貞操逆転世界になっていたので、幼馴染を色仕掛けで落としたい
138ネコ
第1話「貞操観念が逆転した世界」
最近、同じ高校に通う幼馴染の西原 京(にしはら きょう)の様子がおかしい。
以前なら話しかけても、「フーン」や「そう」と言ってそっけなかった幼馴染。
そんな幼馴染が、今では「最近何かと物騒だし、男一人だと何かあったら大変でしょ」と言って、毎朝家の前で待って一緒に登校してくれるようになった。
色々と言いたい事はあるが結論から言おう。
どうやらここは貞操観念が逆転した世界のようだ。
俺の名は島田 栄太郎(しまだ えいたろう)。
いつからこの世界の貞操が逆転していたのか思い出せないのは、俺が陰キャだから周りを気にせず、周りも俺を気にしてなかったからだろう。
教室を見渡せば、女子は大股開きでゲラゲラと笑いながらエロ本(俺から見たら男が半裸なだけなのだが?)を読んでいるし。
そんな女子に対し、男どもが「女子がまたえっちなの見てる」などと言っていたりする。
「ねぇねぇ、あれ見てよ」
「うわっ、ヤバッ」
女子グループが一人の男子生徒、森田を指さし、何かコソコソと盛り上がっている。
あぁ、社会の窓が開いてるのか。
「おーい、森田。チャック開いてるぞ」
「ちょっと島田君、大声で言うなよ。やだ恥ずかしいだろ。もぉ!」
俺の言葉に女子達が「ヒュー」と言って盛り上がる。中には顔を赤らめて見ている奴までいる始末だ。
森田の奴は「やだぁ」とか言いながら体をくねくねさせながらチャックを閉じ、他の男子からデリカシーがないと俺が叱られる始末だ。
貞操が逆転した世界ってエロ本で見た時は興奮したが、こうして来てみるとうわ~……って感じだな。
放課後にそんなクラスメイトを観察していると、教室のドアが開かれた。
教室に入って来たのは幼馴染の京だ。
「栄太郎、この後どうする?」
「このまま家に帰るけど?」
「そ。私も予定ないからこのまま帰るけど?」
「じゃあ一緒に帰ろうか」
俺は少ない荷物をカバンに入れ立ち上がる。
前の世界では登下校の時間が被ろう物なら、ストーカーに追われてるかの如く駆け足で去っていった京。
そんな彼女が朝は玄関で待ち、帰りはこうしてクラスまで来て一緒に帰らないかと聞いてくれるのだ。
京曰く「おじさまに頼まれたから仕方なく」だそうだ。
元の世界でいう、母親に娘を頼まれたポジションだな。
こちらの世界では男が女に襲われる事件が多い。なのでほっといて事件にでも遭われたら目覚めが悪いのだろう。
とはいえ、登下校を一緒にするからといって距離が縮まるわけではない。
「そういや今日さ、授業中に……」
「ふーん」
とまぁ、こんな風に話を振っても微妙な態度である。
隣を歩く京をチラリと見る。
整った顔立ちに、スラっと伸びる手足。
腰まで伸びた長い髪は、風が吹くたびにふわっと綺麗にたなびく。
容姿端麗な上に、成績は学年トップ。
となれば、当然モテる。貞操が逆転する前の世界でも、逆転したこの世界でも。
そして、彼女の事が好きな男子の中に、俺も入っている。
よく幼馴染は異性として見れないなんて話を聞くが、俺はそうは思わない。
むしろ長い間一緒に居るからこそ、冷めずに燃え続けるこの気持ちは、本当の恋なのだと実感できる。
前の世界だったら、俺は京に話しかけられずにこの恋は終わっていただろう。
だが、今ならチャンスがあるはず!
そんな風に思っていた時期が俺にもありました。
実際はこうやって一緒に帰るのが関の山だ。
何かいい方法は無いだろうか?
