第36話 家の中
「いやー、久々に新鮮な模擬戦ができて良かった~」
勇者くんと別れた後、今日の模擬戦を噛みしめながら学校を後にした。
今日戦った勇者くんは強さこそ綾人や真也に劣るものの頑丈さに関しては恐らく俺よりも上だ。つまりゲームで例えるならば優秀なタンク職というところだ。
「明日も勇者くんと模擬戦したいなぁ」
なんて独り言を呟きながら家に帰る。
今日は模擬戦で(一人で)盛り上がったせいで帰るのが6時過ぎになってしまった。
本来ならば5時半には家に着いているというのに……
「ただいま~」
「おかえりなさーい。今日はちょっと遅かったね」
「うん、ちょっとね」
家に帰宅すると母親が出迎えてくれる。
母親が居間でパソコンを弄っているのを横目に自分の部屋に向かう。
家と言っても我が家はどっちかっていうと屋敷と呼んだ方が正しいような気がするようなタイプの家だ。当然、自室も和室だ。
「勉強ダリ~」
なんて言いながら教材を広げて自室の机で勉強を進める。
だるいとは言いつつもこれをやっておかないと学校の成績が酷いことになるからやるしかない。
時刻が7時を過ぎたころ家に父親が帰ってきた。
そして俺も夕ご飯に呼ばれた。
「「「「いたただきます」」」」
家族4人が居間に集まって正座で夕飯を食べる。
今となってはもう慣れた日常だ。
まぁ正座で夕飯って聞くと如何にも厳格な家なんだなぁって感じるが実際はそんなことはない。普通に食事中は喋ったりしてもするし、なんなら足が疲れている時とかは正座じゃなくてもOKだ。
「そういえば湊、最近は学校でうまくやっていけてるか?」
「大丈夫だって」
「そうか。まぁお前のことだし大丈夫だろうな」
「そうそう、どっちかっていうと俺は妹のほうが心配だよ」
「はぁ?お兄ちゃんよりかは充実した学校生活を送ってますけど?」
「そうか?どうせお前のことだから勉強もせずにずっと遊んでるんだろ」
「余計なお世話。逆にお兄ちゃんは学校で充実した生活を送れているの?」
「うーん。今日起きた話なんだが、頑丈なサンドバックを手に入れられてな」
「「「……は?」」」
「そのほかにも桜杯の打ち上げとか何やらで割と充実している生活をしているぞ」
「………そうか、………そういう話を聞けてお父さんも安心だ」
ちょっと顔が引きつっていたけどどうしたのだろう。
まぁ気にすることでもないな。
そんなわけでそのまま夕飯を食べ終えて自室にこもって勉強の続きをする。
そうして風呂が開いたタイミングで風呂に入り後は自由な時間だ。
最近はこの自由な時間で綾人たちとスマホゲームをするのにはまっている。
その後、ゲームを十分に楽しんだ後に俺は就寝した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私の名前は
私には兄がいる。名前は間宮湊。今は高校一年生だ。
最近、私にはとある悩みができた。
それは私の兄がどこかおかしいという所だ。
自慢ではないが私の兄は客観的に見て恐らくイケメンだ。芸能界の放り込めばある程度モデルとして稼げる程度にはイケメンだ。
そんなイケメンな兄の言動が最近おかしい。
もともと兄は人の好き嫌いが激しい人間だった。とはいえ好き嫌いが激しいといっても実際は嫌いな人間には徹底無視を掲げる程度の人間だった。間違っても嫌いな人間に対して悪口を言うような人間ではなかった。
だが最近、私の兄の口が悪くなってきているような気がする。というか気がするというよりもはや確信と言った方が近い。
所かまわず追い回してくるマスコミには撒いた後に暴言をボソッと吐くようになったし、マスコミの取材でも口の悪さが滲み出ているような気がする。
そして極み付けは桜杯が終わったある日、兄の自室から
「あのリンとかいうやつの取り巻きタヒんでくれないかな」
という声が聞こえてきた。
それにプラスして今日の「サンドバック」発言だ。
想像したくないが私の兄は学校で典型的な悪徳貴族のような振る舞いをしているのではないか?そんなことを心の中で思ってしまう。
だが私の兄がそんなことをするはずがない。
確かに口こそ最近は悪くなったが兄は結構優しい。街中で老婆の荷物を持つぐらいには優しい。
だから信じられないのだ。
言動の"言"の部分と"動"の部分が乖離しすぎている。あんなドスの聞いた声で「タヒね」っていう人がこんなに優しいとかおかしい。
そうこう考えているうちに1つの仮説が頭の中に思い浮かんだ。
「私の兄、家と学校でキャラが分かれている説」
というものだ。学校だと悪徳貴族で家だとイケメン優男という2つの仮面を使って日常を過ごして来ているのではないか?
そうと決まれば早速、情報収集に勤しむことにしよう。幸い兄が知らないような交友関係が私にはある。兄と同じ高校に通っている知り合いに連絡を取ることも可能だ。
もし兄が学校で悪徳貴族キャラでいるのならばまずい。
ただでさえ最近は華族に対するヘイトが溜まっているのに、こんなことがネットに流出するようなものなら大炎上もいいところだ。
そうなる前に一刻も早く調べなければならない。私の兄について、私の兄の学校生活のすべてを
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はっくしょい、今誰か俺のこと噂したんかな?」
そんな妹の懸念もつゆ知らず俺はくしゃみで目が覚めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます