推しの人気がなさすぎて、人生終了しそうなんだが。
真田ヒョウ
第1話 推しの人気が、ありません。
「あああああああああああああああっっっっ!!!!」
佐々野葉ラルラ。女子大生。正確には国立大学一年生。今、一人暮らしの部屋で無事に昇天いたしましたぁん!推しの戦う姿にらぶ、どっきゅんしちゃいましたぁぁぁっぁぁ!!!!
読んでいた漫画「魔女っ子大学生がいるから日本はだいじょーぶ、なんだどっ♡」が、手から滑り落ちていく。まんがぁああああああああっ!!
「落ち着け。」
前のめりになる私を無駄にカッコよく支えてくれたのは、同級生で幼馴染で親友のみおし。私同様、一人暮らしで近くに住んでいる大学生。(小中高大いっしょなのは激アツなのよ。)
手には私が落とした漫画。どんな反射神経しとるんや、こいつは。それより、
「落ち着けるかっ、馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
と、みおしが漫画を開き、私の目の前に掲げる。そこに描かれているのは、フリル系戦闘服に身を包んだ漢……っっっ!!
「ぽるきゅううぅぅぅぅぅぅんっっ!!」
「推しの尊さで静かになるかと思ったのに、逆効果なんだった。」
忘れてたそうだった、とみおしは立ち上がり、手を銃の形にし、漫画の中のぽるきゅんにあてる。なんてことしとるんやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!本物じゃなくても物騒だろうがぁぁぁぁ!!!!
「こいつがどうなってもいいのか?」
「やだやだやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
あとこいつ呼びサラッとするんじゃねぇ!!!!
「じゃあ黙れ。」
私は口を閉じた。ぽるきゅんの命がかかっているからね。黙るしかないよね!!!たとえそれが概念的なものであるとしてもね…!!
「何回目だよ…。このやり取りはよ…。」
私はエヌ回目、エヌは8以上と付け加える。なんか急に冷静になれた。みおしから睨まれたが、あんたもリケジョならこんぐらい数学的なこと言わんかいと余裕の笑み。(私たちは意外だが工学部だ。)
ドヤっている私を見て、みおしがため息をつく。
彼女はいつだってクールだ。幼稚園から一緒にいるが、感情をあまり表に出さない。私からしたら、ぽるきゅんの前で何でこんなに冷静でいれるか意味がわからない。たぶん頭のねじが外れた、変な人なんだと思う。これを言うと、あんたの方が変だってみんなから言われるんだけどね。
説明しよう!私がここ数年はまりまくっている「魔女っ子大学生がいるから日本はだいじょーぶ、なんだどっ♡」、通称「まじょだい」は、数百年後の日本を舞台にした、超本格派アクション漫画である。現在、週刊ぱっつんで絶賛連載中。タイトルに反し、荒々しいひと昔前のような絵のタッチは、初期の頃は中年男性の心を掴んだが、最近はイケメンも多く出てくるため若い女性のファンも多い。(イケメンに群がる女は、界隈もジャンルも超えてくるため末恐ろしい。)
なお、単行本は12巻まで出ており、これからアニメ化、実写化、舞台化に期待大だ。ファンもますます増えるだろう。焦る。
「その中でも私の最推し、ぽるきゅんことぽるぽるくんは、戦闘系ゴツマッチョゴリラ風魔女っ子たん(寡黙)なのよっ!!荒れまくった日本の治安を立て直すために放たれる大迫力のパンチ!それは!!!泣く子も黙る威力なの!!ちなみに身長2メートル以上!!超ロン毛!!私の好みにホームラン!!でっかい肩幅とふりふりな服からのぞく谷間で全力誘惑してくるの!!やばすぎっしょ!!!でも私は、ニーハイが筋肉でところどころ破けているところが特に好きすぎて!!性癖ってゆーか!!!あ、あ、あ、それと!!!ナース服バージョンはたまにしか見られないから、本当に要チェックなんだよぉぉ!!!」
「ねぇ、マジでうるさい。」
途中から声が出ていたみたいだ。みおしが、本当に迷惑そうな顔をしている。が、私はそんなことには構わない。彼女の肩をがっしり掴み、ゆさゆさと揺する。
「何で人気ないと思う??」
そう!!私が考えるぽるきゅんの最大の弱みは不人気なことなのだ。10巻発売記念に行われた人気キャラ投票は、メインキャラ寄りのモブキャラとは思えない38位。通行人のお兄さん(ただただ顔が良い)よりも低かった。
これにはもちろん悲しみを通り越して怒りが爆発。何でこんなに人気がないんかと暴れていた高校生の私を、みおしがケーキバイキングに連れて行ってくれた。みおし様万歳。でも、あの時の悔しさとその他諸々は、ケーキの甘ったるさと共に体に刻み込まれている。くそがぁああああああぁあぁぁぁぁぁっ!!!!!一生忘れねぇからよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!
