第3話 幽霊脱税事件
「幽霊ってさ、税金払うのかな?」
帰り道、先輩が例によって妙なことを言い出した。
「また唐突にどうしたんですか。」
「いやね、昨日テレビで心霊特集を見てたんだけど、幽霊が『ずっとこの家にいる』って言ってたの。で、ふと思ったんだよ。」
「何をです?」
「その家、住民税とかどうなってるんだろう?」
突拍子もない話に戸惑いつつも、放っておくと面倒なことになるのはわかっているので、とりあえず付き合うことにした。
「じゃあ、幽霊が課税対象かどうか考えるにあたって、幽霊の特徴を整理してみませんか。」
「おお、いいね! 君、やる気あるじゃん!」
仕方なしに自分の知識の中で幽霊に関する特徴を箇条書きにしてみた。
1. 物理的な存在がない。
2. 物理的な物には基本的に干渉できないが、例外もある
3. 社会的制度や法律の枠組みに含まれていない。
4. 基本的に収入がない。
5. 意思を持っているかは不明だが、意図を示す場合がある
「こんなところでしょうか。」
「なるほどね。これを一つずつ見ていこう!」
1. 物理的な存在がない
「まず、物理的な存在がないなら税金は無関係じゃないですか?」
「でもさ、『存在しない』とは言い切れないでしょ? 実際にそこにいるって言う幽霊もいるわけだし。」
「それを証明するのが難しいんですよ。幽霊の存在が証明できない以上、税務署も動けないでしょう。」
「証明できないからって課税しないのは、なんかズルくない?」
「ズルいも何も、幽霊がズルをしているわけじゃないですよ。」
「でもね、物理的な存在がないからって、その家に影響を与えてないとは言えないじゃん。幽霊って、基本的に人が住んでた場所にいるよね。つまり、そこに住み続けてるってことじゃない?」
「でもそれって、物理的に居住してるわけじゃないですよね。」
「いやいや、家を占有してるようなもんでしょ。だって幽霊がいるせいで、その家が事故物件扱いされるんだから。」
「うーん、それは確かに……間接的に影響を与えてますね。」
2. 物理的な物には基本的に干渉できないが、例外もある
「幽霊が物を動かしたり、音を立てたりするのってどう思う?」
「稀な例ですけど、干渉できる場合もありますよね。」
「ってことはさ、幽霊が実質的にその家を使ってるとも言えるよね?」
「いや、それは『たまに訪れる人が勝手に物を動かした』程度の話じゃないですか。」
「でもさ、それが頻繁なら居住者じゃない?」
「いやいや、頻繁かどうかを誰が確認するんですか。」
3. 社会的制度や法律の枠組みに含まれていない
「幽霊って、法律上どういう扱いなんだろう?」
「存在しないものとして扱われてますよ。そもそも法律は生きている人間に適用されるものですから。」
「でもそれっておかしくない? 幽霊がいるって信じてる人がたくさんいるのに、法律が無視するなんて。」
「いや、法律って基本的に証明可能なものに基づくんですよ。」
「じゃあさ、幽霊を法律で認めるための新しい枠組みを作るべきじゃない?」
4. 基本的に収入がない
「幽霊ってお金持ってないよね。」
「当然ですよ。幽霊に仕事の機会なんてありませんし。」
「でも、幽霊がいるって話で心霊スポットとして観光収入を得てる場所とかあるじゃん?」
「それは幽霊自身が稼いでるわけじゃなくて、人間が利用してるんですよ。」
「でも、それって幽霊が間接的に稼いでるとも言えない?」
「うーん……まあ、理屈としてはゼロじゃないですけど。」
5. 意思を持っているかは不明だが、意図を示す場合がある
「幽霊って自分で何かを決めて行動してるのかな?」
「未練があるとか、特定の目的がある場合は行動しているように見えますけど。」
「もし意思があるなら、『納税する』って選択もできるよね。」
「選択肢としてはそうですが、幽霊が納税の意思を持つのは……ちょっと想像しにくいです。」
「それは偏見だよ。幽霊だって、社会の一員になりたいかもしれないじゃん。」
結論:幽霊に課税できるか?
「結局さ、幽霊は家に影響を与えてるし、存在を無視するのはフェアじゃないと思うんだよね。」
「でも証明できない以上、課税の対象にはならないと思いますけど。」
「それなら、幽霊の存在を証明する制度を作るしかないね。」
「その制度を作るのがどれだけ大変か考えたことあります?」
「まあ、面倒だけど、それを乗り越えたら幽霊も堂々と税金を払えるよ!」
「堂々と税金を払いたい幽霊って、聞いたことないですね。」
そんなことを言ったら、ゴキブリやネズミにだって課税の必要が出てきそうだ。ただ、これ以上話をややこしくすると先輩が止まらないと思った僕は口をつぐんだ。
そんなこんなで、今日もいつもの帰り道を先輩と歩く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます