第44話「おいおい、もしかしてアイの野郎、呼び出した後の事考えてなかったんじゃね?」
‐3人称視点‐
アイの足取りを追い、宿の外へ出た栄太郎たち4人。
外へ出ると同時に、アイが周りを気にしながら女生徒とどこかへ行くのを目ざとく見つける。
バレないように後をついて行くと、宿の裏手にある、森や林というほどではないが、木々が立ち並ぶ場所へと消えていくアイと女生徒。
もちろん、栄太郎たちは、音を立てたりしないように、細心の注意を払いながらコッソリと後をつけていく。
少しだけ開けた場所に出ると、アイが一緒に来た女生徒に振り返る。
「それで、こんなところに呼び出してどうしたの?」
女生徒が腕を組みながら、無表情でアイに問いかける。
そんな女生徒に対し、目をキョロキョロさせながら顔を赤らめ、口を開けば「あの」「その」を繰り返すアイ。
「おいおい、もしかしてアイの野郎、呼び出した後の事考えてなかったんじゃね?」
「もしかしなくてもそうでしょ、あの反応。どうすんべ、カンペでも出しとく?」
「先輩たち、コッソリついて来て隠れてるんですから、バレたらダメでしょ」
「DO感」
仕方なく隠れて見守る事にした栄太郎たち。
アイがどもるたびに「チッ」とそれぞれが軽い舌打ちをしながら。
「いやぁ、昼間の応援どうだったかなと思って……」
わざわざ聞く内容かよと思いつつも、それで女生徒から好感触な反応が返って来たら告白が成功する可能性は高い。
それと、自分達への評価も気になる。
栄太郎たちがごくりと唾を飲み、見守る。
「私の幼馴染、こんなだったなぁと思った」
女生徒の言葉に、軽くショックを受ける陽キャ3人組。ちょっとくらいは良い返事が来ると期待していたので。、
ちなみに栄太郎は、アイと女生徒が幼馴染ということで、アイを自分に、女生徒を幼馴染の西原と重ねてしまい、大ダメージである。
(もしかしたら、俺も京にそう思われてるのかな)
「あはは、そっか……」
「まぁ、そんなのは昔から知ってた事だけどね」
「うん……」
ははっと軽く笑いながら頬を掻くアイだが、遠目から見てもその姿には哀愁が漂っている。
こんな状態で告白なんてしても、玉砕が目に見えている。
もはや消化試合を見ているようなもの。栄太郎の耳にはテンションが下がり、諦めの入った陽キャたちのため息だけが聞こえてくる。
「ほんと……昔から、私の事を応援してくれる相原のままだね」
撤収ムードになりかけた時、女生徒の一言で流れが変わる。
「ほら、小学校の時も「がんばれー」って運動会で応援してくれたよね」
「幼馴染なんだから、それくらいするっしょ」
「そんなのしないよ」
クスクス笑いながら「そういえば、こんな事もあったよね」と話す女生徒。
自分が覚えていないような昔話までされ、顔を赤らめながらバツの悪そうな顔をするアイ。
「その……今日のやっぱり迷惑だったかな」
過去のやらかしを聞かされ、目を逸らしながらアイが申し訳なさそうに言う。
そんなアイに対し、女生徒は首を横に振り、笑みを浮かべる。
「迷惑だなんて思った事、一度もないよ」
まさかの大逆転展開に、思わずグッと握ってガッツポーズの栄太郎たち。
「今日のだって、その、嬉しかったし」
「マジで!?」
「うん。マジ」
「ただ、あの格好はいただけないかなぁ」
女生徒の言葉に、栄太郎たちが頭を抱える。そりゃそうだと。
流石に女生徒の前なので頭を抱えることが出来ず、必死に苦笑いを浮かべるアイ。
「ああいう格好は、私の前だけでして欲しい、かな」
「えっ、それって」
「だって、好きな人のああいうエッチな格好、他の女子に見られたくないし」
顔を赤らめて、真っすぐアイを見据える女生徒。
「相原、私と付き合って……くださッ!?」
「ぐおっ!!」
告白をしようとしたら逆告白をされ、喜びのあまり女生徒に抱きかかろうとしたアイ。
だが、くださいと同時に頭を下げた女生徒と悪い意味でタイミングがかち合い、アイが女生徒にヘッドバットをされる形になった。
「ったく、アイのヤツしまらねぇな」
「なんで良いところで、こんな失敗するかな」
「さてと、もう結果は分かりきってることですし、俺たちは撤収するとしましょうか」
もし振られたなら、その場で慰めてあげようと考えていた陽キャたち。
だが、もうその必要はない。これ以上首を突っ込むのは野暮だと一旦引き上げるために、栄太郎たちはその場を後にする。
宿の前まで辿りついた栄太郎。
「さてと、俺らはここでアイを待ち伏せかな」
「戻って来たところを根掘り葉掘り聞いて、夜通し恋バナしねぇとな」
「えー助はどうするん?」
一緒になってアイを弄り倒して恋バナをする。栄太郎にとってその選択肢は魅力的である。
であるが、問題が一つ。夜通しと言っているのだから、多分ここで付き合えば徹夜になる可能性がある。
せっかく西原の応援に来たのに、西原が出る時に眠そうな顔をしていては申し訳が立たない。
「明日応援があるから、俺は部屋に戻るかな」
陽キャたちは目的を完了しているが、栄太郎にとっては本命は西原の応援。
なので応援のために断った栄太郎だが、陽キャたちはそんな栄太郎の態度にニヤニヤと笑みを浮かべる。
「あー、えー助そういう事か」
「そういう事ってなんですか?」
「分かってるって。俺たちが居ない事を良い事に、女子を部屋に連れ込むんだろ?」
「えー助も狙いの相手が居て応援団やったってわけか、分かった分かった、それじゃあ日が変わるまでは俺たちは帰らないから」
違うと反論をする栄太郎だが、陽キャたちは「分かった分かった」と分かっていない返事で栄太郎の背中をバシバシ叩くばかり。
確かに誰もいない部屋に西原を連れ込むという提案は、栄太郎にとって魅力的である。
だが、明日はインターハイで西原の出番がある。なのに部屋に連れ込んで下手な事をすれば、確実に影響が出てしまう。
なので、西原を部屋に誘うという選択肢は栄太郎にはない。
『私の幼馴染、こんなだったなぁと思った』
まぁ、それ以前にアイの幼馴染の女子が言ったセリフのダメージがまだ抜け切れてないだけでもあるが。
盛り上がる陽キャたちに何を言っても無駄だと悟り、言い返すのを諦めて宿に入っていく栄太郎。
そんな栄太郎の後をこっそりと追う一人の影。
「これはチャンスなのでは?」
栄太郎と陽キャたちの一連のやり取りを見聞きしていた、大倉さんである。
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