39:山小屋を独占できない時はほっとする


 十一階をさまよった四人は、ようやく安全地帯の小屋に辿り着いた。

 実際には、マッキーのマップ機能とリンの魔物探知があるので最短経路だったと思うが、そもそもまっすぐ進めるようにできていない。

 一見すると平原が広がっているのに、辿った道を思い返せば九階までの迷路と変わりなかった気がする。


「今度は大丈夫だよな?」

「お前らは今さらだろ? 避妊しなくていいらしいし」

「ちょっ、シモン、その話はなし!」


 山小屋は、中に入れば絶対に死なないというだけでも十分過ぎるほど価値がある場所だ。しかし、前回がアレだったので慎重に周囲を確認した。

 とりあえず、見た目はただの山小屋で、看板はついていない。

 そもそも安全地帯に看板があったという話自体聞かないので、次からは気をつけようと思う。


 小屋の中は十階のアレとまったく同じで、さらに警戒度が高まった。

 とはいえ、僕たちは疲れていたし、もしもアレだったら自覚症状が出た時に逃げ出せば何とかなる。

 まぁ、カイとマッキーは今さらだ。催淫力の影響がなくとも、どうせああなってただろう。

 僕にとっては刺激が強すぎたが、いい勉強になったと考えればいい…のか?


「おや、先客かい?」

「お邪魔するよ」

「あ、はい。お気遣いなく」


 モヤモヤしていた僕たちは、他の冒険者が入って来たことで落ち着いた。

 本来、他の冒険者と一緒になるのは警戒すべきことだが、普通の安全地帯だという証明に思えたのだ。



「へぇ、君たちが噂の四人組なのかい」

「噂になってるのか? 僕たち」


 一緒に泊まることになったのは、ウリヅカ商会の組合所属冒険者五人組。

 リーダーのラサさんは冒険者歴二十年で、十年前に二十一階まで到達したという。黒光りする鎧をつけた、小柄で白髪のオッサンだ。

 他はチョビ髭のオッサンのオソ、短髪で細長い顔のカサタゴ、杖を持ったメガネの人ナガネ、そしてフードを被った小柄な女性カツラ。

 一番背が高いカサタゴさんが、僕と同じくらいなので何かほっとする。

 そうだよ、僕もロダ村ではチビなんて言われたことなかったんだ。


「エンストア商会なんて、二十年冒険者やってる俺すら聞いたことなかったよ。場所を聞いたら、みんな墓守の家だと思ってたし」

「マジであそこに住んでるのか? 若い女もいるのに大丈夫か?」

「危険かどうかと言うなら大丈夫だぜ。こいつはカビた布団で寝てるけどな!」

「何言ってんだ。最初は床で寝てたぞ」

「うへぇ…」


 商会の名前は誰も知らず、幽霊屋敷とか廃屋とか滅茶苦茶な呼ばれようだった模様。

 自分たちの本拠地を散々に言われて、僕たちは怒り狂った…はずもなく、一緒になって盛り上がってしまう。

 二階には墓地で拾ったガラクタが散乱しているとか、何十年もかまどが使われた形跡がなかったとか、廃屋あるあるで仮眠の時間がなくなってしまった。


「しばらく一緒に行動しないか?」


 そうして提案された合同攻略。

 僕たちはこっそりアオさんにも連絡をとった上で了承した。


 その場のノリで共同作戦をとることは珍しくない。

 ただし問題なのは、僕たちがアオさんと樹里様の援助を受けていることだ。

 アオさんはまぁ一応は顔出ししているが、樹里様は絶対秘密なわけで。


「マッキー。君の剣はちょっとすごいよ」

「その盾も大したもんだ」


 以前のエーコー商会の人たちの反応もそうだったが、この道二十年の冒険者から見ても滅多に見ないレベルの装備。下手をすれば、装備目当てで襲われかねないレベルだという。

 一緒にまわれば、そんな装備の使い勝手を実演するわけで、マズいんじゃないかとアオさんに確認した。


 アオさんの返事は、気にするな、だった。


 カイやマッキーの着けている装備は、ダンジョン内で手に入るものらしい。

 ただし基本的には二十七階以上、十八階ボスでは数年に一つ手に入る…、つまり二十二階までしか攻略されていない現状ではほぼ入手不可能だ。


 リンは、樹里様にもらった指輪を隠していた。

 まぁガラクタにしか見えないよう細工されてるらしいし、完全に隠せてなかったが何も言われなかった。

 実際には、アオさんの親バカ炸裂のトンデモアイテムなのだが。



 で。



「アオさん、本当に大丈夫なのか?」

「どうせ隠せないから気にするな」


 合同攻略にとって最大のネックは、言うまでもなく悪霊憑きの刀だ。

 なんたって、しゃべる。

 言葉を話す武器は、物語や伝説にはよく出て来るが実物なんて誰も見たことがないレベル。

 だが、アオさんと樹里様にとっては普通の武器だという。


「武器なんてしゃべって当たり前だ。なんなら人間の姿に化けるぞ」

「絶対にウソだ」

「師匠、いくら何でもそれはないぜ」


 一応否定してみたけど、アオさんってたぶん嘘はつかないんだよな。


「ガハハハハ! 我を崇めよ愚民ども!」

「ははっ!!」

「ラサさん、こいつが調子に乗るからやめて」


 仕方がないので自己紹介させたら、当たり前のように事故った。

 まぁノリのいい人たちで良かったのかも知れない。


「ガハハ、お前ら全員で一人の女を奪い合うのだな! 良い、良いゾ! それもまた若さの特権よの……って、や、やめろシモン!」

「やかましい!」


 余計なことを言い出して、カツラさんが硬直したので、慌ててかまど近くの灰の中に刺した。

 少しは反省しろ。

 刀に反省できるのか怪しいが。


「ゆ、愉快な刀だなぁ…」


 まぁ…、四人と一人じゃ大変だと僕も思ったんだけど、声に出すもんじゃないよな。

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