VS奴隷狩り
壊れた光の魔道具の音に驚いているようだった。そのざわめきによって、私とリュークが部屋に入っているのに気付かない。
最初にリュークが魔法で大きな木を生やした。部屋の中を覆い尽くす勢いである。多大な魔力を注ぎ込んでいることもあって、効果は絶大だ。
太い幹によって下敷きとなったり、成長する木の枝によってぶら下がりになったりした。
その結果、あちらこちらから悲鳴や苦悶の声が聴こえることとなる。相手は暗闇で何も分からない状態。加えてその声が聞こえたとなったことから混乱状態となった。
「おいっ、火を灯せ!」
だが一喝したその声が悲鳴をかき消す声で出されると、状況は変わる。何人かが詠唱が唱えて一つ、二つ、三つと小さな炎が部屋を照らした。リュークの魔法に巻き込まれないようにしながら攻撃を行っていた私は、一人はそれを阻止することには成功する。
だが部屋が淡いとはいえ光で照らされているので、あまりその意味はない。
荒くれものだから、初歩だからとはいえこんなに魔法が使える者がいるなんて思わなかった。魔法使いらしき人が教えたのだろうか。
驚きながらも魔法の制御で反撃出来ない炎を灯す男を、杖で頭をぶん殴る。一つ灯火が消えた。
視界が回復すると突然大きな木があること、次々と仲間が倒れていく状態なので、未だ混乱が続く。
「慌てんじゃねえ! 小龍とガキがいるはずだ。小龍は生け捕りにしてガキは殺せ!」
だがやはり誰かの野太い声で一喝すると、混乱は収まっていく。統率者がいるのが面倒だ。
多分ガムザという男だろう。次々と指示が出され、相手は仲間同士で背を向け合う陣形になる。一撃離脱の戦法をとっていた私は、迂闊に手出し出来なくなって苦々しく思った。
魔力の反応。
地面からそれを感じ取り、すぐさまその場を飛び退く。直後、杭の形をした土が打ち出された。
「いたぞっ、あそこだ!」
相手の魔法から避ける際に音を立ててしまったので、場所が特定される。闇に溶け込む魔法は一度姿を発見されると、その者に対して効果がなくなるのだ。
リュークに迫りくる相手の足止めをしてもらい、私は視線から逃げる。
「またガキが隠れやがった!」
炎で照らしているのは一部分であるので、再び闇に溶け込むことはできるのだ。だが今度は聞き逃さなかった土魔法がの詠唱で、第二番目の魔法が発動。私の姿をまた数人に発見される。
優秀な統率者がいるのも面倒だが、それ以上に魔法使いの方が厄介だ。魔力探知によって、私のいる場所が闇に隠れていても知られてしまう。
風魔法で攻撃してみても防がれる。試しに統率者も攻撃するが同様である。仲間が二人を守るようにしているからだ。その仲間の影に隠れていて、見えない攻撃の風であっても二人まで届かない。
私達の情報は氷漬けした男達から筒抜けであるようだった。情報にない私の風魔法も、魔法使いが壁をつくることで防ぐようになった。加えて今いる部屋は地下へと続く道があるようで、相手の仲間の応援に駆けつけ人数が増える。
倒した分の人数が補充され、陣形が頑固になる一方だった。戦闘は私達の望む方へ進まない。
どうするべきか、と私は考える。勝敗は五分五分だったのが、相手の方に勝利が傾いている。
私がまだ魔力が有り余っているが、リュークは魔力が少ない状態だ。最初に魔力を大量消費したからである。逃げるときのことを考えて、魔力を温存するようにしてもらってはいる。
だから現状は魔力の消費の少ない、植物の操作だけに魔力は使われている。植物で足を引っ掛けるという地味な攻撃だが、視界が悪い中では効果的だった。相手が多いので、今回の状況では焼け石に水ではあったが。
私が威力の高い魔法が使える状況であったら、と思う。この建物は年季がはいっている。そのため魔法を発動させる際には、近くに建物を支える柱などの建物の崩壊に繋がらないことを確認してからになる。
ちなみにリュークの魔法の場合は建物を支えるようにして木を成長させたので、その心配はない。
相手共々床を氷で覆う手があるが、生半可な厚さでは床を踏み抜けてしまいそうである。なにより魔力が空っぽにはならないものの、大きく消費してしまう。
相手側に魔法使いがいて人数で負けているとなれば、それは悪手である。それに魔法を構築する時間的余裕はない。
迫る剣撃をぎりぎりで避けながら、何か現状を打破出来るものはないか考える。
相手の方もそうだ。答えが先に出たのは相手側であった。
「離せっ」
「暴れんじゃねえ!」
声変わりしていない子どもの高い声。私の声ではない。私は居場所を少しでも分からないようにするために、声は出さないようにしている。
「こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねえぞ。魔法も使うな。無詠唱だろうと、魔力を動かした時点でこいつの命はない」
大人にとっては細い首に剣を当てる。リーダーの男は私がいる場所を睨みつけながら、そう言った。
首に剣を当てられて、先程の威勢は消え青ざめて声を失っているのは王都までの護衛をした依頼主の息子である。
人質だ。
氷漬けした人達と憲兵として盗賊を留置場まで案内していった者から、相手の方が情報をもっていて有利だった。護衛任務をしていたという情報は特に。
その依頼主の息子という知り合いを人質にして動きを封じるというのは、私達にとってとても有効だった。
「その子には手を出さないで」
