第38話「人気Vtuberって、人気がない頃はどうやってたんだろう?」
‐3人称視点‐
Vtuberを始めた栄太郎だが、1分もしない内に最初の壁にぶち当たっていた。
「……」
そう、喋る事がないのだ!
元々陰キャ気質だった栄太郎。学校での話し相手といえば幼馴染の京と、そのクラスメイトの大倉さん、小鳥遊くらい。
あとは、部室で先輩たちと話す程度。
なので陽キャのようなトークスキルは持ち合わせていなかった。
更に言えば、自分のPC画面を背景に、ただ無言でキョロキョロと動く栄太郎のアバター。
無名且つ宣伝0の状態で始めたのだから、配信を見に来るリスナーがいない。観覧者数は0である。
「あっ、人が来た。あの……いらっしゃい」
そして挨拶をして、また無言になってしまう栄太郎。
これではダメだと、必死に会話のネタを探そうと「あー、その。あれですね」などと呟きながら必死に何か会話を繋ごうとしてみる栄太郎だが、その思いは届かず、観覧者数は0に戻ってしまう。
「一旦やめるか……」
貞操観念が逆転した世界なら、男性の方が人気が出やすいと思っていた栄太郎。
その考えは、まぁまぁ正解である。
確かに元の世界では女性のVtuberの方が人気が出やすい。なので、貞操観念が逆転した世界では男性の方が人気が出やすい。
だが、それはあくまでも、出やすいであって、出るではないのだ。
どちらの世界でも、性別によって人気が出やすく、話題になりやすいといっても、それはあくまでうわべの話。
人気Vtuberの裏側では、数多のVtuberが辛酸を舐めているのだ。男女関わらず。
配信を始めたら、わっと人が雪崩れ込み、話題に上がり輝かしいデビューを果たす。
誰もがそんな期待に胸膨らませ、そして挫折を思い知る。
部屋の中で頭を抱える栄太郎。そんな彼が取った行動は。
「人気Vtuberって、人気がない頃はどうやってたんだろう?」
人気Vtuberの下積み時代を調べることだった。
何かの参考になればと、人気Vtuberの初期の配信を見始める栄太郎。
だが、大企業の下でVtuberをやってる者は、最初から大規模な宣伝により、デビュー前から話題に上り、配信開始前から万単位の観覧者数を叩き出している。
「これは、そもそも参考にならないな……」
自分もこんな感じで、配信前から人がわらわら集まって、面白おかしくリスナーにチヤホヤされながらお話が出来るものだと思っていた。
人気になった自分を少しだけ妄想し、配信を止める栄太郎。
あんな風になりたいが、今の自分では無理だと判断し「それでも、もう一回配信したらもしかしたら」などと考えてしまう甘い自分に「これ以上見るのは時間の無駄だ」と必死に言い聞かせながら。
「企業じゃないVtuberを調べてみるか」
次に栄太郎が調べたのは、チャンネル登録数が100万を超え、企業のサポートを受けずに個人でやっているVtuberたち。
そんなVtuberたちの配信を遡るが、生配信は見れる期間が決まっている。なので、過去の配信をみたいとなると、その配信を編集し、動画としてアップされているものに限って来る。
ある程度は遡れるモノの、最初期からそれをやっている個人のVtuberはあまり多くはない。
個人のVtuberチャンネルを片っ端から開いては、必死にマウスをホイールさせ過去の配信を調べる栄太郎。
あれこれとPCと睨めっこすること、約1時間。
「おっ、あった!」
目的である、個人でやってる人気Vtuberの初配信動画を発見した栄太郎。
ウキウキで早速動画を再生すると、そこには観覧者数がまだ0だった頃の人気男性Vtuberが映っていた。
『そうだね。じゃあ今日は噂のフリーゲーム「赤鬼」をやってくから、皆も一緒に楽しもうぜ!』
誰も見ていない。だというのにVtuberが楽しそうに一人で喋る。
そして、観覧者数が0から1に変わった時だった。
『はい初見さん宜しく……じゃなくて、んんっ、おっほん。俺の虜になっていけよ(イケボ)』
馴れ馴れしい挨拶と見せかけて、唐突に声色を変えて乙女ゲーに出てくる野郎のような挨拶するVtuber。
『初見です。いきなりイケボになってて草』
そんなVtuberの反応がウケたのか、観覧者数は0に戻るどころかコメントが入るようになっていた。
観覧者数が減らなければ、あとは増えていくだけ。
そして観覧者数が増えれば、人が増えてる事が気になって配信を見に来る人は雪だるま式に増えていく。
最初の5分くらいは1人だったリスナーは、10分を超える頃には10人以上に、そして15分経ったあたりで100人にまで増えて行き、そこからは壊れた計測器のように配信者数を表す数字が止まらず増え続ける。
人気Vtuberが生まれる瞬間を目にした栄太郎。一挙一動を見守り、彼にあって自分になかった物を考える。
数日ほど、その動画を何回も見返し、どうすれば人気が出るかを研究した栄太郎。
そして迎えた日曜の夜。
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