Giant-killing(下剋上)

 吋がコインランドリーにワープしてくる数分前……


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「吋はワープ装置を持っていること、吋は私達より圧倒的に強いこと、吋に仲間がいる可能性が高いこと、私達はこの3つをどうにかする必要があるわ。」


 泡が作戦の発表を始めた。


「まず、吋がワープ装置を使って、このコインランドリーの中にワープしてくることは確実ね。でも、あのワープ装置には、おそらく1人しか入れないから、吋1人がこのコインランドリーにワープしてくるでしょう。


 そして、私達を殺そうとしてくる。


 吋達の仲間は、私達がワープ装置を使って、逃げようとすることを考えて、このコインランドリーの高さと同じくらいの場所で待ち伏せしているはずよ。おそらく、吋からの連絡がない限り、その場所から動かない。


 ならば、このコインランドリー内で、吋をどうにかして倒して、連絡手段を断つ。そして、後は吋の仲間のいる場所を警察に通報すれば、一旦、私達の安全は確保できるはずよ。


 もちろん、吋の仲間は銃刀法違反に当たるような武器を持っているでしょうから、現行犯で逮捕できるはずよ。日本の警察に、そんな武装した連中を制圧できるかは別の話だけど、少なくとも私達は連中の仲間をかく乱することは出来るはずよ。」

「それはいいとして、問題は吋をこのコインランドリーで倒す方法だよ。


 吋は僕はともかく、ラムネですら手に負える相手出ないように見える。そんな相手をどうやって、倒すんだ。」


「実力でどう頑張っても及ばない格上の相手に勝つ方法は大体2つ。それは、運か不意打ちの2つよ。私達の命を運に任せるなんて、馬鹿げたことはできないから、出来ることは不意打ちだけ。


 じゃあ、どうやって、不意打ちするか?


 不意打ちを成功させる可能性を上げるためには、まず、相手を油断させないといけない。じゃあ、私達を殺そうとしに来ている相手をどうやって油断させるか?


 吋が私達が確実に殺せると確信し、殺そうとした瞬間に、不意打ちをすればいい。


 確実に目的を遂行できたと確信している時ほど、人が油断している時は無い。そして、狩人が獲物を狩る時、狩人は1番無防備になるものよ。


 だから、この2つが合わさった状況を作り出す必要がある。その状況を作り出すために、私が考えた計画はこうよ。


 まず、私がこのワープ装置の洗濯機の中に隠れる。一茶は腕を怪我しているから、この洗濯機の中に入る役は向いていないわ。だから、私が洗濯機に入る。次に、ワープで吋がこのコインランドリーに来る。吋は一人だけの一茶を見て、私はワープ装置で逃げたと考えるはず。


 さらにそこで、一茶が無駄話をして、話を長引かせる。そしたら、私がワープする時間を一茶が稼ごうとしていると勘違いして吋はワープ地点に仲間を待機させていたことが成功したと確信するはず。そして、吋がその確信したことを間抜けにも言ったら、完全に油断している証拠よ。


 言わなかったら、言わなかったでいいんだけど、とにかく、ある程度吋と話したら、この洗濯機をドンドンと拳で叩いて、私に合図を送って、そしたら、私が洗濯槽で暴れて、洗濯機を揺らして、電気のバチバチする音を鳴らす。


 きっとそれで、吋は私がワープしたんだと思うはず。そしたら、一茶はできるだけ後悔と悲しみの表情で、洗濯機の蓋を開けて、そのまま、吋に背中を向けたままにする。


 ここまで、カモがネギをしょって歩いているような状況を吋にお膳立てしてあげれば、きっと吋は一茶の背中をナイフで襲いに来るでしょう。


 そしたら、その瞬間を見計らって、私が不意打ちをかます。吋は勝ちを確信して、油断している上、ワープの後の洗濯槽の中には何もないと思っているでしょうから、きっと反応が遅れる。だから、この状況に持ち込めれば、ほぼ確実に吋に攻撃をできる。」

「……攻撃方法はどうするんだ。このコインランドリーには武器もないし、例えば、棒みたいな武器はあるけど、それは洗濯機の中から出てきてすぐ使うのは難しい。それに、1発ですぐに動きを止めないと、僕は刺されるし、ラムネも危ないかもしれない。」

「1撃ですぐに人の動きを止める方法ならある。」


 私はそう言って、横の洗濯機を見た。


「あの洗濯機、漏電しているみたいなの。どうやら触っても大丈夫なようだけど、一茶ならこの電気をどんな人でも気絶させるくらいまで調節して、その電気をコードで伸ばすことはできるわよね。」

「まあ、そのくらいなら、すぐにできると思う。」

「なら、そのコードを吋に当てる。これなら、吋の皮膚に当てるだけで、洗濯機の中から出てすぐに攻撃できるし、ワープの時の電気音を出すことができて、一石二鳥。これが私の計画の全て。


