第42話「大倉さんすげぇ……めちゃくちゃナチュラルに嘘つくじゃん……」

「マジか……マジかぁ……」


 俺は今、猛烈に頭を抱えていた。

 何故なら、陽キャ男子たちに囲まれ、昔の不良が着てそうな腹丸出しの丈が短い学ランに短パン姿という格好をさせられているからだ。

 どうしてこんな罰ゲームのような格好をする事になったのか。話は終業式が終わり、夏休みは京がインターハイに陸上で出場するので、その応援に行こうという話をしていた時に遡る。


「インターハイの応援、本当に来てくれるなら陸上部の顧問の先生に頼めば、一緒について行くことが出来るよ」


 俺と大倉さんで「絶対に応援に行く」と言い続けた結果、京がため息を吐きながら、陸上部と一緒に行くことが出来ると教えてくれた。

 陸上部がインターハイに出場ということで、応援に行きたいという生徒の声が上がったため、それなら応援しに来る生徒の分も宿とバスを取ろうという話になったのだ。

 確かに自分で宿を取って行くよりも、陸上部について行った方が楽だし、教員がついているという事で親も心配しないだろう。

 ただし、人数に上限があるという事で、スマホで親に連絡をして許可を貰い、陸上部の部室へ向かい、陸上部の顧問の先生に話をして、俺と大倉さんもついて行くことが決定した。


 ここまでは問題が無かった。

 問題は、この後だ。


 陸上部の顧問から、応援に一緒に行く際の注意事項が書かれた紙、旅費がいくらかかるか書かれた紙、それと親の許諾書を受け取り、部活の邪魔にならないようにグラウンドから離れた俺と大倉さん。

 

「やぁ、キミたちも陸上部の応援に行くのかい?」

 

 爽やかな笑顔の陽キャっぽい男子に声をかけられた。

 正直関わり合いになりたくない。陰キャとしての本能がそう叫んでいた。

 隣を歩く大倉さんも、目を逸らして聞こえない振り、というか「他の人に声をかけたんだよね、じゃあさようなら」という空気を醸し出している。

 

「あぁ、分かりにくかったね。すまない、キミたちに話しかけているんだ」


 俺たちの反応に気を悪くする事なく、笑顔で立ちはだかる陽キャ男子。

 目的が大倉さんなら、いくらでもあげるので通してもらえませんか?

 残念ながら、ここは貞操観念が逆転した世界。狙われるのは女ではなく、男が圧倒的に多い。

 この陽キャ男子も、笑顔で俺たちを見ているが、目線はしっかり俺をキープしてやがる。


「それで、もう一度質問なんだけど、キミ達も陸上部の応援に行くんだよね?」


「あっ、行かないですよ?」


 大倉さんすげぇ……めちゃくちゃナチュラルに嘘つくじゃん……。

 目は逸らしたまま「ははっ、それでは」と言って陽キャ男子の横を通り抜けようとしているので、俺もそれに合わせて通り抜けていく。


「あー……うん。警戒しちゃうよね。ごめんごめん、理由話すから、話を聞いてくれないかな?」


「あっ、いえ。行かないので……」


「分かった分かった。とりあえず話だけ聞いて。ねっ?」


 なおも食い下がる陽キャ男子。

 めちゃくちゃ嫌そうな顔をする大倉さん。

 陽キャって凄いよな。こんな態度されても笑顔が崩れないだもん。俺だったら最初のスルーで心が折れてると思う。


「実は、陸上部の応援に行く男子で即席の応援団を作って、大会当日にサプライズで陸上部への応援をしようと思っているんだ」


「は、はぁ……」


 なんというか、絵に描いたような陽キャの発想だな。

 

「良かったら、一緒にやってくれないかい?」


「いえ、そういうのはちょっと……」


 大会当日って、もう2,3日しかない。

 そんな短い期間で練習しても息が合うどころか、グダグダなミスを連発するのが目に見えている。

 受け取る側も、微妙だけど、喜ぶ素振りを見せておかねばという感じになって、応援どころか逆に気をつかわせる結果にしかならない。

 なので、きっぱり、とまでは言えないものの、拒否の姿勢を見せておく。


「……そっか」


 もっとグイグイ来るかと思ったが、意外な事にすんなり引き下がってくれた。

 話を聞いた上で断られたら、引き下がろうと決めていたのかもしれないな。


「じゃあさ、せめてチアボーイの格好を見てから決めてくれないかな? 良い感じの衣装用意したんだよ」


 チアボーイ?

 あぁ、向こうの世界でいうチアガールか。

 まいいや。興味ない。というかどんなトンデモ衣装が飛び出てくるか分からないし、さっさとこの場を離れよう。


「あっ、その恰好ってどんなのですか?」


 離れたかったが、チアボーイという単語に、大倉さんが反応してしまっていた。

 今思えば、この時大倉さんをほっといてすぐに逃げるべきだった。


「こんな感じの衣装なんだけどさ」


 陽キャ男子がスマホを取り出し、操作をしてから画面を見せる。

 スマホの画面には陽キャっぽい4人組が、サラシを巻いて、その上から短い学ランに短パンという格好で仲良くくっ付いた写真が写っていた。

 よし、断ろう。絶対に断ろう。


「すみませんが……」


「あっ、それなら島田君やっても良いって」


 大倉さんすげぇ……めちゃくちゃナチュラルに嘘つくじゃん……。


「えっ、マジで!」


「ちゃけば、超歓迎!」


「ウェーイ!」


 どこに隠れていたのか、俺の背後から唐突に陽キャっぽい男子3人組現れた。

 そして、その陽キャ男子3人組に更衣室まで担がれ、俺はこの恥ずかしい衣装を着る羽目になった。


 断れば良いじゃんって?

 

「せめて5人は欲しかったかんな」


「それな!」


「とりま自己紹介するべ。いや、先に乾杯だな!」


 ジュースで乾杯を始める陽キャ男子たち。

 こんな空気で断れるほど、俺の肝は座っていない。

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