるんですよ」

アレス「ちなみに板などの代わりに網を通路に張ることもあるな。

    多少の時間稼ぎになるからだね」

オルター「過去に日本のトリモチを参考に、入口に粘着性の液体を撒いて使おうとしたパーティーも居ましたが、移動予定時間になってもダンジョンに吸収されなくて困ったり、モンスターに飛び越えられて逆に自分たちが逃げられなくなったりで散々な目にあったという事例もあったりします」


優奈「めんどくさいからシールドで良くないですか?」


スカーレット全員「「「「持続時間・耐久度的に、それができるのはたぶん優奈ちゃんだけだから!」」」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る