このキャラ人気投票以降もぽるきゅんの活躍はまずまず、といったところだ。
こんなに悩んでいるラルラちゃんに、みおしはどう答えるのか。
私はグーにした手をマイク代わりに、「ぽるきゅんの人気がない理由とはっ?みおしさんの回答まで3,2,1,…っ!!どーぞっ!!!!!」と迫る。顔と顔の距離は2ミリ。恋がはじまっちゃう距離!!!!私はぽるきゅん推しなのにっっ!!!!(葛藤)
みおしは一拍置いた後に、口を開いた。
「全部。」
時が、少しだが止まった。
「もうお前帰れよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」
意識を取り戻した私はみおしを突き飛ばす。もういい!!誰も推しの魅力をわかってくれない!!!!
クッションに顔を埋め、床の上でばたばたする。
みおしが薄情にも立って帰る準備を始めた。
このっっっ!!!!馬鹿っっっ!!、腰をホールドしてベッドに押し倒す。ここでマジで帰るやつがあるかあぁぁぁぁっっ!!慰めんかいっ!!
みおしが布団の上に倒れこむ。
「っっ!?あぶなっ…。」
彼女にしては珍しく焦った顔をしている。ふふふ、可愛いじゃないか…。
「そんな顔…できたんだね?」
「本当に気持ち悪い。」
みおしが車酔いしたときのような青い顔で言い放つ。
私は理解した。人って、キモいより気持ち悪いって言われた方が傷つくんだね…。(個人の感想です。)
数分後。みおしは大好物の甘納豆を提供することで留まってくれることに決まった。
こういうの為に、我が家には甘納豆があるんだぜ。母上にみおしが入り浸っていることを伝えたら、実家から大量に届いたんだぜ!!
「人気ないって騒いでるけど、人気出てきたら怒るじゃんあんた。」
「わかってないねぇ、みおしちゃん。」
人差し指でみおしの鼻をちょんっとつつくと、物凄い勢いで振り払われた。指がっっっっっ!!痛いぃぃぃぃぃぃぃっ!!
「私は別に同担拒否とか、キモいことしないもんっ!!」
じんじんする指をぴっと伸ばして胸をそらす。
「同担拒否の人も世の中にはいるんだぞ。謝れ。」
「申し訳ございませんでした!」
みおしの言葉に素直に頭を下げる私。キモいは言い過ぎました。ごめんなさいっ!!
「別にぽるきゅん推しでもいいんだよ?ただ、私が一番だから。」
「キモい。」
みおしが間髪入れずに返してくる。お前っ!!!!私にキモいって言うのはいいのかよっっ!!!!
「何だよ私が一番って。」
「そのまんまの意味だわぼけぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
物分かりがすこぶる悪いみおしに説明してやる。
「ぽるきゅん好きな人は認めるけど、色々考慮したら、全オタクの中で私が一番なことを理解しとけよってこと。まぁ、なんていったって古参ですしぃ?」
「そういうのが、同担拒否って言うんじゃないの?」
頭が悪いんだねって蔑まれたが、そうなのか??私って同担拒否なのか??
「それに、そもそもぽるオタクっていないんじゃないの?」
うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!それは言わない約束だろうがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!何でこの馬鹿は現実をみせようとしてくるの??!!地雷踏んでくるの??!!意地悪してるから婚期遅れるんじゃないかしらん????
「もしも!!仮の話だってば!!!!」
生産性のない話をしても仕方がない。場もあったまったことだし、本題に移ろうじゃないかっ!!(唐突)
「みおし、さっきの全部って何だよ?」
「は、何のことなのかわからないんだけど。」
しらばっくれても無駄なのよ、馬鹿!!!!私は近くのクッションを掴む。
「ぽるきゅんが人気ない理由だよっっ!!!!全部…全部ってあんた…っ!!私じゃなかったら本当に許してないよ!!私でもぎりぎり許してやったんだぞ!親友ってことで!!」
「あ、許してるんだ。じゃあその手は何だろうね?」
クッションを振りかざしている状態の私に、みおしは微笑みかける。
「脊髄反射だぞっ♡」
「可愛く言っても物騒なんだよな…。滲み出る怒りを隠しきれてないんだよ…。」
いや、怒りを感じてるならまずごめんなさいだろうが!!!!
「全部なのは事実だから、ごめんなさいしない。」
子供か、あんたは!!!!事実だろうが事実じゃなかろうが、人を傷つけたらごめんなさいなんだよ!!!!
