Time machine(タイムマシン)

 私はコインランドリーの扉の窓ガラスをノックしてみた。


「はい、どちらさん?」


 そうすると、奥の部屋から吋が出てきた。


「別に呼んでない。」

「じゃあ、ノックしないでくれよ。」

「そもそもあんたの家じゃないわよ。」

「でも、あんたの家でもないだろう。」

「論点ずらしは止めて、今はノックをしたら、あんたが来ることについての話、私の持ち家とかそういう話じゃない。


 ……奥の部屋に行ってなさい。私と一茶の2人だけで話がしたいの。」

「何? 告白?」

「つまんないこと言ってないで、立ち去れ!」


 私は殴りかかるように、拳を振り上げて、いんちに向かっていった。


「分かったよ。2人がイチャイチャしている間に俺は奥の部屋で閉じこもってますよ。」


 吋はそう言って、奥の部屋に戻っていった。


「ごゆっくりー。」


 吋は扉を閉じて、奥の部屋に閉じこもっていった。


「やっぱり、吋は巻き込みたくないのか?」

「別に……、でも……。」

「何?」

「別に何でもないわ。それよりもタイムマシンの話をしましょう。」

「分かった。


 ……でも、ワープを使って、どうやってタイムマシンを使うんだ。ワープは空間で、タイムマシンは時間だろう。関係ないように見えるけど……。」

「そんなことはないわ。空間と時間には密接な関係にあるの。特殊相対性理論から空間を進む速度によって、時間の進みが遅くなったり早くなったりするの。」

「よく分からない話になってきた。」

「まあ、そう言うと思ったわ。


 じゃあ、まず、光の速さについて教えることにしよう。でも、今から話すことは分かりにくい特殊相対性理論を私なりに限りなく分かりやすくするために、かなり嚙み砕いた表現になるから、厳密なものとは違うことを分かってね。」

「はい。」

「じゃあ、光の速さについての話。光は大体どんなものよりも速いわ。もちろん例外はあるんだけど……。


 とりあえず、光は一番速いとする。じゃあ、これを覚えた上で、小学生の時の復習をしよう。速さは何÷何で表される?」

「ええっと、速さだから、きはじのはを隠すから、距離÷時間?」

「そう、速さ=距離÷時間で表すことができる。それで、光はこの世で1番速いということを思い出して。これはつまり、絶対的で変わることのない数値だって言うことができるの。


 そうなると、速さは変わらないから、速さ=距離÷時間の内、距離と時間を歪ませるしかないの。」

「なるほどね。現実のイメージは付かないけど、数式上はそうなるね。だから、時間が短くなったりすることがあるってことだね。」

「その通りよ。今回は軟弱な頭の人間はいないから、このくらいの説明でいいかしら。」

「まあ、いいと思うよ。


 ……でも、これとワープをどうやって結びつけるの。」

「基礎理解としてその知識がいるのよ。」

「まだこれで基礎理解なのか。」

「そうよ。まだまだあるから覚悟しといてね。


 じゃあ、ワームホールを使ったタイムマシンのやり方について話していくわね。地点Aから地点Bまでワープするとするね。この時、地点Bを光に近い速さで遠くに動かしたとするとどうなると思う?」

「ワープする場所をめちゃめちゃ速く動かすってことだね。


 ……何が起こるの?」

「質問を質問で返されたけど、まあいいわ。


 何が起こるかと言うと、地点Aから見て、地点Bは時間の流れが遅くなるの。」

「はて? どういうことでしょう?」

「また別の話になるけど、ボールを手に持って投げ上げて、天井に当たったとする。この時、ボールが進む距離はどれだけ?」

「それは、天井と投げた手の距離でしょ。」

「そうね。では、車の中でボールを投げたとするとどうかしら?」

「……同じじゃないの?」

「まあ、電車の中からならそう言う結論になるわね。でも、電車の外から見たとすると、電車は進んでいるから、その分の距離だけボールは多く進むことになるんじゃない?」

「言われてみれば、そうかもしれない。」

「となるとよ。このボールを光と考えてみる。電車の中では光は天井に進むまで、一直線の距離しか進んでいない。でも、電車の外から見ると、その天井までの距離より長い距離を進んでいる。


 そうなると、光の速さは変わらないことと速さ=距離÷時間であることを合わせて考える。光の速さが変わらないけど、距離が変わってしまった。そういう状況なら、時間が変わるしかないのよ。この時、数式と合わせて


 そうなると、電車の外からは長い時間が経っているつもりでも、電車の中では短い時間しか経っていないことがあり得るの。


 つまり、早く進む物体はそうでない物体と相対的に比べて、時間が遅く流れることになるの。」

「だから、相対性理論ってこと?」

「そういうこと!」

「すげー、賢くなった。」

「そして、地点Bを光の速さで移動させた場合、今言った理屈から、地点Bは時間の進みがゆっくりになるので、地点Aと時間の進み方に差ができる。例えば、地点Aでは100年経っていても、時間の進みの遅い地点Bではほんの数秒しか時間が進んでいないなんてことが起こるの。


 身近な所で言うと、浦島太郎ね。竜宮城では数日しか経っていなかったのに、地上では何十年も経っていたみたいなこと。


 ここで不思議なことが起こるの。この時間の流れに差がある状態で、ワープを使うとどうなるかというと、100年経った地点Aから地点Bに移動すると、実質100年前に戻っていることになるの。そして、地点Bから普通に地点Aに戻ったとすると……。」

「結局100年後のA地点に戻るんじゃないの。」

「いや、今度は地点Bも地点Aも光の速さで移動させていないから時間の流れの差はないの。すると、100年前の地点Bから地点Aにワープすると、100年前の地点Aに戻ることができるの。つまり、100年前にタイムトラベルすることができたことになるの。」

「まあ、かろうじて理解はできたかな。


 つまり、ワープする地点を光の速さで動かすことができれば、このワープ装置は、タイムマシンに早変わりするということだな。」

「そういうこと。だから、このワープ装置のワープ地点を光の速さで動かすことができればいいんだけど、その方法を昨日、徹夜で考えた結果、この洗濯機を高速回転させることで、それが可能にすることができるかもしれない。


 前に言った通り、このワープ装置のワープ地点は、この洗濯機の回転数によって決まる。そして、その回転数は、洗濯時間で決まる。しかし、洗濯時間終了からワープ地点の設定までには時間の差がある。その証拠に、設定した洗濯時間が終わった後に、ワームホールを作るための電気の音と揺れが起こっている。


 ここから分かることは、設定した洗濯時間が終わった所の洗濯槽の回転数で、ワープ地点が設定され、その後の回転数は含まれない。じゃあ、もし、ワープ地点が決まった瞬間に洗濯槽を急に高速回転するとどうなると思う。」

「ワープ地点が移動して、時間の流れが遅くなる?」

「その通り! つまり、タイムトラベルが可能ってことよ。」

「凄いじゃん!」

「まあ、あくまでも仮説の段階だから、上手くいくか分からないけれど、これがワープ装置からタイムマシンを作る方法の全容ね。分かりにくい部分があったと思うけど、一応そこは私がカバーしてタイムマシンの設計図を作るわ。


 そして、一茶にやって欲しいのは、洗濯槽を限りなく速く回転させる技術的なアイディアを入れること。洗濯槽の回転は、実際の距離よりも縮尺が違うから、光の速さで回転させることはないけど、もの凄い速さで回転させなければならないわね。」

「分かった。つまり、何とかして洗濯槽を速く回せばいいんだろう。とりあえず頑張ってみよう。」

「お願いするわよ。いつ、氷室が私達を攻撃してくるか分からない。なるだけ早くタイムマシンを作り出しましょう。」


 私はそう言って、一茶にタイムマシンの一速い開発のために団結を促した。そう言った後、突然、コインランドリーに形態の着信音が響きわたった。私の携帯に電話がかかってきたようだった。私は白衣のポケットから携帯電話を取り出して、電話の相手を見た。


 電話の相手は、冷子だった。


 冷子は一茶と同じく、小さい頃からの幼馴染である。冷子は私と科学や知識で議論しても、タメを張れる程の人間で、善く小さい頃は口喧嘩をしたものだった。だがもちろんタメを張れると言っても、私の方が優秀だったはずだ。


 私と冷子は高校へ進学するタイミングで、同じアメリカの大学に飛び級して入学することになっていたが、私はそれを断って、近くの公立高校に進学し、冷子はアメリカの大学に進学した。


 私はその電話に躊躇いながらも、電話の受信ボタンを押し、耳に携帯電話を押し当てた。


「ハロー、ラムネ、元気にしてる?」


 冷子の調子に乗って、自信過剰な懐かしい声だった。アメリカに冷子が行ってから、電話をすることがなかったので、本当に久しぶりだった。その声の奥に、咥えた棒付き飴を奥歯に当てる音が聞こえる。やはり変わらず、小さい頃と変わらず、今も飴を舐めているようだ。


「なんなのよ、急に電話なんて? 身長が1センチでも伸びた?」

「馬鹿にしないでよ! 身体測定の後の小学生じゃないのよ!」

「あっ! 伸長のこと言わないってことは、身長縮んだんだ~! 絶対そうだ!」

「……そうよ。3センチ縮んだわよ……。」

「嘘ぉ! あんたの身長から3センチも縮んだら、もう幼稚園児と変わらないじゃん。日本から牛乳送ろうか?」

「うるさいわね。私は栄養が頭に行っているから、身長を伸ばすのにいっていないだけなの!」

「はいはい、負け惜しみお疲れ様。」

「やっぱり、あんたの減らず口は腹が立つわね。


 ……でもまあいいわ。私のが今から言うことを聞いたら、そんなあんたの減らず口も開かなくなって、その後、私に頭を付けて謝ることになるわ。」

「フッ、それは楽しみね、果たしてどんなことなのかしら。」

「もう分かっているんでしょ、私から電話をかけてきたことが何を意味するか?


 ラムネがあれだけ無理だと否定していたができたのよ。」

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