Quattle Mutation(抑止力)
私は目の前に広がる魚と蛙の死骸が浮く血の池と生臭い血の香りに唖然としていた。一茶はその景色と匂いに吐き気を催したのか、口を手で押さえて外に駆け出していった。
「これって、……どういうこと? 出てくる瞬間は見れていなかったけど、いきなり現れたわよね。
……ワープ装置も起動していないのに、……どういうこと?」
私は独り言のようにつぶやいた。私はワープ装置である洗濯機の方を見たが、蓋が開いていて、起動していた可能性はまずなかった。それに血が飛び散っていることから、ワープ装置よりも上にワープしていたことになる。
しかし、このワープ装置はワープさせる位置を決めることができるが、高さを決めることができない。全てのワープにおいて、このワープ装置の高度で固定されていることは確認済みである。
なので、間違ってもこのワープ装置からこの魚と蛙の死骸が送られたということはないと言える。しかし、ワープが起こってしまった。ならば、考えられることは1つ。
この世にはもう1つワープ装置が存在する。
そもそも、ワープ装置が目の前のたった1つしか存在しないという仮定がおかしかったのだ。最初に一茶の話を聞いた時に、1番最初にワープで送られた服は、吋が入れた服だということは分かっていたが、その次に洗濯槽に入っていた生きた魚と蛙がおかしかった。
なぜなら、一茶の話を信じるならば、魚と蛙は吋の服をワープさせた後、いきなり洗濯槽の中に現れた、まるで、ワープのように。そして、この時点でもう1つのワープ装置が存在するということに気が付くべきだった。
そして、もう1つのワープ装置で2回目に送られてきたのが、この趣味の悪いプレゼントだ。まず、友好的なものでないことは明らかであろう。最初の魚と蛙のワープの意味はよく分からないが、この2回目のワープの意味を読み取るならば、それは脅しと警告だ。
何の脅しと警告なのかは今までの行動から考えれば分かる。1つの可能性として考えられることは、ワープ装置からタイムマシンを作ろうとしたことに対しての脅しだろう。もし、その脅しに屈せず、タイムマシン開発を続ければ、この魚や蛙のようになるという警告だろう。
だって、ワープ装置を使うことが問題なら、このワープ装置の上に岩をワープさせて壊せばいいのだ。しかし、それをしないということは、ワープ装置を使うこと自体は許しているはずだ。
果たして、本当に私達に危害を及ぼす力があるのかは分からないが、少なくとも、私たちがタイムマシンを作ろうとしている情報を手に入れることのできる力はある。それも、昨日の夕方に話したことをだ。
どこから漏れたかは分からない。情報の漏れ方としてある可能性として考えられるものは、このコインランドリーのどこかに盗聴器ないしは隠しカメラのようなものがあった場合は、私たちの会話は丸聞こえである。
その他の可能性は、私たちの中に、もう1つのワープ装置の持ち主に通ずる人物がいる可能性だ。一茶、吋のどちらかがもう1つのワープ装置の持ち主に通じていれば、こうなることも分かる。
そして、もう1つのワープ装置の持ち主ないし、関係者が私が寝ている隙に、私がタイムマシン開発に乗り出そうとしていることを知った可能性もある。私はタイムマシンを調べるためにたくさんの論文を散らかして、このコインランドリーで寝落ちしてしまった。
その隙に、このコインランドリーに侵入すれば、私がタイムマシン開発に乗り出そうとしていることは、丸分かりである。
果たして、どれだ?
その可能性を絞るのはまだ難しい。その他にもう1つ分かることがある。もう1つのワープ装置の方がこのワープ装置よりも高性能である可能性があるからだ。
まず、さっき考えたワープの高さについてだが、1回目は洗濯槽の中、2回目はそれよりも上のこの部屋の天井付近。この2つのことから、もう1つのワープ装置に高さを調節する機能がある可能性が高い。
そして、もう1つのワープ機能の方が高性能であるもう1つの理由は、ワープ位置の正確性だ。1回目のワープの際、魚と蛙をあのワープ装置の洗濯槽に入れた。このワープ装置は、ワープさせる場所を時間で決めるが、秒単位の調整しかできない。
これが何を示すかというと、1秒の間にワープできない場所ができるのだ。さらに言うなら、渦巻は隙間なく空間を通っているわけではない。渦巻は1周回る分だけの隙間ができる。つまり、私達が持っているワープ装置にはワープできるポイントは限られているのだ。
しかし、もう1つのワープ装置は、その精度の問題を気にせずに、あの洗濯槽に魚と蛙をワープさせた。それも、このワープ装置であの洗濯槽と同じ大きさの穴にぴったりとだ。偶然でなければ、もう1つのワープ装置はかなりの高精度と言うことになる。
「ふああ、って、ええー、何これ?血?」
奥の部屋から出てきたのは、
「あんた、ずっと、その部屋にいたの?」
「えっ、そうだけど、何この血、えっ、あそこに浮いているのって、もしかして……。」
「魚と蛙の血だけだわ。」
「なんで、そんなに冷静なんだよ。こんなものワープさせたのか?」
「……キャトルミューティレーションじゃないの?」
「なんだそれ?」
「宇宙人が野生動物の血と臓物を抜き取って殺すこと。」
「……宇宙人の仕業だって言うのか?」
「違うわね。
ただ、魚とこの蛙はあんたを含む私達の未来を表しているのかもしれないってことだけは言っておくわ。」
「はあ? なんで俺もあんたたちの道連れにされなきゃならないんだよ。俺はただ家出をして、このコインランドリーに逃げ込んできただけなのに……。」
「まあ、精々、家出をして、ここに逃げ込んできた過去のあんたを恨みなさい。」
「そんなあ……。」
吋の体は力が段々と抜けていき、絶望しているのが分かった。
私は絶望した吋を尻目に、もう1つのワープ装置の持ち主に関わる重要な情報を探すため、血の池をもう1度観察することにした。
血の池には大小さまざまに切り刻まれた魚と蛙の肉片が浮いていた。私はその肉片を1つを摘まみ上げ、肉片の断面をよく見てみると、綺麗な切り口をしているが、骨の近くではその綺麗な断面に少し、段差ができている。
この綺麗な切り口は切れ味の良い肉を切る用のナイフが使われているが、骨の部分では骨にナイフが引っ掛かり、そこを境に綺麗に裂かれた断面は1度中断される。
よって、この大量の魚と蛙の死骸は、キャトルミューティレーションなどではなく、人の手によって1つずつナイフで切り刻まれたということだ。明らかに、常人のやれることではない。快楽的に人を殺してしまいそうな、いや、もう殺していそうなことが分かる。
しかし、このような猟奇的なタイプの人間がこのような簡単な脅しだけしていることだけが引っ掛かった。
私はしばらく、血の池の肉片を観察していると、血の池の中に、ポリ袋が浮いていることが分かった。私はそのポリ袋を持ち上げてみることにした。そのポリ袋から血がしたたり落ちると、透明なポリ袋の中には、何か紙のようなものが入っていることが分かった。
私はそれが分かると、ポリ袋を開いて、中の紙を取り出した。中には1枚の白い厚紙のような紙が入っていて、ある文字がでかでかと印字されていた。
【天才は滅ぶべし C3 氷室】
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