 もし、私の言ったことと吋が違う行動をした時点で、私達は2人とも殺される……。」

「それで行こう。


 ……必ず成功する。その計画で2人で必ず生き残ろう。」

「……うん。」


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「ラムネの言った通りになったね。」

「うかうかしてられないわよ。吋から連絡手段を奪わないと。」


 私は倒れている吋の体をあさって、携帯電話を奪った。


「吋の仲間の場所を警察に通報しといてくれる。私は吋が動き出しても大丈夫なように、体を縛っておくから。


 あっ、一応、警察にいたずらと思われないように、なるだけ、言葉を選んでね。いくらなんでも、あんまり日本では信じられない内容だから。」


 私は一茶にそう言った後、吋が残した洗濯機の中の洗濯物の服を取り出して、吋の手足をきつく縛った。私は服で吋を縛った。吋に拘束を抜け出されないか心配だったが、しばらく気絶しているし大丈夫だろうと思った。


「多分、警察は動いてくれるっぽい。焦って、息を切らしている演技をしながら、電話したら、一応信じてもらえたっぽい。」

「一応、警察が動いて、吋の他の仲間が捕まったと分かるまでは、このコインランドリーに籠城しましょう。


 ……もう暗いわね。」


 気の置けない時間が長すぎて、思ったよりも時間が経っていたようだ。泡は携帯電話で時間を確認すると、ちょうど19時を表示していた。



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 それから、40分程経った頃に、携帯に亀山から連絡が入った。銃を持った集団がマンションの上で警察に捕まったらしい。その後、その事態を重く見た警察が通報を頼りに、私達のいる山の近くでも銃を持った人間をほぼ全員捕まえたらしい。


 まだ、残党がいるかもしれないので、十分気を付けるようにと言うことだった。その連絡の後に、野次馬根性を見せて撮った戦利品だと言って、警察と銃を持った集団が銃撃戦をしている写真が添付されていた。写真には住宅街で、銃を発砲する恐ろしい写真だった。その写真は合成じゃないリアルな写真だ。


 ここまで、日本の警察は優秀だっただろうか? 日本警察なのに、銃に対する対応が良すぎる気がするが、まあ、亀山が命懸けで撮った写真を信じて、警察が吋の仲間を何とかしたとしよう。まだ分からないが、とりあえずの安全は警察が守ってくれるだろう。


「はあ、やられちゃったなあ。」


 私は思わず、縛り上げた吋の方を見た。吋の手足はちゃんと縛られていて、座ったままの状態だった。


「大丈夫、大丈夫。もう、手は出さないさ。見ての通り、手も足も出ないだろう?」


 吋は体を揺らして、動けないことをアピールした。その自由の利かない吋の姿に反して、吋の顔は余裕に満ち溢れていた。


「いやあ、殺せないとは思っていたが、まさか、あんな不意打ちをされるなんて思わなかった。流石だねえ。


 お……お2人さん。」

 私は一茶に吋から離れるようにジェスチャーを送った。


「それに、この時間だともうC3の奴らは全員捕まっただろうな。」


 吋は時計などを何も見ずに、そう言った。


「おそらく今の時間は、きっかり19時42分。」


 私が携帯の時間を見ると、吋の言った通り、19時42分だった。


「俺がここからいなくなるまで、残り1分を切ったって訳だ。」

「何を言っているの?」


 吋は取り乱した私をあざけるように笑った。


「確かに、俺の持っているワープ装置はそのワープ装置と同じように、一方方向しかワープできない。それに、今のC3の技術でも、自由に離れたものをワープすることができない。


 ……でもね。19時43分に俺は君たち2人の前から消えるよ。」


 私は吋の言うことに理解が追い付かなかった。


「そろそろ、時間が短くなってきたから、君達2人に伝えたいことを2つだけ。


 1つ目、今日の日付。今日の日付はフィラデルフィア実験が行われたとされる10月28日。さらに、俺が消える19時43分は、フィラデルフィア実験が行われた年の西暦と一致している。


 2つ目、これは一茶君、君に送る言葉だ。


 可能性はいつでもゴミ箱の中にある。」

「……それってどういう意味だ?」

「どうやら、説明している暇はないみたいだ。だって、もう19時43分だろう。あっ、それともう1つ実は俺、吋って名前を気に入っているんだよね。じゃあ、この辺で伝えておきたいことは終わらせて、刮目かつもくしておくんだよ。


 今からの起こることは、君達への救済だ。


 ……じゃあ、またいつか。」


 私が携帯の時計表示を見ると、19時43分になっていた。


 私が時間を確認した後、吋の方向を見ると、座って縛られている吋の姿は跡形もなく消えていた。

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