みおしが甘納豆をつまむと、口を開く。
「だって怖いじゃん。顔とか。」
確かに怖いけど、よく見ると可愛い顔してるんだよ?それに、人を見た目で判断したら駄目だよってこいつは教わらなかったのかなぁ?道徳ってやっぱり大事だよなぁ…。
「泣く子も黙る威力のパンチって、子供泣いてたじゃん。」
あまりの尊さに涙を流す子供だっているじゃんね。世間知らずの若者が増える世の中っていやぁねぇ…。
「言葉が悪いじゃん。」
それはツンデレなんだよ。
「人の心ないくらいぼこぼこにやっつけるじゃん。」
時には厳しさって必要なんだよ。優しさだけで世界は救えると思うな。陰でのちょっとの厳しさが、色々救うんだよ!!!!
「あと…。」
続けようとしたみおしを手で制し、私はため息をつく。
「ごめん。あんたの意見全部論破できるわ。」
「あと、シンプルにファンがうざい。」
…ぽるきゅんのファン代表、私の笑顔にヒビが入る。
論破できないガチのやつきたぁぁぁぁぁぁ…。
「なんでぽるきゅんの魅力に気付かないんだよぉぉぉぉぉって毎回暴れてるし、同じシーンではじめて見る人並みに興奮するし、私が意見を言ってもこれだから世の中の奴らは…って一般人も巻き込んでいくじゃん。」
…何も言えないよね。その通りすぎるから。
「作品自体の古参かなんか知らんけど、イタイよね普通に。」
私は黙る。作品自体は2巻から推しているという情報を伝えたいが黙る。
みおしも涼しい顔で黙る。
何とも言い難い時間が流れていく。
みおしがお構いなしに甘納豆を遠慮なく食べつくしていく音が部屋を支配する。
横目で彼女をちらりと見る。ああっ……!!私が狙ってた栗の甘納豆も食べちゃったよぉっ…!!!!
しばらくして甘納豆を食べ終えたみおしはふっと笑った。急に。
いきなりなんやっっ!!怖いぞあんたっ!!!!
「まぁラルラは見てておもろいからいいけどね。」
「っっ……!!!!」
きゅうん。と胸が鳴った。(ガチ)
やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええっっ!!!!惚れてしまうだろうがぁぁぁぁっ!!!!私はみおしとは親友がいいんやっ!!!!
彼女はたまにこういうことをしてくるからズルい。
私はバイトに行く、と今度こそ帰る準備をしているみおしに思いっきり抱きつく。これこそ脊髄反射だよね!!
手には後で自分で食べようと思って出さなかった甘納豆を握らせる。土産と言う名の貢ぎ物だ!!!!持ってけドロボー!!!!
「大大大好きだよぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」
お腹から声が出た。
「あっそ。」
「ねぇ、みおしも私のこと好き好きだよねっ?私たち、みおしとラルラちゃんは、ちゅきちゅき同士だよねん!!!!」
「やかましい。」
みおしが顔を背け、甘納豆をカバンに入れる。照れんなってぇぇぇぇ!!!!
「ラルラちゃん大好きって言って!!」
甘納豆を几帳面にしまっていたみおしが顔をあげ、私を見つめる。
じっとのぞき込むように見つめられる。首を微かにかしげながら、顔のパーツを確かめるように、丁寧に。
なになになにっ?!怖い怖い怖いっ!!この見つめ方はイケメンしかやらんやつやねん!!!!
それにしても、綺麗な顔してんなぁ。相変わらず。
だんだん私も目の二重幅はお母さん似だな、小さめの鼻はお父さんに似たんだな、とか色々考えちゃっていた。何してんねん。みおし、はよラルラ大好き言わんかい。
たっぷり時間をおいて、みおしは口を開いた。
「ラルラちゃんのお母さん大好き。」
時が、少しだが止まった。(本日二回目。)
お邪魔しました、の声だけがうっすら残っている。玄関の扉が閉まってからようやく、私に意識が戻ってきた。
みおしはいない。あいつ、私が固まってる間に靴履いて出て行ったんかいっっ!!速すぎるだろ!!!!プラス、意識をぶっ飛ばしている親友を見捨てていくとか人の心無さすぎるだろっ!!!!
ラルラちゃんのお母さん大好きって…!!!!好きじゃなくて大好きって…!!!!
何でっっやねんっっ!!!!たしかに甘納豆送ってくれてることは伝えたけどさ!!
あいつ…っ!!!!人をおちょくるのもいい加減にせぇよっ!!!!覚えてろよ!!
私の脳内で、みおしがしてやったり顔でピースしている。
あと、みおしが唐突に笑ったのは、ブドウ糖を取ったからだと後から気が付いた。昔から甘いもの食べるとニコニコしてたもんな。あいつは。
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