パスカルの原理

「神さま、パスカルの原理って何ですか?」


「どこでそんな言葉、覚えたの?」


「いや、アライグマの画像をネットで検索していたら……」


「おめえ、アニメとか見てる暇あったら働こうとか思わないわけ?」


「ははは……」


「まあいいや。パスカルの原理な」


「お願いします」


「密閉された空間の中における流体について、一部の圧力を変化させると、流体中の全圧力が同じだけ変化するってやつだ。流体ってのは、水とか気体とか、流れる性質を持つ物体のことな」


「さ、さっぱりわからない……」


「早い話があれだ、注射器の原理だよ。押してるのは一部なのに、針からはちゃんと薬剤が出てくるべ?」


「なんだか、当たり前のような気もしますね」


「コロンブスの卵ってやつだな。パスカルの気づきがなかったら、車のブレーキもオイル・ダンパーも生まれてねえんだぜ?」


「そういわれると、すごい人ですね、パスカル」


「だろ。アライグマの画像がうーたらなんて中年男とは天地の差だわな」


「たはは……」


「ところでお前、動物趣味なんてあったの?」


「だってかわいいじゃないですか」


「お前はかわいくないけどな」


「……」


「クソにたかるハエのほうがよっぽど上等よ。生存を考えてるだけな。それにひきかえ、てめえときたら」


「はは、これはお説教モードですね……」


 こんな具合で中年男は、ネチネチと神さまからしぼられたのである。

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