Crisis(危機)
冷子からの電話が切れた音が私の携帯から鳴っていた。それから遅れて、盗聴している方の携帯電話から電話の切れる音が聞こえてくる。
「やったか?」
「分からないなあ、スーツケースの中を見られても、爆弾が分からないように、かなり爆弾を小型化したから、爆発力は低いのよ。
だから、スーツケースのかなり近くにいないとまず殺せない。それなのに、スーツケースから離れられてしまったら、殺せている可能性は低くなるだろうね。」
「どうにか今すぐに殺せないのか?」
「無理だね。
空港には人を向かわせていないし、空港近くに仲間がいないから、今は殺せないね。それに、今の爆発でターゲットに狙われていることがバレてしまったから、下手したら、このまま雲隠れされちゃうかもしれないね。」
「嘘だろう。……なんで、計画がバレたんだ?」
「……まあ、今の電話の会話から見て、ターゲットの電話相手である越前泡が僕達の計画を知っていた。だけど、事前に知っていた訳ではなかったようだ。だって、事前に知っていたら、もっと早く対策を打つはずだろう。なら、どういうことが考えることができるかと言うと、ターゲットからの電話がかかってきた瞬間に、スーツケースの爆弾の存在を知った。」
「?」
「今言った状況が起こり得るのは、僕たちの会話が盗み聞きされているって可能性だけだ。」
「本当なのか?」
「まずったなあ。完全に油断していたよ。まさか、盗聴されているとは……。でも、相手の盗聴はあまり上手くないみたいだね。車木、携帯を叩き壊して。」
「はあ?」
その後、機械が床に叩きつけられる音が聞こえた。
「相手は氷室の携帯電話を使って、僕らの携帯電話を盗聴器に変えている。それに、相手は僕らの携帯電話から情報を引き出そうとしている。僕らの持っている情報を盗まれるよりは、携帯壊しておく方が賢明だよ。」
「ちっ、お前ら聞いてんのか。
1回ならずも、2回も計画を台無しにしやがって、だが、精々今は喜んでいろ。確実に、こっちのターゲットを殺してやる。そしたら、お前も死ぬんだ。攻めるこっちの方が守るお前達よりも有利なことを忘れるなよ。少ない余命を振るえて眠りな。」
「あまりにも発言が三下だねえ。でも、もうそこらへんで壊しちゃおう。もう少しで情報を盗まれちゃう。」
「ああ、分かったよ。じゃあな。」
車木はそう言った後、携帯の画面が割れる音がし、通話が途切れてしまった。私達のいる部屋には、沈黙が流れた。
「……電話、……、電話しよう。とりあえず、冷子の安否を確認しよう。」
私は未だ動揺を受けていたが、一茶は私よりも冷静だった。私は一茶の言葉からワンテンポ遅れて、冷子に電話をかけた。
私が冷子に電話をかけてから、コール音が繰り返された。少なくとも、冷子の携帯電話は壊れていないことが分かった。その気づきによってもたらされた安心は、一瞬だけ私の心を安心させたが、繰り返されるコール音に、その安心はかき消され、不安が増幅していった。
しかし、コール音の繰り返しがしばらく続いた後、突然、そのコール音が途切れた。
「……ハロー……色々言いたいことはあるけれど……とりあえず、生きてはいるわ。」
冷子は息を切らしながら、そのように呟いた。私はほっと胸を撫で下ろした。
「冷子、今から私達が置かれている状況を簡潔に言うから、口を挟まないで聞いてちょうだい。」
「……分かったわ。」
「まず、この電話は冷子を殺そうとした連中に盗聴されている。それと、携帯の位置情報もハッキングされている可能性が高いから、その携帯はこの通話が終わったら捨てること。それと、あなたの持っている電子機器も捨てておくことね。
そして、あなたを殺そうとしている連中の名前はC3よ。C3は再び、冷子の命を狙ってくる。だから、逃げるなり、隠れるなりして、生き延びて。C3に盗聴されているから詳しいことは言えないけど、私達には秘策があるわ。だから、絶対に死なないで。
分かった?」
「……分かったわ。……でも、あなたこそ、私がそっちに行くまで死なないでね。」
「……ええ、分かったわ。お互い生き残りましょう。」
「うん。」
冷子はそう言って、電話を切った。
「冷子は生きてたんだな。」
一茶は確認するように聞いた。
「……そうよ……とりあえずはね。」
