第23話 冬②

 手をつないで歩く人々の中を私も華と手繋ぎ歩く。今日はいよいよクリスマスイブ。通路に面した店舗のスピーカーからは楽しげな老人声と鈴の音が聞こえてきている。私たちはあてもなく郊外の大型商業施設へとやってきた。お決まりのデートコースとなっている服屋や雑貨屋もすっかり赤と緑に飾り立てられている。


 もう一人の私と話し合った結果、今日の前半は私が華と過ごすことになった。なんか最近の大きいイベントは全部もう片方に取られてるような気がする。でも、とにかく私は今華と過ごせる時間を大切にするって決めた。だって、焦らなくても華とはこれからもずっと一緒にいるはずだから。今年のハロウィンとクリスマスはもう一人の私に譲ったんだから、来年はこっちが目いっぱい楽しませてもらおう。さあ、まずは目の前の華とのデートを楽しむぞ!

 そんなことを考えながら、楽しくおしゃべりしながら歩いていると華が足を止めた。普段はあまり入らないサブカル系の雑貨店だ。どうやらちょっとしたプレゼントを売り出す戦略らしく、安価で奇抜な雑貨や食品が所狭しと並んでいる。

「ねえねえ、双葉。ちょっとここ見てかない?」

そう言いながら華は店先のワゴンに目を輝かせている。

「いいよ、面白そう」

私達は並んで歩く幅がないほど雑然とした店内へと足を踏み入れた。かわいらしい謎のマスコットや恐ろしげな包装の謎のお菓子に次々と目を奪われる。そのたびに華の肩ほどまでの髪が揺れ、私の胸が何度も高鳴る。

「うわー、このお菓子なんなんだろ?」

「ポテチみたいだよ。すっごい辛いやつ」

「へえー、ちょっと気になる。一緒に食べてみようよ」

「うーん、私辛いのそんなに得意じゃないし」

いくら華のお願いでも激辛は遠慮したい。だって、なんか袋の骸骨が火を噴いてるし。辛いのはあまり得意ではないのだ。それでもこうして華とじゃれ合う時間は心地がいい。


 気が済むまでウィンドウショッピングを楽しんだ私たちは駅前の方へと向かっていた。そう、今日のメインイベントであるイルミネーションを見るためだ。まあ見に行くのはもう一人の私なんだけど。隣同士バスに揺られながら私は彼女と回るイルミネーションを想像していた。当の恋人さんは隣でSNSをチェックしている。私たちに流れる優しい沈黙はまったく息苦しさがなくて、改めて彼女との距離の近さを感じさせてくれる。

 私の家の最寄りのバス停で降りて、ゆっくりとした時間は終わった。

「それじゃ駅の方行こっか」

華が私の手を取って歩き出そうとする。このまま一緒に歩いて行ってしまいたいが、残念ながら私はここまでなのだ。

「ごめん華、ちょっとスマホのバッテリー忘れちゃって。一回家寄ってってもいい?」

「バッテリーなら私持ってるけど」

「いや、すぐ近くだしちょっと寄ってくよ」

すると、華はくるりと私の前へ回り込む。


「わたしは少しでも長く双葉と過ごしたいの!ね、早くいこ?」


 上目遣いの華の瞳に吸い込まれる。彼女の提案はとても魅力的でこのまま身を任せてしまいそうになる。

「ほら、駅はこっちだよ」

 彼女の甘い声に、強く握られた手の温もりの誘惑に負けてしまいたく。いくら華のお願いでも超えてはいけない一線があると自分に言い聞かせようとする。しかし、そんな私をさらに追い詰めるように小悪魔な恋人は私の腕に抱き着いてくる。

「どうしたの?ねえ、そんなにスマホが大事?」

 その一言がとどめだった。華の悪戯っぽく怒った声に私はとうとう屈してしまった。

「もう、しょうがないな。じゃあ駅前いこっか」

 のしかかる罪悪感を振り切ろうと華とつないだ右手に力をこめる。まあ、文化祭もハロウィンもおいしいところは譲ったのだから、今日くらいは私の番でもいいだろう。折角のデートなのにそう必死に言い訳を並べている自分が少し嫌になりそうだった。

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