第25話 冬④

 ◇◇◇


 散々だったクリスマスデートの帰り道、華を家まで送った。普段は私の家の前で別れるのだけれど、今夜はひとりになる時間が欲しかった。

 家への道すがら、私はもう一人の私への謝罪の言葉をずっと考えていた。許されないことをしたのは分かっている。受け入れてもらえるはずのない言葉を探す行為はただ、独り善がりの贖罪だ。ただでさえ危ういバランスに成り立っていた二人一役の恋人関係。理解していたはずなのに一時の欲望に抗うことができなかった。


 もう一人の私はリビングのソファでくつろぎながら文庫本を開いていた。静かな部屋に響くドアの音に視線をくれる気配はない。

 私はただ、扉の前で立ち尽くすことしかできなかった。足が重い。声が出ない。このまま、ここで立ち止まったまま、一人の私に裁いてもらえたらどれだけいいだろう。


 どれほどの時間そうしていただろう。羞恥と、後悔と、自責の念とで堂々巡りの感情の出口は未だ見えていない。

 不意にページをめくる音が止む。真冬の静かな住宅街、外の音も聞こえない部屋を完全な静寂が支配する。無意識に下に向けていた視線を上げると、もう一人の私は栞をした文庫本を静かに置いた。

 私を見つめるその視線はただ冷たい。静けさが重くのしかかる。何か言わなければ、でもいったい何を?


「いつまでそうしているつもり? いい加減、言い訳の一つでもしたら?」

 しびれを切らし口を開いたのはもう一人の私だった。静かな怒りを含んだ声色が、私の胸を貫く。

 それでも言葉は出てこない。無機質な白色LEDの光の下で、ただ視線だけがぶつかる。

「私と華とのデートの時間を奪っておいて謝罪の一つもしないつもり?ねえ、ずっとそこにいるってことは何か言いたいことがあるんでしょ?」

 何か言わなければと口を開くも、出てくるのは意味をなさない息遣いだけ。

「そうだよね、こういう時に何を言ったらいいか分からないんでしょ?分かってる、あんたは私だもんね。意志が弱くて流されてしまう癖に、そのあとに謝る勇気もなければ方法も知らない。知っている、痛いほどに。だって、あんたは私なんだから」

「それは...!」

「いいよ、どうせ華にせがまれたんでしょ?ずっと一緒にいたいって、きっとそんなところでしょ?もし、私が同じ状況になったとして、きっと同じ選択をするから」

 彼女の声色に、最早怒気は含まれていなかった。ただ諦めたような響きだけが冷え切ったリビングに木霊した。


「今夜は一人にさせてもらえる?」


 そう言い残し、もう一人の私はリビングを後にした。私は結局、何も言うことはできなかった。重い体を食卓の椅子へと下ろす。先ほどまで彼女が座っていたソファーに座るのはなんとなく気が引けた。

 やっぱり二人で華と付き合うなんて無理な話だったのだろうか。もう一人の私の言葉が茨のように絡みついて離れない。シャワーの音が聞こえなくなるまで、私はただぼんやり天井を眺めていた。

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