第5話 男子苦手な女子
麗美さんと水族館に行った日から次の登校日。学校に行くと麗美さんとすれ違った。
「あ、猪瀬君。おはよう」
「うん。おはよう。麗美さん」
水族館で俺にフラれた後なのに麗美さんはそんなこと気にしてない風に俺に挨拶をしてくれた。
なんだかフったこっちの方が気まずい空気感じになっていたから、こんな風に友達として接してくれるのはありがたい。
「その水族館に一緒に行ってくれてありがとうね」
「うん。まあ、こっちこそ楽しかったし、誘ってくれてありがとう」
実際、麗美さんはイケメン女子って感じで普通にかっこいいし、友達として付き合いがあるのは普通に誇らしいんだよな。
でも、恋人としてみるとやっぱりなんかそうじゃないというか。なんというか、無理なものは無理って感じである。
こう、俺の中の本能的なものが嫌がっているような気がする。
やっぱり麗美さんは憧れている存在が丁度いいというか、手の届く存在になったら逆に冷めるタイプの人だと俺は思った。
◇
体育の時間になった。中学の時は体育の授業は男女別に分かれていたけれど、この学校の男子は俺しかいないので分けるもなにもないという状況であった。
まさか俺一人のために先生の人員を割くわけにはいかないし、俺は女子と一緒に体育をすることになった。
「よし、それじゃあペアを組んで体操をしてくれ」
体育の先生がそう言った瞬間に女子たちが一斉にこっちを見てきた。なんかピリついた空気を感じる。
これは早めに俺がペアを決めないと戦争になる予感がしてきた。仕方ない。近くにいた女子とペアを組むか。
「あ、それじゃあ、
「え、ふぇ!? わ、わたしですか!?」
久賀
クラスの女子の中でも目立たない存在である。休み時間もなんだか本を読んでいてあまり友達と話しているところを見たことがない。
というか、友達がいるのかもわからない。なんかぼっちっぽい雰囲気を感じるんだよな。
「そう。俺とペアを組むのは嫌かな?」
「あ、い、いや。そ、そんなことはないでふ」
噛んだな。
早々に俺が女子とペアを組んだことにより、女子たちは普通にペアを組み始めた。さきほどの視線はどこへやら。やはり、先手を取ってペアを組んだのは正解だったか。
「それじゃやろうか」
「は、はい!」
俺と久賀さんが背中合わせでお互いに腕を組む。
「それじゃあ、俺に体重を預けて」
「はい」
久賀さんが俺に体重を預けたので俺は久賀さんを背負う形で持ち上げた。
「よし、こんなもんでいいか。じゃあ次は俺だね」
「はい。がんばります!」
準備体操でなにをがんばるかわからないけれど、まあいいか。俺は久賀さんに体重を預けて彼女に持ち上げてもらう。
「くっ……ううぅ……」
なんか下でうめき声が聞こえる。大丈夫だろうか。
「久賀さん。大丈夫?」
「す、すみません。体力も力もなくて、運動神経も最悪で、すみません」
「いや、そこまで言ってないよ!?」
なんか卑屈だなこの子は。
「はぁはぁ……」
準備体操なのにもう息切れしてる。そして、息をする度になんかこう色っぽい息遣いが聞こえてくる。
というか、この子目立たなかったから気づかなかったけど、結構おっぱい大きいな。本当に存在が地味だったから気づかなかったけれど、これは……俗にいう隠れ巨乳ってやつなのでは?
例えば転生前の俺が元いた世界。そこで彼女がいたらきっと男子たちの間で隠れた人気になっていたかもしれない。
あいつの魅力に気付ているのは俺だけだ。みたいなそんな妄言を男子が言うこともあるかもしれない。
でも、意外とみんな口に出さないだけで、彼女のことが好きだって言う隠れた人気者パターンだ。
しかし、ここは貞操逆転世界である。巨乳だからと言って男子から速攻で人気になるとは限らない。
特に久賀さんのような引っ込み思案で目立たない存在は、男子にあまり人気がない。それだけでマイナスポイントである。
だって、この世界は女子が積極的に動かなければ男子を獲得できないような世界だからである。
「よーし、今日は短距離走だ。さっき組んだペア同士でお互いのタイムを計測してくれ」
先生の指示に従って、俺は久賀さんと一緒に短距離走のタイムを計測することになった。
「えっと……それじゃあ、わたしから走るね」
「うん。いちについて。よーいスタート!」
俺はストップウォッチで久賀さんのタイムを計りだす。久賀さんが走る。走ると胸がぽよんぽよんと揺れている。
これは目の保養になるな。貞操逆転世界だから、こういう目で見ても女子は敏感に反応しないし、まさか男子の俺がいやらしい目で見ているとは思わないだろう。
しかも、これは短距離走。胸の位置でゴールを判定するから胸をしっかり凝視する言い訳にも使える。
久賀さんが走っている間、俺は彼女のおっぱいを目で堪能した。久賀さんの胸がゴールラインに達した時に俺はストップウォッチを切った。
「はぁはぁ……」
100メートルを1回走っただけで息切れしている久賀さん。本当に体力がないんだな。
俺は久賀さんのタイムを記録した。そして、今度は俺が走る番だ。
「よし、俺は準備良いよ」
「うん。それじゃあ行くよ。猪瀬君。いちについて、よーいドン!」
俺は走り出した。華麗な走りをしているつもりである。そのまま走りゴールに達した。
「すごい! 猪瀬君速いね!」
「まあ、一応ね……」
このまま数回、久賀さんと俺が交互に走ってタイムを計測し続けた。
「はぁはぁ……もうだめ」
「走る度にタイムが遅くなっているね」
久賀さんは息も切れて汗もだらだらとかいている。なんだか、見ているこっちが心配になってくる。ちゃんと水分補給はして欲しい。
「ごめんね。わたし、体力がなくて」
「ううん。大丈夫」
別に久賀さんが体力なくてこっちが困ることとかないし。
「わたし、その……体力なくて体育の時間や運動会でも足を引っ張ることが多くて」
「あー……」
運動神経が悪い子は体育の授業でトラウマを持っているとかそういう感じの話か。
だから、さっきから俺に謝っていたのか。
「大丈夫。別に俺はそういうの気にしないから」
「え、あ、ありがとう。猪瀬君は優しいね」
久賀さんはにっこりと笑った。初めて彼女の笑顔を見たような気がする。
「お、いいねえ。笑顔かわいいよ。いつもその調子でいたらいいのに」
「え、ええええ! そ、そんな。わたし、別にかわいくなんてないですから!」
思い切り否定された。褒めているのにそんな風に否定されたら、褒めた方としてはあまりいい気分がしないな。
そこは素直にありがとうと受け取って欲しかった気持ちはある。
「あ、ご、ごめんなさい。わたし、男の子にかわいいって言われたの初めてで……その、あの……」
久賀さんはなにやらもじもじとしている。確かに目立たないけれど、別にかわいくないってことはないよな。
「どちらかと言うと男の子にからかわれたり、いじめられたりすることが多くて」
それで俺に対してなんか挙動不審な態度を取っていたのか? 男子に対してなにかトラウマがあるのだろう。
貞操逆転世界の女子だからと言って、みんな男子が好きってわけじゃないんだな。確かに転生前の世界の男子でも女嫌いな人は存在するしな。
この世界の女子ならば、みんな男子を好いているはずと思うのは流石に俺の傲慢であったか。
「そうなんだ。それはひどいね。でも、大丈夫。俺は久賀さんをいじめたりしないから」
「あ、は、はい。ありがとう」
久賀さんはなにやら安心したように微笑んでいる。こころなしか俺に対する警戒心も薄れてきているような気がして良かった。
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