第26話 槍投げ君の最後
俺たちは傷ついた槍投げ君の後を追う。
彼はたまに振り返ってはこちらの方に槍を投げてくるが、仕掛けが分かった今では盾で『嫌な感じ』をしたところを盾でガードしてから手でつかむと難なく対処出来る状態になっていた。盾でガードしなくてもキャッチできそうだな……
投げる瞬間を見ると、ただの狙いの良い槍投げになるんだな……このスキルは投げたところを見られない場合に最大限の力を発揮するんだな。不意打ちにもってこいのスキルみたいだ。
正直なところ自動的にモノを標的に当てられるスキルなら……もっといろいろ出来るはずなのに……何でやってこないんだ?
ナオエさんがあまり聞いたことのない低い声音で俺に話しかけてくる。
「……どうしよう? この距離だったもう止め……刺せるけど……」
「やれるかい?」
「……ちょっとだけ覚悟させて……」
「……俺がやろうか?」
「不動君のスキルの距離だと……ちょっと遠いでしょ?」
「まぁ、もう少し近づきたいかな……」
妖魔に対しては容赦なく『伸びる』槍を突き刺していたナオエさんだったが、さすがに人間に対しては抵抗があるようだった。
俺の『固定』も距離が伸びたとはいえ、確実に相手を倒したいなら十メーター以内の距離で使用しないと帰りのSPが不安になる。強力なスキルだけど距離による消費上昇が多すぎなんだよね……
森の中をしばらく追跡すると槍投げ君の動きが遅くなり、ポーチから取り出した槍を投げずに落とし始める……しまいには立ち止まってしまう。
「ぜぇ、ぜぇ……ま、まってくれ、見逃してくれっ!!」
あれだけ攻撃してきて今更……と思う。
と、言うより初めてちゃんとした言葉を聞いた気がする。
そして背中に感じる『嫌な感じ』さっきわざと落とした槍を操作してる感じか……はぁ……やらないとだめか……
俺は振り返って盾で飛んできた槍を打ち払い槍をつかみ取る。それと同時に『嫌な感じ』がする感覚が頭や手足に同時に現れる。槍の複数操作?? 慌てて槍投げ君を見ると……
ガンッ!!
強烈な音と共に槍投げ君が吹き飛ぶ。ナオエさんが槍の柄を伸ばして頭を強烈に殴ったようだった。それと同時に『嫌な感じ』が完全に消える。
「く、くそっ……なにが……い、いてぇ……揺れて……なんだこりゃ……」
初めて槍投げ君の表情、というより顔を見た。普通の高校生男子に見えた。
バトロワに参加している人たちは……普通に……人を殺せるんだよな……覚悟を決めないと……?
……なんだ?
この『嫌な感じ』は?
ドーン!ズザーー--ッ!!! バグン!!! バギッ!!!
「うわっ! ガゴケッ!」
突然、槍投げ君の背後からいつだか見た記憶のある巨大ワニ恐竜が出現し、槍投げ君を噛み砕いた後、丸呑みしていた。その勢いのままこちらの方へと突撃してくる!
俺らも標的か!!
「えっ? なっ?」
「やばい! 逃げるよ!」
一瞬呆けて動けなかったナオエさんを肩で抱きかかえ、真横に一目散に逃げる。ああ、モンスターハンターみたいにいかないな……現実だと追尾してくるよな、そりゃ!!
俺はダイブして大木の陰に逃げ込む。
ドーーン!!!
大木の根っこが衝突で浮き上がってる! どんだけのパワーだ!
『固定』!
巨大ワニ恐竜とぶつかった大木を『固定』する。
少しは足止めになってくれ!!
「ナオエさん、上へ!!」
「わかった!!」
状況を把握したナオエさんの「伸びる」で隣の木の枝まで緊急離脱をする。
巨大ワニ恐竜は体をぶんぶんと振り回し『固定』した大木を振り回そうとする。
SPがゴリゴリ減っていく感覚がある。今まで感じたことの無い減り方だ! それだけこの怪物が強いのか?
バギィッ!!!
大木の根っこが抜ける前に、木の幹が砕けた。いや、『固定』された木の部分だけがはがれた。かなり力を込めていた様で、巨大ワニ恐竜がつんのめって転がる。
すぐさま『固定』を解除する。
転がった先は土の地面……『固定』しても意味がない……
……こりゃ逃げの一手だな……
「ナオエさん、木の上を伝って逃げよう」
「わ、わかったわ!」
「グギャー!!! ギエェー--------!!!」
巨大ワニ恐竜は突然叫び始めた。
何事かと見ていると、巨大ワニ恐竜の腹が膨らみ始め、腹が裂け始め、体内から尖った槍が出てきたり、口から砕けた木……家具や丸太やら、生活必需品らしきなにやら飛び出してくる。しまいには水と妖魔の死体が大量に出てくる……何が起きてるんだ??
