桐壺の更衣になるはずだった私は受領の妻を目指します

白雪の雫

第1話







 皆さんは輪廻転生というものを信じているでしょうか?


 私は信じていませんでした。


 少なくともそれが許されるのは漫画や小説といったサブカルの中だけだと思っていたわ。


 輪廻転生って本当にあるのですね~。


 えっ?


 何故、そんな事を言い出したのかって?


 それは・・・私の身に起こったからよ!


 しかも、とある長編小説をベースにした乙女ゲームに似た世界に!


 何言ってんだ、こいつ?と思うかも知れないけど、私の話を聞いて欲しいの。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 私の名前は水瀬 美月。


 これは今の私の名前です。


 本当の名前・・・と言えばいいのでしょうか?


 前世の私の名前は桐谷 瑞穂。


 中学・高校時代は空手の全国大会で優勝、大学を卒業してからは会社で働いていたけど子供が産まれたのを切っ掛けに専業主婦になった美容オタクなアラフィフ女性だったの。


 美容オタクといっても休みの日は夫と子供達の為に豆腐や大豆で何ちゃってチキンナゲットや鶏の唐揚げ、雑穀米といった身体にいい料理を作ってそれを動画に投稿したり、気が向いた時は自分で酵母と味噌と醤油を作ったりもしたわね~。


 時間があれば自分でシャンプーにコンディショナー、石鹸に化粧水に日焼け止めクリームだけではなくアロマオイルを作ったり、自作したアロマオイルでマッサージをしたり、アロマオイルを垂らしてバスタイムを楽しむというくらいね。


 そんなアラフィフ女な私こと桐谷 瑞穂はどうやら【平安艶話~光源氏の恋~】という源氏物語がベースになっている乙女ゲームに似た世界に、それも・・・桐壺の更衣と呼ばれる女性として転生したらしいの。


 何故、入内したら桐壺の更衣と呼ばれる女性に転生したのかが分かるのか?


 だって、今の私の父親が按察使の大納言で母親が皇族という人なの!


 桐壺の更衣ってあれよね?


 按察使の大納言が生きていれば女御として入内出来ていたかも知れないのに、父親が居ない為に更衣として入内するしかなかった、帝に愛されちゃったが故に妃達だけではなく公達からも非難されていた大納言家の姫にして主人公である光源氏の母親。


 そして主人公が母親の面影を求めて数多の姫達に手を出すと同時に、彼女達を苦しめ不幸となる切っ掛けともなった女性──・・・。


 ゲームでは父親の遺言から幼い光源氏を残して逝くところまでが語られるけど、実は後見人が居ない状態で入内する前に私を心配して保護しようとしてくれている年上男性の存在が語られているし、彼の立ち姿もちゃんとある。


 しかも美月は彼に想いを寄せていたらしい描写もあるの。


 その男性は智寿という大国の受領で超金持ち!長身のゴリマッチョ!しかもセクシーな低音ボイス!


 実は女性受けしそうな顔立ちに1980~1990年代のBLでは間違いなく受けに認定されると言えばいいのか、受けの宿命を背負っているとでも言えばいいのか、女性は上手く描けても男性の肉体を描くのが苦手な漫画家やイラストレーターが描いたと言えばいいのか───少女漫画チックな華奢な体型をしている帝や光源氏、頭中将達といったキャラよりも、精悍な顔立ちに筋骨隆々で『兄貴ーーーっ!』と慕われそうな智寿様が推しだったのよね~♡


 智寿も実は任地へと赴く前に美月に『入内するのは止めた方がいい。亡き大納言に代わって自分が姫を護るから自分の妻になって欲しい』と言っていたのだけど、私・・・というかゲームの美月は『父の遺言があるからそれは出来ない』と涙ながらに断ったの!!


 プレイしていた瑞穂だった頃の私はこう思ったわ。



 美月・・・プロポーズを受け入れて智寿様と一緒に任地へと行った方があんたの為だぞ!



 って。


 父親が居ないのに入内するから女御達から馬鹿にされるわ


 身分が低いのに桐壺帝に気に入られているという理由で陰口を叩かれるわ


 後宮の女達から陰湿に虐められるわ



 要するに入内しても美月にしてみれば何も良い事などないのよ!


 その点、智寿様は明石の入道のようにずっと任地に居て巨万の富と武力を築くの。


 何より!


 地方は都と比べたら食生活が豊か!


 行動が占いで縛られない!


 つまり自由!


 自分の好きな時にお風呂に入れる!


 私が美月だったら入内ではなく智寿様を選ぶわ~。


 私の趣味はどうでもいいとして・・・【平安艶話~光源氏の恋~】というゲームについて説明するわね。





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