Phiradelphia(フィラデルフィア)
「何かの勘違いじゃなくて、本当にワープ装置があるんでしょうね!」
「それはもちろん!」
一茶は学校の裏道を抜けて、一茶の家の前に来た。しかし、一茶の家にワープ装置があるわけではないらしい。一茶は家の裏にある山へと向かっていった。裏山は舗装されて、道がある。だが、あまり車が通っているのは見かけず、人気のない場所だ。
この山でよく一茶と冷子と私の3人で遊んだものだ。冷子がいなくなった今では懐かしい。
「この山を2人で登るなんて久しぶりだな。」
「確かにそうね。」
「冷子を見送った日以来だな。」
一茶はあえて地雷を踏みに行った。泡は気まずい顔をしたが、すぐに話を切り替える。
「……本当にこんなところにワープ装置があるの? この上には、あのコインランドリーしかないんじゃなかった?」
「そこにワープ装置があったんだよ。」
「ワープ装置って言ったって、あそこはコインランドリーなんだから、洗濯機しか置いてないでしょう。」
「それが、その洗濯機がワープ装置なんだ。」
「洗濯機がワープ装置? どういうことよ?」
「それは俺にもさっぱりだから、泡を呼んだんだよ。」
「本当にその洗濯機がワープ装置なの?」
「それは確実だよ。俺はたまにあそこの洗濯機を部品を取りに、あのコインランドリーに行くことがあるんだ。
で、今日もいつも通り、あのコインランドリーに行ったら、見覚えのない洗濯機が1つ増えていたんだよ。その洗濯機はそのコインランドリーに置かれている他の洗濯機と違って、ドラム式じゃない縦型のやつで、少し大きかった。
僕はその洗濯機を不思議に思いながら、よく見てみることにしたんだ。洗濯機の中には、誰かの濡れた服が詰め込まれていて、洗剤が入れっぱなしになっていたんだよ。
僕は誰かが何かのためにこの洗濯機を持ってきて、洗濯しようとしたけど、電源ボタンを入れ忘れたんだろうかと思った。だから、何も考えず、洗濯開始ボタンを入れたんだ。
そしたら、普通に洗濯が始まったから、僕は他の洗濯機をばらして、必要な部品を取り出していたんだよ。そしたら突然、洗濯機が大きな音で、バチバチと音を立てた。何かと思って音の方を見たら、例の洗濯機が大きく揺れていた。
僕はその揺れと音が収まった後、洗濯機の中に入っていた服は大丈夫かなと思って、中を覗いてみた。
そしたら、洗濯物が跡形もなく消えていたんだよ。
僕は不思議に思って、中を隅々まで探したけど何もなくて、洗濯機の周りとか、下も調べたけど、その服がありそうなところにはなかったんだ。だけど、洗濯槽はちゃんと濡れていたんだ。
僕はそれを不思議に思いながら、色々考えていた時に、携帯にお母さんからメールが入っていたんだ。
そのメールの内容は買い物に出かけていたら、空から突然濡れた服がたくさん降ってきて、びしょ濡れになったっていうメールだったんだ。それと同時に添付された写真を見たら驚いたことに、さっき例の洗濯機に入っていた服と全く一緒だったんだ。
その服は見たこともないメーカーの奇抜な服だった。だから、偶然の出来事だとは思えなかった。でも、お母さんの出かけていた場所は僕のいるコインランドリーから10キロほど離れた場所だった。
それで僕は結論付けたんだ。服がワープしたんだって。」
私はワープという言葉に反応して驚いた。
「それで、試しに魚と蛙をその洗濯機に入れてみたら、学校の空にワープしたってこと。2回目で生体実験なんて、とんだマッドサイエンティストね。そのせいで私は……。」
私はお腹を触って、一茶を睨んだ。一茶は私の睨みに恐れをなして、目を逸らした。
「いやいや、あれは事故みたいなもので……。」
「詳しく!」
「この洗濯機がワープ装置だって疑いを持った後、もう1度洗濯機の中を覗いてみたら、中にはたくさんの魚と蛙が入っていた。僕は驚いちゃって、勢い良く洗濯機の蓋を閉めた後、滅茶苦茶に洗濯機のボタンを押して、洗濯を開始しちゃったんだ。
僕はその後、落ち着きを取り戻して、洗濯機の中で魚と蛙がミンチになるかもしれないと思った。だから、洗濯機をどうにか開けようとしたんだけど、蓋がすごい力で閉まって、びくともしなかった。
ボタンを使って洗濯を止めようとしたけど、洗濯取り消しボタンがなくて、どうすることもできないまま時間が経ったんだ。
そしたら、さっきと同じように洗濯機がバチバチと凄い音がして、大きく揺れ始めたんだ。そして、しばらくして、音と揺れが収まった後、洗濯機の中を覗いてみると、例の如く中には何もなかったんだ。」
「そして、大発見だと思って、私の所に来たと。」
一茶は大きく頷いた。そんな会話をしていると、2人の前に廃墟のコインランドリーが現れていた。
「着いた。」
私が一茶の声を聞いて、コインランドリーの看板を見つめると、以前来た時よりもつたや雑草がこびりついていて、錆も酷いものになっている。看板には「
一茶はそのコインランドリーの立て付けの悪い戸を両手を使って開けた。中には電気の光はなく、薄暗い。また、天井から落ちてきたコンクリートの粉や黒いカビのようなものがタイルの床を汚していた。コインランドリーの中に入ると、空気がぬるく、何とも表現しがたい変な匂いもする。
「数年前の私はよくこんな汚い場所で、遊んでいたものね。今じゃ考えられないわ。」
「そうだね。僕はよくここに来るから慣れちゃったけどね。」
「で、問題のワープ装置とやらはあれ?」
私は目の前にある一際大きい縦型洗濯機を指さした。横にはその洗濯機を際立たせるようにドラム式洗濯機がずらりと並んでいた。一茶はそうだとうなずいたので、その洗濯機に近づいてみた。その洗濯機は私の肩下くらいの高さがあるから130cmくらいだろうか?
「大体、冷子くらいの高さだから相当でかいよな。」
「確かに、業務用なのかしら?」
私は洗濯機の横に書かれている企業名を読んでみると、「FIRABELFIA」と大文字のアルファベットで書かれていた。
「フィラ”ベ”ルフィア? フィラ”デ”ルフィアの間違いじゃないの?」
「あっ、本当だ。勢いで読んでいたから、フィラデルフィアと思っていたけど、DじゃなくてBになっているね。」
「それだけじゃなくて、本当のフィラデルフィアなら、2つのFはどちらもPHになるはずだけど、まさか、企業名がスペルミスなんてことはないでしょうし、何か意味があるのかしら?
それは一旦置いておいても、フィラベルフィアとか、フィラデルフィアなんていう洗濯機の会社があったかしら。」
「ないと思うよ。
俺は家電の会社や機械に関わる会社は大体覚えているけど、そんな会社知らない。実際、さっき調べてみたけど、洗濯機を作っている会社にそんなものはなかったよ。」
「やはりそうよね。私の知る限りでもこんな名前の会社はないもの。
それにしても気になるのは、ワープ装置の名前がフィラデルフィアなんて、私がオカルト信者なら感動していたでしょうね。」
「なんで?」
「フィラデルフィア計画よ。
第2次世界大戦中にアメリカで行われたとされる新兵器開発の計画。この計画はオカルト界では有名な二コラ・テスラやジョン・フォン・ノイマンが指揮を執って行わた船舶の透明化実験よ。その実験はフィラデルフィアの海岸で行われたの。
しかし、船舶を透明化させた瞬間、船舶は消えてしまった。
そして、その船が消えた時間と同じくして、数百キロ先の海岸でその全く同じ船が確認された。結果それは、瞬間移動、いわゆるワープなるものが行われたとされているわ。」
「それじゃあ、その時にはもうワープができていたってこと?」
「いや、オカルトだって言ったでしょ。告発者が捏造した作り話だったってことで、今ではフィクションだったと考えられているわ。
でも、このワープ装置とされる洗濯機にフィラデルフィアと書かれているってことは、その計画に関連しているかもしれないわね。」
「なるほど。」
「……それにしても、こんなに大きな洗濯機、運ぶのに相当な労力がいるだろうに、誰が何のために運んだのかしら。」
「さあ、この2日以内に運び込まれたことは確かだけど……。」
「いろいろと分からないことだらけね。とりあえず、そのワープ機能とやらをこの目で見てみないことには始まらないわね。」
私はそう言って、その洗濯機を触ろうとすると、洗濯機の奥の隙間から蛙がぴょこりと出てきた。
「ワープに取り残されちゃった蛙かな。仲間とはぐれて可愛そうに。なあ、一茶。」
「うわあ~! 蛙~」
一茶は蛙を見ると、パニックを引き起こしてしまったようで、こちらに向かって逃げ込んできた。
「ちょっと、落ち着いて。」
そういう頃には、遅かったようで、一茶は私に突進してきて、私はバランスを崩して真後ろに倒れ込んでしまった。一茶もそれにつられて倒れ込み、私に覆いかぶさる形になった。一茶のカエル嫌いを忘れていた。
「いたた、ちょっとー。」
そんなことを言っていると、廃墟であるはずのコインランドリーの扉が突然開いた。そこには、宇宙服のような上着を着た男が立っていて、手にはレジ袋を持っていた。男は気まずい顔をしてこちらを見た。
「いやー、お熱いねぇ。……いい所を邪魔しちゃったかな?」
私はぽっと顔が赤くなったことがよく分かった。
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