第3話畏怖の呪い

「そうか、残念だ。でもね、君を諦めるのは勿体無い。だから、君が僕を求めるようになるようにしてあげるよ」


まずい。

そう思った矢先だった。

唇に冷たい感触が伝わる。

瞬きする合間に背後にあった彼の姿が目の前にきていた。

長いまつ毛で隠れるような目が私を捉え、唇は塞がれている。

何が起こったかわからないとはこのことだった。

一瞬の間にたくさんの出来事が起こりすぎて追いつけない。

ただ、体の中が軽くなっていくのを感じた。


「ふふ、これで君は僕しか見えなくなる。僕のことだけを考えるようになるだろう」


言葉が言い終わらないうちに体の自由が効くようになり、男を弾き飛ばした。

唇を奪われたとかそんなことはこの際どうでもよかった。

ただ自分の身に何が起こったのか整理するだけで精一杯だった。


「何をしたの?」


「少し、僕の力を分けたのさ。これで君は老いない、死なない体になった。いわゆる不老不死だ。君に似合う男はこの先僕だけだろう」


「不老不死……?」


まさに人間が成し遂げられるはずない課題だった。

それでも説得力があるのはこの異常なまでの体の軽さ。

宙にでも浮けそうなほどまでに軽い。


「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はヒース。いずれ歴史に名を刻まれる男だ。そして君はいつしか僕を求めにやってくるだろう。その時まで僕は気長に待っているよ」


このままでは私の生活が壊れる。

そう思って軽くなった体を男に向け、精一杯の力で拳を握り上げた。

けれど、その拳は瞬く間に握られて、包みこまれる体制となった。


「大丈夫。これで僕と君の時間は永遠だ。焦らなくても逢瀬の時まで存分に僕を想ってくれ」


「ふざけないで!」


振り返ると、そこには誰もいなかった。

まるで最初からいなかったかのような静けさが戻ってくる。

ただ身体中に響き渡る鼓動の音。

それがこれからの未来を予感させていた。

私はきっと「普通の幸せ」を手に入れられないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る