第19話 帝国到着、即襲撃


 エイルーン帝国に転移した『戦乙女の歌』の四人であったが、転移先の平原でモンスターの群れに囲まれていた。

 周囲を取り囲んでいるのは狼によく似た大型の肉食獣。白い体毛で全身を覆っており、額には尖った角を生やしている。

 予想外の出来事に唖然としていたのはわずかな間。すぐにエベリアが叫んだ。


「全員、戦闘態勢!」


「「…………!」」


 レーナとローナの姉妹が慌てた様子で武器の準備を始めた。

 四人とも転移先が街中であると聞いていたため、武器は仕舞ったままだったのだ。

 もちろん、エベリアも同じである。背負った盾と剣を取り出そうとする。


「ガアアアアアアアアアアアアッ!」


 しかし、モンスターは彼女達の準備が整うのを待ってはくれない。

 突如として目の前に出現した獲物にヨダレを流して喰らいつこうとする。


「えいっ」


 そんな危機一髪の状況下に気の抜けた声が響く。

 声の主はただ一人、武器を用意する必要のない人物。いつも素手でモンスターと戦っているアイシスだった。

 アイシスの拳が肉食獣の頭蓋を破壊し、一撃で絶命させる。


「わっ! この角、とっても固いよ! ぶったら手が痛くなっちゃうから、みんな気をつけて!」


 アイシスが場違いな注意を皆に促した。

 モンスターの頭には確かに角が生えていたが、アイシスの打撃によりポッキリと折れている。

 つまり、固いと言ってもアイシスにとってはその程度のものなのだろう。


「クッ……どうしてこんなところに、まさか依頼主に嵌められたのか!?」


 エベリアが悔しそうにつぶやきながら、戦闘準備を終えた。

 片手に剣。片手に盾。いつもの戦闘スタイルである。


「とにかく、敵を減らしてこの場を離脱するぞ! みんな、いつも通りに頼むぞ!」


「了解」


「わかったわ!」


「うん、みんな頑張ろうね!」


 レーナとローナの姉妹が了承して、魔法と弓矢で敵を攻撃する。

 アイシスは最前線で拳を振るい、敵を容赦なく撃破していく。

 いつものように……とはアイシスがメインアタッカーとして最前線で戦い、レーナとローナが魔法と弓矢で援護するという戦い方である。

 エベリアはガーダーとして、後衛を攻撃する敵の迎撃。司令塔として戦場全体を見極めて指示を出すことが役割だった。


 アイシスへの負担の大きな戦い方であったが……これが四人の能力を最大限に生かせる戦い方である。

 アイシスは難しいことを考えて戦うのが苦手なため、余計なことを考慮することなく前線で戦うのがもっともやりやすい。

 そんなアイシスが万全に戦えるよう、他の三人が全力でアシストしていく戦法である。


「えいっ、えいっ、やあっ」


 アイシスが目の前の怪物を次々と殴殺していく。

 側面や背後に回り込もうとしているモンスターを姉妹が間接攻撃で倒して、アイシスの負担を軽くさせる。

 姉妹への攻撃はガーダーのエベリアが通さない。いつも通り、順調に戦うことができていた。


「これは……このまま勝ち切れるか?」


 エベリアがつぶやく。

 このモンスターは決して弱くはないが、とんでもなく強いというほどでもない。

 急にエンカウントさえしなければ、焦ることもなかった相手である。離脱どころか、逆に全滅させることも難しくはなかった。


「あ、また増えたよ!」


 アイシスが叫ぶ。

 戦いの音を聞きつけたか、血の匂いを嗅いできたのか、新手のモンスターが姿を現した。

 出てきたのは大型の熊のようなモンスター。身体のあちこちを鎧のような鱗を纏っている。


「クッ……面倒だな。そもそも、ここはいったい何処なんだ?」


 エベリアの胸中に焦りが生まれる。

 モンスターを倒すことは難しくはないが、敵がどれだけいるかがわからない。

 休憩もなく、補給もなく、延々と戦い続けることはいくら何でも不可能だ。

 早めに安全圏に離脱したいところだが……場所がわからない以上、町や集落の方角も不明だった。


「ねえ、そろそろ使ってもいい?」


 アイシスが左右から襲いかかってきた角狼の頭を掴み、二つの頭部をぶつけ合わせてグチャリと破壊する。


「私は大丈夫だけど、みんなは大変なんじゃない? 私が一気に片付けようか?」


「…………」


 アイシスの提案を受けて、エベリアは思案する。

 何を使いたがっているかというと、アイシスの必殺技。モンスターを一撃で粉砕する神器……『神撃』である。

 消耗が激しいため、普段はエベリアの許可なく使用を禁止しているが……モンスターを跡形もなく消滅させるその力を発動させれば、この状況を脱することもできるだろう。


「仕方がないな。アイシス、やってく……」


「射てえええええええええええっ!」


「ッ……!?」


 男性の声が響いた。

 直後、何本もの矢が頭上から降りそそいできた。






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