お手軽豆盆栽

豆盆栽というものがある。

豆盆栽とは…

手のひらサイズの小さな鉢に、ちんまりと土を盛り細かい種を5つ程まぶし埋めて、いずれ出る芽が育ちゆくのを楽しむ…お手軽な松の盆栽のことだ。

ショッピングモールの一角にある、お香が漂う和テイストのイケてるショップにてひっそりと豆盆栽は販売されていた。「こんな小洒落た雑貨屋さんで売ってるような植物は育たん」という偏見を持つわたしは一旦豆盆栽をスルーした。錦鯉が跳ねてるちりめんのポーチを手に取り値札を確認して「ッ」と小さく呻き高級品を傷つけないように商品棚に丁寧に戻したりしていた。



〝豆盆栽 500円〟




あまりにも庶民に寄り添ったお値段にほっとしていると、同居人が「盆栽楽しそうだよ興味あるな」というので、黒くてツヤツヤした黒豆みたいな鉢の豆盆栽を購入した。まあ盆栽とか素人が育てられる代物ではないだろうがな!ウン百万する盆栽とかゴロゴロ売られてるし職人技なんだろう!と割り切りながらも、育ったらかわいいかもな〜とこっそり思った。





ピョコリ。ガチで発芽した。

ココア色の帽子みたいな皮を被った緑の芽が「こんにちは」と控えめに土のお布団から起床した。


か…っかっわい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


写真をいくつも撮って、1番力強く凛々しく見える角度の写真を出張中の同居人にLINEで送りつけた。既読がついてすぐ「うお〜!」と歯止めのきかぬ喜びで語彙が消滅している返信がきた。






名前つけないとな。


松の盆栽だから、松っぽい名前にしよう。

ちょっとひねろう。

センスの見せ所だ!


松…まつ…マツ…MATSU…。





よし決めた。





今日から豆盆栽、キミの名前は…









ヒトシ・デラックス だ!





「あえて松要素を外すことで、松を際立たせてみたんだけど、どう?」


出張先から帰ってきた同居人は問いかけに無言でお茶を啜っていた。




ヒトシ・デラックスはすくりすくり育っている。

緑の芽は伸びて枝分かれして、タコの足のように広がったかと思えばさらに枝分かれは加速して、キリンのまつ毛程に伸び広がっている。


同居人は太陽光が差し込む位置が変わるたび、部屋で1番日当たりの良い位置にヒトシ・デラックスを知らぬ間に移動させるので、わたしからしたらヒトシ・デラックスは神出鬼没。



ある時ベランダに現れ、風に吹かれてピロピロなびいていた。

ベランダのひだまりの中で気持ち良さげに見えた。


フフ…。可愛い…。豆盆栽買って大正解だった。



ビッグになれよ…!人志・デラックス!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る