第二話 祝い
父は馬を降りて俺の目の前にぬっと生首を突き出した
俺は「またか、ここは耐えなければ」と思いながら、生気のない気味の悪い生首をじっと見つめていた。
10秒ほどして流石に俺が気分が悪くなって来て顔が青くなって来た時、父は嬉しそうに大笑いした。
「うむ!やっと吐かなくなったか!皆のもの!わしの武功を祝うも結構だが一人前となったルイの祝いもしてやってくれい!」
その声に領民達は再び歓声を上げ、腕を振り上げた
父はその様子を目を細めながら頷くと馬に乗り、俺の方を見て頷いて城を指差した
「本日、お前の成人の儀を行う。夕刻より執り行うから遅れずくる様に」
そう言い捨てて、直臣を10名ほど連れて戻って行った
この世界では14で成人になるらしい。
まぁ、寿命がそもそも然程長くないこの世界ではとっとと成人して20代後半までに結婚しないと出遅れてしまうのだ
「セシル、やる事も無いから城へ行こうか」
俺がそう言うとセシルはまだ剣の稽古がしたいのか先ほどの兵士の一団をチラチラと見ながら渋々頷くと俺について城へ歩き出した
「若様は剣術の稽古をもっとした方がいいのでは無いですか?」
「俺はいいんだよ。俺が剣を抜くときはもうその戦いは負けてる」
俺が使い古された言い訳を述べるとセシルはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた
「そうだとしても、若様はご自身の身を守れる程度の剣の腕は持っておいてくださらねば」
「お前が守ってくれるだろ?」
そう言うとセシルはため息をついてもう何も言うまいと言った様子で黙ってついて来た
そうして少し歩いていると居城であるフルデリ城の正門への坂道が見えて来た。まぁ、城と言っても然程大きなものではなく数十年前に破却された山体の砦を父達が協力してまともに使える拠点として作り替えたのだ。
なので斜面がきつくて登城するのがとんでもなく疲れる。父はこれも鍛錬だとか言うがもう少しバリアフリーってやつに気を遣ってくれてもいいと思うんだ
そんなことをブツクサと一人ゴチながらセシルを連れて城の正門をくぐり、評定所へと向かった
評定所と仰々しく言っては見たものの実態は村の寄り合いという方が正しかった
俺が建物に入ると奥の一際立派な椅子に父が座り、その手前に支配領域の3つの村の3人の村長、そこからさらに手前には武官が数名席に座っていた
「おぉ、ルイ!もう来たか!皆の衆、話し合いはひとまず後だ。まずは我が家の嫡子の成人の儀を執り行うとしようぞ」
父が叫ぶと家臣たちは拍手をして俺が会議の席に入ってくるのを迎えてくれた
にしても、成人の儀とやらは何をするのだろうか
俺が小首を傾げると数人の部下が一人の男の両腕を掴んでを引っ張って来た
「まさか、この男を殺して一人前とか言われるのでは無いですよね……。」
と俺が恐る恐る父の顔を見ると父は「は?」と言った顔で首を振った
「貴族はその様に野蛮な事はしない。その男をお前の部下につける上手く使ってみろ」
そうだった父は貴族に憧れているんだったな。そりゃ周りから見て野蛮な事はしないか
「では、この男は一体?」
「わしも他人から聞いた話なのだがな、世の貴族というのは子息が成人した時に家臣を与えるそうだ。だが、わしの部下は名のあるものはまだ10人足らず」
そりゃそうだ、まだ決起してから3年と経っていない。そんな中で有能な部下を息子のお守りにつけている暇はなかろう
「そこでだ!山賊の生き残りの中で従順な此奴をお主の部下として与える!」
「ん?」
山賊……?ガッツリうちに恨みのあるタイプじゃ無いか!?
寝首をかかれるなんて勘弁だぞ!?
「まぁまぁ、その様に変な顔をするな。其奴はお前に3年仕えれば恩赦を出すということにしてある。精々上手く使うことだな」
そう言って父はガハハと笑うと椅子の下から酒を取り出した
「部下を下賜する儀の後は酒だ!そうであるな?グレッグ」
「へぇ、子爵様の館ではそのようにしとりました」
父は最年長の村長にニコニコと儀式について話を聞きながら満足そうに頷いている
そして宴会が始まった。
父と家臣達は戦勝祝いと山賊共の根城から分捕った物をお互いに自慢げに掲げていた
末席に着いた俺の後ろにはセシルと並んで先ほどの無愛想な男が腕を組んで立っていた。後ろに立たれると威圧感がすごく、上背が今年14になるセシルの1.5倍ほどあり細身の男なのにオーラで大きく見える
「あー、すまないが。名前を聞いてもいいか?」
俺が体を捩って彼の顔を見ると男は初め反応しなかったが数秒の沈黙の後口を開いた
「俺に言ってるのか?」
「あ、あぁ。お前に言った」
「俺はハンター、ハンター・ノーランと言う名前だ。最も、名字など名乗ったのはこれが3度目だ。ハンターと呼んでくれればいい」
言うことを言ってしまうとハンターは無愛想な顔に戻り口を真一文字に結んで宴会の方へと視線を戻した
はぁ、コイツと仲良くするのって大変かも……。と、俺が思いハンターの方へもう一度目を移すとハンターの目は微動だにせず一点を見つめていた
その目線の先を追って見ると彼の視線は父の飲む酒に一心に向けられていた
やれやれ、そう言うことか。俺は合点がいくと父の元へ杯を一つ持って歩いて行った
「父上、私も成人でございますれば父上より杯をいただきたく思います」
そう言うと、父は既に出来上がった赤ら顔でニコニコと笑うと無言で酒の瓶を付きだし、俺が受け取ると村長との会話に戻って行った
まぁ、飲んでいいってことなんだろう。14歳に酒を問答なく瓶ごと渡すあたり、この世界の保健の授業って終わってそう……。そもそも、そんなものないか……。
そんなことを思いながら瓶を抱えて席へと戻った
そして自分の杯に酒を注ぎ、横に転がっていた誰かの杯にも酒を注いだ
「恩赦の祝いだ。飲め」
とハンターの前に杯を突き出すとハンターは目を見開いて杯と俺とを見比べた
そして意を決した様に杯を受け取るとグッと飲み干して「ふう」と息を吐いた
そこへ何処からか酔った者の投げたであろう杯が飛んできた
ハンターはそれを見ると拳で杯を殴って俺に当たるのを防いだ
俺とセシルが呆気に取られているとハンターは相変わらず無愛想な顔で肩をすくめると
「山賊の名にかけてもらった物ぐらいの事はする。もっと働かせたければ褒美をはずめよ」
そう言って彼はまた黙って直立不動の姿勢に戻った
うーん、意外と損得で動いてくれる分この男は御し易いのか……?そんなことを思いながら杯の酒に口をつけてあまりのアルコールの強さに吹いてしまったのは内緒だ
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