第11話「俺も何か部活に入るかな」
‐栄太郎視点‐
放課後の教室。
いつものように京が俺を迎えに来た。
「栄太郎、今日はこのまま帰るの?」
「そうだけど。京は部活だっけ?」
「ううん。栄太郎が帰るなら家まで送っていくわ」
「でも、大会近いんだろ?」
「普段からちゃんと練習してるから構わないわ」
俺が構うっちゅうねん。
幼馴染の京は陸上部に所属している。
京はガキの頃から走り回るのが好きで、毎日のように走り回って遊んでいたのを覚えている。
中学に入る頃には、走り回っていたおかげか、他よりも体力があり、足自体も速いので短距離も長距離もこなせる2刀流として一目を置かれていた。
何度も大会の優勝経験もあり、高校に入学してまだ1年生なのに既に大会出場メンバーに選ばれており、種目は個人でもチームでも、出られるものはほぼ全て彼女が選ばれている。
それだけの才能があるというのに、わざわざ俺を送り迎えするために部活をサボらせるのは心苦しい。
というか、そんな事で残念な結果になろうものなら、京の部での立場がなくなってしまうかもしれない。
とはいえ、一人で帰れるから部活に出てねと言って「はい。分かりました」というほど、この幼馴染は素直じゃない。
「適当に時間潰して待ってるから良いよ」
「適当にって、どうやって?」
「そうだな。俺も何か部活に入るかな」
「じゃあ陸上部は?」
「……それは良いや」
それなら俺も陸上部に入れば良いのではと思ったが、陸上部の、というか女子のマラソン選手の衣装はかなり際どい。
前の世界でも際どく感じる物はあったが、貞操が逆転したこの世界では更に際どくなっている。
正直、大倉さんのように陸上部のユニフォームを着た京をガン見をしたい気持ちはあるが、ガン見をしてキモがられてしまっては、せっかく築き上げたこの関係が台無しになってしまうかもしれない。
見なければ良いじゃんだって?
目の前に際どい格好した好きな子が居るんだぞ! 見ないわけないだろ!
なので、陸上部は却下だ。
「あっ、それじゃあウチの部に来る?」
思わずビクっと飛びのく俺と京。
突然大倉さんが生えてきたのだから、当然の反応だ。
「大倉さん、なんでここに?」
「あっ、たまたま2人の会話が聞こえてきたから」
俺と京の教室はかなり離れてる上に、下駄箱に向かうなら俺の教室から京の教室の前を通るルートになる。
反対方向に来る用事はないはずだし、自分の教室に居てたまたま聞こえたなら、相当の地獄耳になるぞそれは。
色々と突っ込みたいところではあるが、大倉さんの奇行よりも京に早く部活に行って欲しいという気持ちの方が強い。
仕方がない。ここは話に乗ってやるか。
「まぁ、行くあてもなかったし、大倉さんの部活に顔だけ出してみようかな」
「あっ、そうだ。島田君部活入ってないならついでに名前を貸して貰えるかな。あっ、あの部員がギリギリ足りてなくて同好会になると部室取り上げられちゃうから」
「とりあえず、行ってみてから考えるのでも良いかな?」
「あっ、うん。全然良いよ」
俺が大倉さんの部に行く流れになると、京が少しだけブスっとした表情を見せる。
もしかして、本当は部活サボりたい気分だったとかか?
んー、流石にここまで話し進めておいて、やっぱナシとは言えないし。
「栄太郎が行きたいって言うなら止めないけど、変な事されそうになったら、ちゃんと大声で助けを呼ぶのよ」
「あっ。私そんな信頼ない!?」
現在進行形で俺の胸元をガン見してる時点で、信頼なんて広告のチラシよりも薄っぺらいんだよなぁ。
「それと、栄太郎」
そう言って、自分の胸元をトントンとする京。
カッターシャツのボタンを閉めろというジェスチャーか。
即座に理解し、胸元のカッターシャツのボタンを閉めていく。
「それじゃ、部活が終わったら迎えに行くから」
「おう。頑張れよ」
最後まで納得いかない表情を浮かべながら、部活へ向かって行く京。
それを見送った後に、大倉さんの後について歩き出す。
「そう言えば聞いてなかったけど、大倉さんは何部に入ってるの?」
「あっ、言ってなかったっけ。クソゲー研究部だよ!」
お、おう。
そんな部活潰れてしまえという気持ちと、なにそれ面白そうという感情が同時に沸いてしまった。
まぁ、見に行くだけなら良いか。うん。
「意外だね。大倉さんって、漫画とか詳しいから漫画研究部とかだと思った」
「あっ、そういういかにも『私はオタクです』アピールしたいための部はちょっと……」
いきなり早口になりやがった。拗らせてるなぁ……。
「あっ、それで部活だけど、私含め現在3人で、あっ、島田君が入ってくれればギリギリ存続するかなって感じなんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「あっ、他の部員2人は先輩だけど、学年の上下関係とか気にしない良い人だから畏まったりしなくても良いよ」
「その先輩たちは、今日も来てるの?」
「あっ、うん。毎日部室に入り浸ってるから居ると思うよ」
先輩かぁ、年上相手に敬語とか使うのはちょっと苦手なんだよな。
そんな俺の杞憂を感じ取ったのか、大倉さんが「あはは」と笑いながら、俺を和ませようと明るい声で話しかけてくれる。
「あっ、きっと話が合うから大丈夫だよ。あっ、うん。私がもう2人居ると思えば良いよ!」
「そっか……」
大倉さんがもう2人か。
その話を聞いて余計に行きたくなくなった。
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