「これからどうするんだ?」
「そんなの決まっているでしょう。タイムマシンを作るのよ。」
「……。」
「このワープ装置を使って、タイムマシンを作るの。そうすれば、C3が私達を殺そうとする前に何とかすることができるでしょ。だから、タイムマシンを作りましょう。」
「……本気で言っているのか?」
「……えっ……本気で言っているわよ。
……大丈夫、私達ならきっとタイムマシン作れるわ。」
「……そう言う意味じゃなくて、冷子を助けるのに、タイムマシンを作るのが、最善手なのか?」
「それはそうよ……。C3の能力の底が見えない限り、相手はどんなことをしてくるか分からないの。だけど、タイムマシンを使って、過去に行くことができれば、私達は起こる未来を分かっているんだから、いくらでも対策をうてるわ。」
「……違うよ。」
「えっ……。」
「違うよ。冷子を救うのに、タイムマシンを作ることじゃないでしょ。
ラムネの言っていることは分かるし、正しいと思う。確かに、タイムマシンを作ったら、過去に行けて、いくらでも対策は打てるだろうよ。でも、なんか違うよ。
僕達がタイムマシンを作って、過去に行けば、冷子も僕らも助かるかもしれないよ。でも、今いるこの世界で、冷子を助けることを諦めていないか?
冷子は今、C3にいつ何時殺されるか分からないんだ。いくらタイムマシンを使って、過去を変えることができるかと言って、そんな状況の冷子をラムネは放っておけるのか?
それに、ラムネは冷子に言ったよね。私が何とかするから、冷子は生き延びてって。100歩譲って、タイムマシンを作って、過去を変えようとするのはいいとして、ラムネはこの世界の冷子に私を信じて、生き延びてって言ったよね。
その時、ラムネはタイムマシンを使って、過去を変えることを考えていたんだろう。今いる未来では冷子を助けることができないと分かって、冷子に生きて延びてって言ったよね。
それって、卑怯じゃない。
ラムネがそんなこと言った理由って、タイムマシンを作っている間に、冷子に死なれたら後味が悪いからそう言ったんでしょ。そのために、この世界の冷子を助ける気もないのに、生き延びて欲しいんでしょ?
……なんて言うか、ラムネにとって冷子って何なの?
確かにラムネと冷子はいつも言い争っているけど、心では通じ合っているものだと思ってた。
でも、ラムネにとって冷子はその程度だったんだね。
今のラムネにとって、冷子よりもタイムマシンの方が大事になっているよ。でないと、タイムマシンを作るっていう発言は出ないよ。冷子を救うことが目的じゃなくて、タイムマシンを作ることが目的になってるんだよ。
ラムネの言葉を信じて生き延びてる冷子のことを諦めている。
もうそれは、卑怯とかそう言う話じゃなくて、人として有り得ないよ。ラムネはそんな簡単に仲間のことを諦める人間だったの?
それが本当なら、僕はもうラムネについていけないよ。」
「……。」
私は何も言うことができなかった。
「図星なんだね。なんかもう……ごめん。一旦帰るよ。僕は僕なりに冷子を助ける方法を考えるよ。……ラムネはラムネで自分のためにタイムマシンを作ったらいいよ。
でも、僕はちょっと手伝えない。」
難しい顔をした一茶はそう言って、私から視線を外した。そして、コインランドリーの出口に歩いていき、そのまま、外へ出て行った。
___________________________________________________________________________
私はまた友達を失ってしまった。
私はあの日、冷子を失い、今、一茶を失った。私は静かなコインランドリーの中で、孤独を感じていた。ただ、私の中に残った私と言う存在に寂しさと同時に怒りを覚えていた。私は私を優先しすぎた。すべて私の基準で、物事を進め過ぎた。
他人のことなど考えず、私の基準のまま物事を進めてしまった。それが駄目だってことを分かっていたはずなのに、私は同じ過ちを繰り返した。
私は誰もいないコインランドリーの中で、静かに泣いた。その泣く声が無機質なコインランドリーの中で反響していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます