第8話 格子点
僕は人差し指に対して、『理性的』であるという印象があった。
バロバを理不尽に叱責する所もあまり見なかったからだ。
忘れてしまっていたのだ。あの夜のことを。
人差し指の高らかな笑い声。バロバのうめきとも取れる低い音。
外に出ると、やはり凄惨な状態という言葉では表せない現状が目に飛び込んできた。
当然、バロバにもマナが必要なので、マナポーションたるものを用意されるのだが、
彼らの夕食の様子を見て、ぼくがどれだけ恵まれているのかを知った。
濁って、色がもう判別つかないような、ポーションの風呂に順番に何本もの親指が行列をつくり、入っては出て行く。
質が悪く、一度の補給で十分に回復できないのはもちろんのこと、驚愕したのは、全員分用意していないということだ。
バロバにもよく働き、優秀とみなされているものと、そうでない者がいる。
そして、実績が良い者は優先的に補給にありつけ、悪い者は回復できないからまた力が出せないという最悪のスパイラルなのだ。
そして、事態をより凄惨にしているのは、
言わずもがな、人差し指によるたゆまぬ暴力である。
親指が中央に集められて、人差し指が石を弾く。デコピンの要領。1人ずつ的にされる。
あまりの痛々しさに絶句していると、人差し指の1人が椅子を差し出してきた。
きやがった。
あり得ない。親指として生まれて、まだ夜を2回しか経験していないが、確かに親指に対して、同族としての意識はある。
僕が同族が虐げられるのを見たがっていると言う思考に行き着く人差し指に対する嫌悪とうっすらとこの世界を正さねばという正義感が湧く。
人差し指全員を集めさせて、バロバをこれから差別しないように言うことは簡単だ。
しかし、それで終わるような問題では断じてないように感じる。
そもそも、指間でどうしてこのような主従関係が生まれたのか、これを解決しなければ、この問題が解決したとは到底言えない。
それに、人差し指が僕に歯向かう危険もある。そんな可能性を孕むのなら、あえてこの鬼畜どもを利用しておくのが良いだろう。
本格的にこの世界についての情報収集を始める。
人差し指の1人を僕が疑問点をぶつける係に
任命し、知識の蓄えを図る。
『名はなんと言うのだ?』
なぜか、指たちの顔は全て識別できるのだが、個体識別名がないとやはり不便である。
『ナボナパパロサバリーカッチョ……………ナスケレーズです。』
なげーす。
魔法の詠唱だったらここら一帯、灰も残らないだろう。
聞けば、この世界において名前はこれまでの人生そのものであり、達成したことが名前になるらしい。
人間で言うと、『ウブゴエアゲメヲアケ…』
といった具合だ。だから、最初の部分がほぼ同じになる。こいつらがどう生まれるかは知らないが。
よって形式的な名前でしかなく、呼称はないそうだ。
以下、こいつはジョニーと呼ぶ。適当だ。
よろしく、ジョニー。
人差し指を潰すのに、一役買ってくれ。
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