僕と七不思議
朝昼 晩
はじまり
「夜の学校に忍び込もう」
目の前の友達は、いきなりそう言った。
昼休み、いつもの空き教室で弁当を食べていたときである。
突然のことで、唐揚げを掴んでいた箸が止まってしまった。
「もがもがもがもが」
「ごめん、食べてからでいいよ」
許しが出たので、食事を再開する。
友達の名は、清水さん。クラスどころか、学年もわからない、とてもミステリアスな人。セーラー服が似合う、僕の唯一の友達である。
ごくり、と噛んでいた物を飲み込む。
「なんで?」
「だって、面白そうだから」
彼女は、さらりと答えた。
それに対して僕は、ふーん、と他人事のように返事をした。
「いや、君も一緒に行くんだよ」
他人事じゃなかった。
「僕はやめておくよ、清水さん。君が一人で行けばいい」
「君は、うら若き乙女が一人で夜中に出歩くことに、何とも思わないのかい?」
「なら、やめたらいいのに……」
「友達だろ? 付き合ってくれよ」
「…………」
彼女の言葉に、ため息をつく。
清水さんと出会ったのは、中学に入学したばかりの頃。
自分から声をかけるのが苦手な僕は友達ができず、昼休みの教室に居づらくなってしまい、弁当を持って便所に向かった。
そう、便所飯である。
一人になれる場所を探し回った結果、そうなってしまったのだ。
決して、一人の寂しさで気が動転していたわけではない。
そんな時に、清水さんは現れた。
便所の前に仁王立ちで。
「せっかくの弁当を、こんなところで食べようとするなよ。どうせなら屋上で食べようぜ、私が一緒に居てあげるからさ」
「男子トイレですよ、ここ」
屋上は立ち入り禁止だし。
こうして、僕らは友達になった。
あの時、彼女がいなければ、今頃僕は毎日便所飯だっただろう。
僕にとって、清水さんは命の恩人に等しい。
故に、彼女の頼みを断ることが、僕にはできないのだ。
「それに、ただ忍び込むんじゃつまらないからね。いろいろ調べようと思うんだ」
「調べる? 何を?」
「学校の七不思議、ってあるだろう?」
清水さんが楽しそうに話す。
「あれがね、この学校にもあるらしいんだ」
「らしいって……、そんな曖昧な」
「噂話なんだから当たり前だろ?」
曰く、この学校の七不思議は、次の7つらしい。
その1、動く銅像。
その2、踊り場の鏡。
その3、増える階段。
その4、笑う肖像画。
その5、勝手に鳴る楽器。
その6、喋る人体模型。
その7、トイレの花子さん。
「……なんか、王道と言えば王道だけど」
気になる部分もいくつかある。
というか、最初にきそうな「トイレの花子さん」が最後なのは、どういうことなのだろうか?
「つまり清水さんは、その七不思議の謎を解き明かすために、学校に忍び込もうとしてるんだね?」
「そう言うこと」
確かに、面白そうではある。
気乗りしないけど。
「まあいいや。とにかく僕は、君についていけばいいのかな?」
「おや、いいのかい?」
意外そうにする清水さん。
「てっきり、君は断るのかと思ってたよ」
「じゃあなんで誘ったんだ……。別に、うら若き乙女が夜中に出かけることが、心配になっただけだよ」
嘘だ、心配はしていない。
断りたくなかっただけだ。
「それで、どうやって忍び込むつもり?」
「そこは任せてよ。私にかかればちょちょいのちょいさ」
なにやら方法があるらしい。
不安しかないが。
「そんなことより、君にはやってほしいことがあるんだ」
「懐中電灯なら持っていくけど」
「助かるけどそれじゃない。君には教室に忘れ物をしてほしいんだ」
「忘れ物?」
何故そんなことが必要なのかと、僕は首を傾げる。
「見つかった時の保険だよ。ほら、言い訳ができるだろ?」
「なんで僕が……。清水さんがやったんじゃダメなの?」
「やだよ、忘れ物したくないもん」
清水さんは当然のように応えた。
なんて自分勝手な。
「それに私は何か忘れても、まぁいっか、でほっとくタイプだからね。先生は納得できないだろ」
「そうかなぁ」
そんな性格なら、逆に納得しそうだけど。
僕なら納得する。
そうこうしているうちに、チャイムが鳴り響く。
気付けば、僕の弁当箱も空になっていた。
「さて、それじゃまた放課後にね」
そう言うと清水さんは、教室から足早に去っていった。
いつも思うが、食後の余韻はないのだろうか。せめて、一緒に授業へ戻りたいのだが……。
「って、僕も急がなきゃ!」
僕は急いで弁当を片し、自分の教室に向かった。
約束通り、何を忘れ物にしようかを考えながら。
「あ、集合時間聞いてないや」
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