第55話 バカが義体でやってくる 5
5
「遅いな」
「ああ、遅い」
桜井と林田だ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
大森だ。
「ど、どうしたんだよ、大森、か?」と桜井。
「他校の五人衆はどうした?」と林田。
「ぜ、全滅だ!」
「ちょっと待て! 拳法の使い手にサイコな催眠術師で構成される最強部隊だゾ!」と桜木。
「い、今何時だ!?」と大森。
「19:48だ」と林田が腕時計を見せながら云う。
「たった三分で、五人のツワモノが、たった三分で、ぜ、全滅したのかよ!」
と云った大森の目の焦点は既に合っていない。
三人がそんなやり取りをしている時、ゆっくりとその三人に向けて洋二は歩いて来ている。
次にやることは決まっていて、その〈やること〉にあまり関係なかったが、一度どこまでできるか試してみたかったのでやることにした。
「クレゼンザ、この場所を起点として奪える全ての無線LANネットワークを乗っ取れ!」
【イグザクトリー】
頭部にある複製生体のAIがフル回転を始めると近隣半径800Mの全てのWi-Fiに洋二は瞬時で接続を果たした。
その無線LANの数、約四千個。
勿論、事実上のオーナーは接続したまま、洋二も接続したワケだが、ネット環境を洋二はやろうと思えば、約二キロを独り占めできることの証明であった。
洋二の能力の一つ、オーバーラン!
「あ、アレ?」
「どうした? 林田?」
「さ、桜木。な、なんか、おかしいんだ。スマホが! iPadが! ノートPCが!」
「た、試しにド、ドローンをう、動かしてみよう!」
と云った桜木に応じて、大森と林田がドローンのリモコンを握る。
10台中、3台は三人で動かし、残り七台はPC内にプログラムした自動操縦システムにより稼働している。
「ほ、ほら! ほら! オレらは、こんな高価なもんを好き勝手に使える陽キャ・リア充・ネアカ高校生だ! 何も恐れる必要はね~!」
と大森は夜空に吠えた。
「あ、アレ、誰だ!?」
ギリースーツのような姿をした洋二が歩いてくる。
「あ、アイツだよ! 五人衆を全滅に追い込んだ張本人は!」
大森は瞬時に自信を喪失していたのだ。
「お、オレは、プログラミングのて、天才だ! だから兼崎さんからも重宝されてきた! オレのドローン操作術を! ドローン自動操縦システムを思い知るがいい!」
退場直前に特技が明かされた林田だ。
鴉が巣に近づくニンゲンを威嚇するように、洋二の頭の上を、激突すれすれで周回させる林田。
林田に続き、桜木と大森もドローンのコントローラーを使い、彼に追従し、洋二を威嚇する。
「こ、コイツは江野と違って、反応無くてつまらね~よ!」と桜木。
「ああ、アイツはいいリアクション取るからな!」と大森。
「オレはこの10台に実は出し入れできる針を仕込んであるんだ! 針に毒は付き物で、海洋生物でなく植物から抽出したもの! 死ななかったとしてもシビれは七転八倒ものだゼ!」
と意外に仕込んでいたのは林田だった。
そして林田の操作で、ドローンの尾部が開閉し、金属製の針が出てくる。
10台のドローンが攻撃態勢のまま洋二を囲む!
「ひひっっっっっっ~! 怖くて声も出ないかぁぁぁぁぁ~!?」と大森。
「しゃっ! かかれ!」
ところが林田のその命令を10台のドローンは利かなかった。
それどころではない。
ドローンの羽音は、三人の男子高校生から遠ざかり、洋二の背後に着いたのだ。
洋二の背後には、ドローンが10台、彼が背負うようにしてその空中でホバリングしている。
「ど、どうしたんだ!? 何故だ! オレのプログラミングは完璧なハズ!」
「お、おい、林田! その完璧はどこいっちゃんだよ!」
「さ、桜木と大森、これは考えたくもないことなんだが! こ、これは!」
林田が、まるで痙攣するかの如く震え出した。
「お、オレの10台のドローンが全部、アイツに乗っ取られているぅぅぅぅっ!」
洋二はドローンだけではない、PCやAIで動くものはたいていを制御下に抑えることが可能なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます