第91話

キョトンと見つめるあたしに



「マジで分かんねぇの?」



と耳元の髪を、くしゃっと優しく触りながら悲しそうに言う。



そんな顔を見せられると、あたしは必死で探してしまう。



王子が欲しがってるあたしからの「言葉」




言葉…





え…



もしかして……













「キ…ス…」



ゆっくりと囁く。



「…の反対」







「…違う」



強い瞳がだんだんと近づいて、あたしのおでこに王子の額がくっつく。




「ちゃんと聞きたい」




額を当ててあたしを見つめるから、王子の綺麗な瞳がますます丸く大きく見える。



男の上目使いも…

はっきり言って武器だよ…




人差し指を曲げてそっとあたしの唇をなぞる。




きゅんと鳴るあたしの心。



(ズルイよ…自分はそれしか言ってないのに…)





「聞かせて」




強い口調のくせに、瞳は優しくて、あたしはいつもこのギャップにやられてる。




思惑通りになんて動きたくないのに、動いてしまう。



あたしのこの唇。





「…好 き…」






視線は合わせたまま、溢れたこの想いに、王子が微笑んだ。





微笑んだ…





ニヤリとか口の中で笑うあの笑いじゃなく、にっこりと笑う表王子の笑顔じゃなく、王子が微笑んだ。





パァッと染まるあたしの頬に


「何で千亜稀が嬉しそうなのι」


と王子自身が気付いていない!





(可愛い!可愛い!)




手の平に顔を埋めて悶えていると、王子の片手にまとめられたあたしの両手。





ゆっくりと重なる唇が、いつもよりも、しっとりと優しい。




王子があたしの胸元のボタンに手をかけた。




.

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