第9話 土曜日の裏側(凜視点)



紗良と土曜日ももっと過ごしたかった。

…けれど、仕方がない。

一年ほど海外に仕事で行っていた伯父さんに久しぶりにみんなで会う日だ。

久しぶりに伯父さんに会うのに、それを仕方がない予定とは薄情だと思う。

けれど、そう考えてしまうのは仕方がない。

紗良と過ごせない残念な気持ちは表に出すことはないけれど、気持ちに嘘は付けない。


夕方伯父さんの家に行く前に、お姉ちゃんと待ち合わせて何かお土産を買ってから行くことになっている。

お母さんとお父さんは、今日も仕事で、職場から直に伯父さん家へ向かうって言ってたから朝からいない。


だからお姉ちゃんと私に、お土産選びは任されている。

お姉ちゃんとの待ち合わせの時間まではまだまだ時間がある。


それなのに紗良は帰ってしまった。


静かすぎる家に一人の時間が出来てしまった。

とりあえずソファーに深く座ると、しんと静まったのを際立って感じた。



お昼ご飯も食べて帰ればよかったのに、食べたら動くの面倒くさくなるからって紗良は言うから–––––



「お昼になるし、そろそろなんか作ろうか?」


お昼は食べて帰ると思い込んでいたから、立ち上がりながら私はそう声をかけた。


「うんん、お昼前には帰るよ。凜も予定あるし」


ローテーブルにしだれかかってスマホを見ている紗良がそのままの体勢で言った。


「予定ってまだまだ早いよ。お昼ご飯食べてからでも全然大丈夫だよ」


「うん、でも食べたら動きたくなくなっちゃいそう。まったりしちゃうと動くの面倒になるから」


「確かにそうだけど」


「ゴロゴロして居座ってこのまま帰らなくなっちゃおうかな。そしたら凜も一緒にゴロゴロに引き込んじゃうからね」


そう冗談を言って紗良はラグの上に寝転がって見せる。


「ふふっ、それもいいね」


私はそんな紗良のそばにしゃがんで、寝転んでいる紗良の顔を見下ろして答えた。私は本当にそれでもいいと思ったんだけど・・・


「凜、予定あるのに私の話肯定しちゃダメじゃん!」


居座って私の予定を邪魔するような冗談を言い出したのは紗良なのに、その案を肯定した私に、人差し指を立て少し驚いたように注意してくる。

私が紗良の冗談を否定すると思っていたんだ。当てが外れて止めに入るのがかわいくて笑ってしまう。


学校ではいつも一つにまとめている髪がラグの上に投げ出されている。

綺麗な黒のストレート、その髪をまとめてみると鎖骨の先まである。

隣に座り込んで、それを確かめるようにゆっくりと手に取って紗良の肩の上に沿うように流した。

学校の時とは印象が違う。こうしてだらっとしている時のほうが、気を許されている気がして私は好きだ。


ふと一瞬、一瞬だけ、紗良は真面目な顔になって、見つめてきてすぐに起き上がった。

その真意は分からないけれど、たまにそういう時がある。


もしかしたら一瞬、紗良も帰りたくないと思ってくれたのかもと思ったけれど都合がいい解釈かな。紗良のことだから、きっともう帰った後何しようなんて別のことがよぎったんだろうな。


「はあ…ぁ」


紗良はため息まじりの声を出して、私の膝の上に頭をのせてまた寝転がった。



「ん?・・・・・・

––––ふふっ」


ん?と思ったのは一瞬で、横顔にちょっと帰りたくなさそうな雰囲気を感じて笑いが漏れた。

意外だった。ため息なんて、そんな反応すると思わなかった。


紗良はそんな私に「なに?」と不思議がっていたけれど……



それでも、結局、わかっていたけれど、紗良は昼前に帰ってしまった。




お昼ご飯は冷凍庫にあった温めるだけのミールセットを1人で食べた。

暇だからって自分だけの食事を作る気にはならなかった。


電車に乗って待ち合わせのショッピングモールに向かおうかと家を出る。

家を出て少ししたところで電話がかかってくる。

表示を見るとお姉ちゃんだ。


「はぁ~ぃ、何お姉ちゃん」


「もしもし、凜今どの辺にいる?」


「え?どの辺って家出て少し行ったところだけど…」


(「○○駅までお願いしてもいい?凜に駅で待っとくように言うから・・・・・・」)

そう電話口の向こうで誰かと話しているお姉ちゃんの声が聞こえた。


「凜、愛海が車出してくれたから。そこの駅のロータリーで待てて、車で迎えに行くから」


「えっ、笹本先生と一緒なの?」


「うん、話してたら送ってくれるっていうことになったから。まぁ後でね」

そう言って電話は切られてしまった。


笹本先生が一緒なんだ。それなら私夕方合流で全然良かったのに。先生とお姉ちゃんでお土産選んでくれてよかったんだけどな。

それの方が先生にとっても喜ばしいことのはず。

私邪魔じゃん。


もっと早く言ってほしかった。

そしたらもっと紗良を引き留めてたと思う。

でももう紗良は帰ってしまったし、私は駅に向かっている。


ムカつくので、先生とおねーちゃんの間に入ってちょっとお邪魔な存在になってやろうかな。なんて。


先生の車は快適だったし、

休みの日のモール内は人が多くてワイワイとにぎわっていたし、

飲みたいと思っていたいちごとチョコの新発売のドリンクはおいしそうだった。


だから気に食わない。


先生の車で、私はもちろん一人後部座席で。

モールの人混みで人の流れで離れないように、お姉ちゃんは時々先生の腕を引いて先生は嬉しそうだし。

いちごとチョコのドリンクは今度飲もうと紗良と約束したばかりだったから。


こうなったらと、先生とお姉ちゃんの間に入るという邪魔を本当にやってやった。お姉ちゃんは意に介していないようだったけど、先生にはイジワルっと言っているような視線を送られた。

先生に罪はないから、申し訳なかったけれど……


途中ゲームセンターを通り過ぎる時、紗良が好きだって言っていたキャラクターの小さなぬいぐるみが目に入った。


「ちょっと待って、ここ入りたい」


そう言って、2人を引き留めてゲームセンターに入った。

UFOキャッチャーはほとんどやったことが無いけれど、これは取りたいな。


「凜、それがそんなにほしいの?私がやってみようか?」


何度か失敗している私を見て、お姉ちゃんがそう言った。


「うんん、私が取るから2人は他のとこ見てていいよ」


2人がもっと奥の方に入っていって、私は集中してUFOキャッチャーとにらめっこした。

何度もにらめっこを繰り返して、やっと取れた時はうれしすぎてお姉ちゃんと先生の所に行って見せびらかしてた。


「うん、よかったね」

って2人も一応喜んでくれた。


その後はお土産も買って、先生はわざわざ伯父さん家まで送ってくれて、帰っていった。


ショッピングモールでの後半は、まあまあ2人になる様にしてあげたから許してもらおう。


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