座敷わらし



背後から

声がした。


「うわッ!?」


思い切り

この校舎に響く叫び声を上げてしまった。

この場に、エレトしかいないとはいえ


すごく恥ずかしい。


というか、そんな場合ではない。

後ろの存在を

確認しなければならない。


子どもの声だったが

見た目がグロデスクだったら嫌だ。

先ほどと同じく

薄目で、後ろをゆっくりと振り向いた。


「?」


 そこには

グロデスクとは程遠い

キレイな着物を着た、かわいらしいおかっぱボブの女の子がいた。


「どうかされましたか?」

「あ、えっと…」


なんと言えばいいのか…

そう思って、エレトを見る。

それと同時に、女の子もエレトを見る。


すると


「……い…」


女の子が

震えだした。

エレトをガン見して。


…え?

なに?

因縁の戦い?


エレトは、少し困惑した笑みを顔に貼り付けている。

私も困惑しながら

エレトと女の子を交互に見ていると…


「…い、いけめん…!」


女の子が目を輝かせて

イケメンと叫んだ。


…え?

どこが…?


「ありがとー、キミもかわいーね」


まるでどうってことない様子で

小学生くらいの女の子を口説くエレト。


「おいまて、そんな顔で見るなよ」

「小学生くらいの女の子口説くとか…」

「ちげぇよ、イケメンって言われたから感謝しただけじゃん」


やんややんやと言い訳を述べているクソ男に冷たい視線を向けていると

女の子はハッとした顔をして


「しつれいしました…!」

「しょたいめんのかたに、いきなりへんなことを…」

「大丈夫だよ」

「…うん」

「それで、こんかいはなんですか?」


ペコペコとお辞儀している女の子。

すぐに立て直し、笑顔で私達に問いかける。


「君に、魂になってほしい」

「…え?」


魂?


「たましい、ですか」


魂って、人間に入ってるそれ?

幽霊になる根本の?

なんでそれが…


「魂を使って、シシ神…「死屍様」を出す」

「…っていえば、わかってくれる?」

「…はい、りかいしました」

「いい?」

「……」

「はい!だいじょうぶです!」


少し悩む動作を見せたあと

花開くようなかわいらしい笑顔を見せてくれた女の子。


 まだ、「シシ神」「死屍様」とか「魂」の使い道はわからないけど

あとでエレトに聞こうと思う。


「では、私の依代に案内しますね!」

「うん、ありがとう」


二人にしかわからない会話を、なんとか頭にとどめながら

私はエレトたちについていった。



〇〇〇



「「死屍様を出す」ということはあなたたちもかなえたいねがいが?」

「んー、まあそんなとこかな」

「あなたたちも、ってことは、他にも来た人がいるの?」

「はい!おとなのかたでした!」

「おとなねぇ…」


意味深な言い方をするエレト。

それを横目に

校舎中庭を眺めていた。


今、私達は

「依代」といわれる、女の子の魂のよりどころを目指して歩いている。


和室じゃないんだ…。


「…あの、聞きたいんだけど……」

「ん?」

「はい!なんでしょうか!」

「"シシ神"ってなに?」

「…あー」

「言ってなかったな」


そう言うと、少し呼吸をおいて

エレトは話し始めた。


__________



「シシ神」


それは、頭だけがない

人間と動物の魂の塊。

四肢だけがあり

獅子の姿をしていることから

掛詞となって

「死屍様」と呼ばれている。


死屍様は、祟り神であり

生物、つまり命を芽吹かせることができる。


だが、この姿はまだ未完成であり

人の頭を捧げることで

完成し

世界をも作ることができるようになるという。


そして、頭を捧げるという"呪い"

その、"呪い"をすることを代償に願いを叶えてもらえるということ。

44個の語りは

その死屍様を出すための

魂の持ち主

つまり、怪異を表す話の数なのである。


__________



「…と、これが俺の家にある本に書いてあったんだ」

「…そういうことだったんだ」


納得がいった。

つまり、その死屍様を召喚するために

この女の子の魂をもらう…ってこと?

それって…


「…あなたは、それでいいの?」

「どういうことですか!」

「魂渡すって…死屍様を召喚するために使われるんだから、もうこの世にいないことと一緒なんじゃ…?」

「………」


ニコリとした笑顔で

黙ってしまった。

少しだけ、うつむいて

顔を上げたと思うと


「だいじょうぶです!」

「わたしは、そういうやくわりなので!」


小さな体

その体に、どれだけ大きな役割がのしかかっているのだろうか。


私に、この語りのでき方はわからない。


けど、こんな小さな子に

そんな、辛いと思えるような役割を受けさせる神様が

少しだけ、冷たいとも思った。


「……そっか…」

「………」


何も言えなくなって

ただ、黙ってしまう。


そんな私を横目に

エレトは薄く笑っていた。



〇〇〇



 小さな小屋に来た。

木製で

蜘蛛の巣が張っており

ホコリがかぶっている。


「ここに、わたしのよりしろがあります!」

「…ここにね」


ほとんど使われてないように感じる小屋は

どこか、嫌な雰囲気がただよっている。


 あの和室と同じ

ホコリのように

煙のように

けむたい雰囲気が。


「では、あけますね!」

「………うん」

「……………」


ギイ…と

少しおもたげな木の扉が開く。

そして

私を先頭に部屋に入っていった。


その奥には………


「……?」


なにも、なかった。

「何もないよ」と声をかけようと

後ろを振り向いた


その瞬間


「だろうと思った!」

「!」


叫んだエレトが、どこからか大幣を出して

ロープを持った女の子と

対峙していた。

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