キスのしかた

初めてのキスは


レモン味もイチゴ味もしなかった。



無味



緊張の味




顔と口から火が噴き出した。





「え…」



「いいいいいいってらしししししゃい!」


ギャーーー!

恥ずかしい!

顔見れない!

早く行って!


全身全霊で下を向いていたら、朝霧さんが一歩後退ったのがわかって、恐る恐る顔をあげた。




朝霧さんも真っ赤だった。




恥ずかしそうに目をそらす。

耳まで赤い。

隠すように口元を覆った手

え、拭いてないよね?



チラッと目が合う。



「やば…そんな顔で見んなって…」


↑ウルウル


ふぅっと、小さなため息をついたと思ったら、朝霧さんが1歩詰め寄りスッと背中に回った両腕。

腕の中に囲われて、真っ赤になった顔は見えなくなった。


「スズごめん…もしかして気にしてた?」


「全然!なんにも気にしてないよ!

 ただキスしてみたかっただけ!」


頭の上でクスッと笑ったのがわかった。


ホントよく考えたらなに言ってんの私…

キスしたかったとか…どんだけ積極的だ…



「こっち見て」



優しくささやく声



「初めて…だよな?」

「初めてに決まってるじゃん!

 朝霧さんが初カレなのに!」


また笑う

クスクスって。


「そっか」


そんな優しい声で

そんな優しい目で


私…おかしくなりそうだよ…




「スズ、こうするんだよ」




背中に回ってた手が髪を梳き


頬を撫でる。



「目を閉じて」



目を閉じると、涙が伝った。



涙の跡を拭う指


そして



そっと


優しく




唇と唇が触れた。




キスはやっぱり甘い



甘いのは心が感じる味



ハチミツみたいに甘いキスだった。






ゆっくりキスが離れると、顔を見る間もなくギュッと腕の中に戻された。


「スズ」

「ん?」


「今から福岡行くとか無理なんだけど」


はい?



「なんで今するんだ…

 ほんと無理…離れたくない…」



「私もギュッてしたい」

「背中に手まわしてくれたらいいけど」

「あそっか」

「気づいてなかった?いつも一方通行だった」

「早く言ってよ、わかんないんだから」

「うんごめん」

「もっかいしたい、忘れないうちに」

「もうやめといて」

「なんで?したい」


「もっかいだけな…」


「目、閉じる?」

「閉じる」


目を閉じて待つと、大きなため息が聞こえた。



「早く~」



チュってキスが当たったのはおでこだった。



「行ってきます…」


「うん!行ってらっしゃい!」



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