第4夜⑤
自ら紗子とのやりとりを打ち明け、悔やむ言葉を述べた寛高は、沙那に――紗子の身内に、断罪されたがっているのかもしれない。
「知らないわ。あの子が何を考えていたのかなんて」
けれど、その期待には応えてやれそうにない。
沙那があっさりと突き放すと、彼は面食らった顔をしていた。
「だって、あの子と私は別の人間だもの。勝手に知ったようなことを言ってはいけないと思うの」
紗子と私は違う。――内裏に来てから、ますますその思いを強くした。
沙那なら居心地の悪いこの場所にいるよりも、だらだらと家で引きこもっていたい。もし『実家に帰れ』と言われれば喜んで従っただろう。
だが、それは、紗子にとっては、耐えられないことだったのだ。
「分からないから、あくまでも想像だけれど、あの子にとって、あなたの言葉は、心が血の涙を流すほど痛かった……聞くのが辛い言葉だったんだと思う。その意味では、あなたが紗子の失踪の『原因』である可能性は高いけれど」
「容赦が無いな」
「誤解しないで。そのことと、『あなたが悪い』かどうかはまた別の話よ」
真実が耳に優しいものだとは限らないし、だからといって、『真実を伝えたこと』まで罪に問うていればキリがない。
悪いことなどしなくても人を傷つけることはあるし、人を傷つけたからといって悪いことをしたとも限らない。
寛高は紗子の失踪の原因かもしれないが、彼は間違ってはいなかったし、紗子を傷つけようとも思っていなかった。それはそれとして彼は起こった結果を悔いているし、沙那も彼の行いを快くは思わない。――そんな幕引きもあり得るだろう。
「……ありがとう」
率直に伝えると、彼はぽつりと呟いた。
「何が?」
「忌憚のない意見を聞かせてくれた」
「あら。責められて喜ぶなんて、被虐趣味でもあるの?……お有りなのですか?」
「お前に丁寧に言われると、かえって馬鹿にされている気がするな」
「うふふ、ごめんあそばせ?」
「やめてくれ」
げんなり顔の彼を見ると、可笑しさがこみ上げてきた。含み笑いをしている沙那と、彼の目が合う。
「……紗子の言ったことは、確かだったな」
「え?」
「何でもない。こちらの話だ」
意味を捉えかねて沙那が小首を傾げても、今度は答えてもらえなかった。
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