「ふっふっふ、今日こそはアイツ(幼馴染)を俺に振り向かせてやるぜ」
せっかく貞操が逆転したのだ。ならばそれを最大限に活用すれば良い事に気がついた。
この世界の女は、前の世界の男のようなものだ。ならばこの世界の女の事を俺ならよく分かる。なんせ貞操が逆転した世界から来ているのだから。
この世界の思春期の女子に有効なのもの、それはすなわち、スケベだ!!
前の世界の思春期の男子は、言ってしまえばスケベで頭がいっぱいだ。その証拠に俺もスケベで頭がいっぱいだ!
なので、スケベを前面に押し出せば京が俺に振り向くのは自明の理!
さぁ制服の胸元のボタンを外し、いざゆかん!
「おはよう」
「おっす、おはよう」
いつもより三割増しの俺の挨拶に京の眉が一瞬ピクつくが、気にせずそのままスタスタと歩き始める。
あれ? 俺の胸元はスルー?
「今日は暑いな」
「そうだね」
わざわざ胸元を仰いだりしてアピールしてみるが、ジロジロ見てくる様子はない。
この世界では男の胸に興味はないのかと思ったが、すれ違う女たちはチラチラと横目で俺の胸元を見ているので効果はあるはずだ。
なのにこの幼馴染にだけは何故か効かない。あれこれしている内に、気が付けば学校に到着していた。
「ってかどこまで付いてくるの?」
というか京のクラスまで来ていた。アピールするのに必死になり過ぎて教室までついて来てしまっていた。
そんな俺を気にもとめず、自分の机に座り漫画を読み始める京。
「ねぇ、それって面白い?」
そう言って俺は腰を曲げる。斜め45度、胸チラがする最高の角度のはずだ。
「うん。まぁ」
だというのに京は俺に興味を示してくれない。
「あっ、島田君も博多の錬金術師に興味あるの?」
そして京の代わりに、彼女のクラスメイトの女子が釣れた。
彼女は確か、大倉さんだったっけな。貞操が逆転する前は教室の隅の席でいつも俯いて漫画やラノベを読んでいるキャラで、好きな作品の話を誰かがしてると『ビクッ』と反応して、話しかけたそうにしている陰キャ女子だったはず。
貞操が逆転しても陽キャは陽キャのままだし、陰キャは陰キャのまま。だというのに、陰キャである大倉さんが、異性の俺に話しかけるようになるというのは珍しいパターンだ。あとめっちゃ俺の胸をジロジロ見ている。
お前に用はない、去ってくれないか? と言いたいところだが。
「あぁ、うん。まぁね」
幼馴染以外の女子と話したことがない俺には、当たり障りのない返事しか出来ない。
「あっ、よ、良かったら全巻持ってるから貸してあげるよ」
「あはは。嬉しいけど、でも悪いよ」
「あっ、大丈夫だから、明日何冊か持ってくるね」
思ったよりもぐいぐい来るんだけど。
困ったな。物騒なのに絡まれてるから助けてくれと京を見る。
「フーン。二人は仲が良いんだ」
おや、京が今までと違う反応をしている。もしかして妬いてるのか?
ここは慎重に、地雷を踏まないようにいかねば。
「あっ、初めて話したんだけど。趣味が合うからそう見えるのかな」
そう言って照れくさそうに顔を赤らめる大倉さん。
「そっか。じゃあ二人の邪魔しないようにするわ」
「えっ、おい」
呼び止めようとするが、そのまま教室を出ていく京。
「あっ、西原さん行っちゃったね」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!!
この女、地雷原でタップダンスしやがった!
がっくりと項垂れる俺の隣で、大倉さんは早口言葉で漫画の見所を説明してくれた。あとめっちゃ俺の胸をジロジロ見ている。
その日の帰りは、京が俺の教室に来ることはなかった。
あと大倉さんから借りた博多の錬金術師は面白かった。
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