炎に照らされているところまで歩み出る。リュークもだ。戦意は消滅していない。隙をうかがう。
「お前と小龍次第だな」
「……」
杖を地面に置き、遠くへ転がす。「上物じゃねえか」と相手の仲間が拾い、嫌悪感を抱かせる笑いをした。
仲間が嬉しそうにしている間、リーダーの男はまだあるだろうと目線を私によこす。私は服に忍ばせていた短剣も同様に転がすこととなった。
「貴方達は王都に行く途中で出会った盗賊であったりする?」
「へえ、どうしてそう思う?」
「護衛依頼を受けていたことを知っていて、王都に来て一、二時間で計画的にリュークと私を襲ってきた。それに仲間の憲兵を使って仲間を救い、その子を捕まえたのでしょう?」
留置場に連れていかれたと思っていた盗賊は、リュークから最初に成長させた木に絡まっていると報告が来ている。そのことも伝えると「その通りだ」と素直に認めた。
男から話を聞くに、奴隷狩りする中に私達が護衛していた集団が対象になったようだった。仲間二人は置いての撤退となったが、殺さずに王都内の留置場に連れて行くとなれば助けることが出来る。
私達を追い抜かして先に王都に到着する。そして仲間の憲兵が案内すると見せかけて人気のないところへ連れ、再び襲った。
「このガキを救うために、あの親は今頃大金をかき集めているだろうなあ。まあ金を持ってきた後は用済みだから、殺すんだが。ガキの前でいたぶってみっとねえ姿をさらしてなあ!」
「金さえ出せば殺さないって言ってたじゃねーか! お父さんにも俺を人質にしやがって! この嘘つきやろうっ」
「俺らみたいなのは、普通に嘘なんて使うんだよ。バカはすぐに嘘を信じる」
怒り、暴れる人質の子を殴られていても、私とリュークは動けない。魔法使いが私とリュークのことを油断なく見ている。
「俺らのメンツを汚しやがったんだ。あの親には相当な報いだな」
「ざまあみろだ!」
「最後には俺が殺るから、楽しみにしておけよ? 愉快にさせる声を出させてやる」
「お前、生かせてもらったのに、酷え奴だなあ」
「だからこそだよ。そのお礼に子の前でいい最後をみせてやる」
「おい、話してねえでそいつらを縛っておけ。それと寝ている奴らを無理やりにでも起こせ」
私は腕を、リュークは口と両手足を縄で縛られる。その際、体を触られた。武器を持っていないかの確認だが、その目的以外のために触ろうとするので「触らないで」と足を思いっきり踏みつける。
「何しやがるっ」と憤る男だが、「挑発するな」と魔法使いに止められていた。
「バカかテメーら。縄は植物でできてんだ。枷もってこい」
「でもよガムザ。もう枷は余ってねえぜ」
「ああん? そしたら今つけてる奴らのをこいつにつけろ。魔法封じの枷だからな。小龍には口輪だ」
「へーへー。人遣い荒いぜ」
だるそうに地下へと行ったり、殴ったりして起こしているのを見る。まだガムザと魔法使いに見られているため、隙はない。
ないが、それなら作ればいい。
「ねえ、貴方達はいつかは報いがくるよ」
「ハッ。それは俺らが悪いことをしているからってか?」
「それもあるけれど、人を侮辱しているから。だからより色々な人から恨まれるよ」
自分達の仲間は大切にしているようだが、それ以外の人には冷たいを通り越している。
「余計なお世話だな。そんなこと分かっているさ。だがな、俺らのバックには貴族がいる。この国の貴族は腐っているからな。そいつらが高い金摘んで奴隷を望んでいるから、こうして俺らはやっていけてるんだ」
「奴隷をよく思わない貴族もいるよ」
「公爵のワットスキバーとかか? なら、そいつに近づかなければいい。今は王都にいるが、いつもは援助してくれる貴族の領地にいるからな。好き勝手にやれる。弱者をいたぶるのは楽しいもんなんだぜ? なんたって、自分が強者として君臨できる」
ガムザは仲間に預けていた人質の目の前に剣を突きつけた。人質からは「ひっ」と引きつった声。
「その子に当たるのは逆恨みだよ」
「そうだ。俺らは護衛をしていた冒険者に仲間はやられた。依頼主やその子どもじゃあない。だが逆恨みでも、幾分かはスッキリするもんだぜ? それにお前や小龍へのあてつけになる」
剣を人質の目の前でぐるぐるする。怯える様を楽しんでいるようで、歪に口角があがっている。
そして人質の目の横に、一筋の赤い線が出来た。
「ガムザ、やめておけ。こいつ、魔力が膨れ上がってる。それに小龍がウーウーうるさい」
「どうせ何もできやしないんだからいいだろ? 俺だって楽しみたいんだ」
「おい、本当にやめろ。お前だって魔力感じられるだろう?」
「面白いぐらいに魔力が膨れ上がってんな。この魔力量、そしてこの容姿。絶対に高値で売れる」
「ガムザッ」
「分かった分かった。じゃあ枷つければいいだろ? おいっ! 枷持ってくんの遅えぞ!」
慌ててその場にいた者が、枷を取りに行った者を呼びに行く。
私は冷めた目でそれを眺めた。
「どうせお前は人っ子一人、殺せねえんだろ? 大人びているが、こういうところは見た目通りガキだな」
「……違う」
「違わねえだろ。証拠に仲間は誰も死んでねえ」
「本当だよ。だって私、もう人を殺したことがある」
こいつは私を殺し、殺そうとした奴らと同じ存在だ。私の中で認識が変わり、ガムザを見る。隙は出来ていた。
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