「ね、ねぇ、これなに? なんなの??」
「……あ」
俺は巨大ワニ恐竜の口から出てきているものに心当たりがあった。
四次元収納ポーチの中身だ。
確かアーゼさんの話によると、死んだら中身のものは全部外に出てくると……
俺は慌ててログを確認する。
【Player:SoulReaver42 が魔獣によって殺された。Pos<01235. 0050. 01378>】
【Player:SoulReaver42 のエーテルを回収。HP+0.55 MP+0.62 STR +0.41 DEX +0.35 AGI +0.42 INT +0.71 MND +0.51 SP+1.35 ……】
【魔獣ヒュージ・フォレスト・リドサウルス を討伐 HP+4.05 MP+5.02 STR +4.01 DEX +3.05 AGI +4.21 INT +7.13 MND +5.14 SP+10.89 ……】
「槍投げ君が死んだんだ……腹の中で。四次元収納ポーチのの中身が全部あいつの腹の中で出たから……」
「……なるほど……中から中身が全部飛び出して……爆発したようなものね……」
俺たちはしばらく呆然とする。
事態の急展開に頭が付いていかなかった。
いきなりのピンチでパニックになっていた。
あのまま襲われていたら……どうなっていただろうか? 上手く逃げれただろうか……
そんな事を考えていると、倒れた巨大ワニ恐竜の横に白く輝く光の玉が出現する。
……ああ、スキルオーブ? 巨大ワニ恐竜から出てきたなにか? どっちだ?
「あれがスキルオーブ?」
「うん……あ、早くとっちゃって!」
ナオエさんが俺の背中をグイっと押す。ちょっと待て、今は木の上だ。
なんかナオエさんが焦ってるような?
って? なんでそんな簡単に?? これって物凄い価値だよ? 俺の年収より価値あるんだよ??忘れちゃったとか? ナオエさんもパニックになってるのか?
「え、えっと、あれ取ったら一千万円なんだよ?」
「え? あー、違う! お金の問題じゃなくて、カタシくんが持った方が私が安全だからよ!」
「……え?」
「遠距離攻撃できないでしょ? カタシ君が持った方が良いって!」
そりゃ言ってることはわかる。
俺のスキルは近ければ近いほど扱いやすいスキルだ。
今回も槍投げ君のスキルがあればかなり簡単に彼を仕留められたと思う。
最近は全部ナオエさんが妖魔やってるし……って、確かに俺が持った方がパーティとしてはいいな……ナオエさんはもう遠距離攻撃できるし……物凄く強い……だけど……
「あー……でも、一千万円だよ?」
「あっちの世界に戻ったら半分貰えればいいから! 早くとって!!」
「あ、いや、でも、ちゃんと話し合った方が……」
「優しいのはわかったから! プレイヤーの殺された場所が座標に出るからすぐに他のプレイヤーが来るの!! 危険なの!!」
プレイヤー???
あ、そうかポジション……近ければ俺ですら取りに行こうと思ってたんだった。
ってことは……ここがプレイヤー同士の戦いの場になる。
「あ……そうか!!!」
「行って!」
「わかった!!」
ナオエさんが俺を抱きかかえて『伸びる』でゆっくりと木の上から着地する。なんか……とても軽々と俺を抱きかかえてたような……
大量の妖魔の死体と槍、色々な生活必需品が山となった場所を上る。
俺はナオエさんをちらりと見る。表情がものすごく真剣だったので、半ばあきらめて光り輝く玉を手に取ろうとする。
不安になってナオエさんを見るが、周囲をきょろきょろして早くしろといった表情になっていた。
えっと、どうすればいいんだこれ?
【プレイヤーがスキルオーブに触れるとスキルが取得できます】
……ありがとうアーゼさん……なんか落ち着いた。
【どういたしまして】
俺は意を決して光る玉に手を伸ばす。
【スキル『自動追尾』を習得しますか? Yes / No 】
やっぱり自動追尾だったか……俺は Yes を選択する。
何かの力が俺の中に吸い込まれていく……光は消え、夕暮れの森が普通の明るさになっていく。
【スキル『自動追尾』を習得しました】
成功したみたいだな……さてっと説明書をみないとな……ええっと、スキル『自動追尾』……
「早く逃げよう! なるべく人のいない方へ!」
「え、説明書……せめて素材回収を……」
「そんな事やってる暇ないから!!」
ナオエさんの剣幕に押されて俺はしぶしぶ諦め、後ろ髪をひかれながら来た道を急いで戻っていった。
ああ、あれだけの大量の妖魔の槍……欲しかったな……投げ放題じゃないか。
しかし、槍投げ君はどれだけの妖魔を狩っていたのだろうか……
ステータスに自信があったから俺たちを狩ろうとしたのか……
脱落したから彼の考えはもうわからないな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます