魔族IT革命
白樹春來
プロローグ
第1話 意味もわからず殺される気分ってどんな感じ?
「人類も魔族も知的生命体という点においては同じであるが、なぜ魔族は悪とみなされるのか。人類こそが善であるという証明はどこにもない」(魔族史)
◇◇◇
魔族とは悪である。
魔族は人間を陥れる悪魔である。
魔族は人類の敵である。
これは、人類史に基づく一般的な常識である。
しかし、真実とは勝者が作るものであり、勝者が歴史を紡いでいく。敗者は為す術もなく、勝者による統治に
魔族と人間の戦争は長きにわたり争い、互いに消耗し、最後には勇者によって魔王が倒される。
いつからだろうか。魔族が人間にとって、ただの脅威ではなく、狩猟の対象として定義されるようになったのは。
◇◇◇
「魔王様」
配下が魔王の前で膝をつく。
「魔王様、我軍は劣勢であります。既に城は包囲されており、勇者一行が城へと侵入し我軍の精鋭を薙ぎ払って王の間へと進行しております」
「そうか……」
「娘よ。そなたを逃がすことができなくて申し訳ない。だが、敵の手に落ちることだけは絶対に許されない。わかるな」
「承知しております、お父様……」
「急ぎ儀式の間へ向かいなさい」
「魔王様、あれはまだ一度も成功していない儀式です。娘を生贄に捧げるのはあまりにも酷な話で……」
「黙れ」
一喝されて、その場にいた者は沈黙する。
「今の状況を見れば結果はどうなるかわかるだろう。秘匿していた技術を敵に見せるわけにはいかない。勇者は必ず俺が仕留める。あとは任せたぞ」
「はっ!!」
その後どうなったかは誰も知らない。ただ、魔王城もろともすべてが吹き飛んだ痕跡だけが残っていた。
◇◇◇
ウィルは33歳の日系アメリカ人で、親の遺産でニート生活を楽しんでいた。
多くの人は、そんな堕落した生活を見れば、親が悲しむだろうと思うかもしれない。
しかし、これまでの人生に疲れ切っていたウィルにとって、この怠惰な日々はまるで楽園のように感じられた。
彼の両親は、ウィルがサラリーマンとして懸命に働いていた時期に突然この世を去った。
両親の遺産を相続したウィルは、一見すると突然の大金持ちになり、人生が楽になるかのように思えた。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
遺産を狙って、あらゆる悪人がウィルに近づいてきたのだ。
暴力で脅してくる者、信用を装って金を奪おうとする者、色仕掛けを使って騙し取ろうとする者、さらには怪しい宗教勧誘や寄付の依頼までが絶え間なく続いた。
次第にウィルは、人と関わることが怖くなり、会社を辞めて引きこもり生活を始めるようになった。
そしてその孤独の埋め合わせとして、ゲームにのめり込むようになった。
最初はソロゲームから始まり、やがてオンラインゲームに夢中になるようになった。
さらに、ゲームに関連するハードやガジェット、プログラミングにも興味を持ち、独学で多くのことを学んだ。
ある日、ウィルは退屈を感じながら、ニュースを見ていた。
そこに新作のフルダイブデバイスの情報が流れてきた。
新しいデバイスに強く惹かれたウィルは、◯zonでその商品を注文し、届くのを心待ちにしていた。
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。カメラを確認すると、宅配便の人が映っていた。
「お届け物で〜す」
「荷物は宅配ボックスに置いてください」
「すみません。対面での受け取り希望のため、サインを頂かないとお渡しできません」
「そうですか……」
対面で受け取りする商品を購入した覚えはない。
ウィルはその宅配便の人に不審な気配を感じた。
インターホン越しに聞こえてきた声は無機質で冷淡、まるで録音音声がそのまま流れているかのような機械的な響きだった。
(なんだ、この感じ…普通じゃない)
慎重なウィルは一瞬考え、インターホンの録画モードをオンにした。
「すみません。対面受け取りする品物を購入した覚えがないため、受け取りを拒否します」
そう言って、ウィルはインターホンを切った。しばらくカメラをじっと見つめていると、宅配便の人が映し出された。
しかし、その顔には困惑の表情など一切なく、まるで感情を持たない人形のように無表情だった。
目には生気がなく、ただ淡々とカメラを見つめ返してくるその姿に、背筋が寒くなるのを感じた。
彼は一言も発することなく、無機質な動きでゆっくりとその場を立ち去った。
その不自然な様子に、ウィルは胸がざわざわと騒ぐのを止められなかった。
(一体なんだったんだ……)
恐怖心でいっぱいになりながらも、ウィルは無理やり気持ちを落ち着けてゲーム部屋に戻ろうとした。
しかし、どこか違和感が残る。
そう思いながら椅子に腰掛けたその瞬間――突然、「ガシャーン!」と普段聞こえない窓ガラスの割れる音が響いた。
「えっ、えっ?」
慌てて立ち上がり、ウィルは恐る恐るベランダへと向かった。
そこには割れたガラスの破片が散らばり、異様な光景が広がっていた。
周囲を見渡しても誰もいない。
強風のせいかと思い込もうとするが、胸の高鳴りは止まらない。
急いで管理会社に電話をかけようとスマホを手に取った、その瞬間――。
「うっ……!」
背後から何かが強烈に突き刺さる痛みが走った。
ウィルは突然の衝撃に目を見開き、叫ぶ間もなく、その場に崩れ落ちる。
「金だ、金を出せ!」
低く荒れた声が耳元で響く。
ウィルの体に鋭い冷たさがもう一度突き刺さり、彼は自分が刺されていることをようやく理解した。
全身に冷や汗が滲み、心臓が激しく脈打つ。
「ちょ、ちょっと待て!」
声を出そうとするが、恐怖と痛みに震え、言葉にならない。
「早くだせよォ~!」
相手の声はまともではなかった。
呂律が回っておらず、焦点の定まらない叫び声が耳元で響く。
まるで薬で頭が完全に狂ってしまっているかのようだった。
「わ、わかった……落ち着け……」
言葉に力がなく、ウィルは何とか話を繋げようとするが、相手は聞く耳を持たなかった。
「はあsldふぁslみゃあsdふぁslくfそjふぁあsだせ」
意味不明な叫び声と共に、さらにナイフが突き刺さる。
男の異常な力で、ウィルは無理やり抑えつけられ、再びナイフが深く腹部に食い込む。
「や、やめろ……!」
ウィルは抵抗しようとするが、男はさらに何かを懇願するように叫びながら、滅茶苦茶に刺し続けた。
(なんで……こんなことに……)
痛みが次第に消えていく。
ウィルの視界はぼやけ、体から力が抜けていった。そして、意識は完全に途切れた。
こうして、ウィルの死は確定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます