第47話 抱擁と計画と依頼 7
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―! なんだ、こりゃあ。
それが洋二の最初の感想だった。
ネット動画部の卓上にあるPCを直ぐに洋二は探った。
すると素材や完成品の映像には隣クラスの江野くんが裸にされたり、コンビニの店員に追われる映像がいっぱい出てきた。
PCからアカウントを突き止め、動画投稿サイトにその製作された江野くん映像がアップされているのを知った。
その数は半年前から40、けっこうなペースである。
確かに、これはイジメに見えない。
楽しい悪ふざけに見える。
だが江野くんの声や動きは滑稽に見えるが、モザイクで顔は少し隠されているというのに、彼の表情ははっきりと膠着している。
素材では顔は見えているワケだが、これは虐待されている小動物のような目をしているのだ。
―コレ、なんで許されているんだ!? 周囲のクラスメイトや教師は何をしているんだ!?
「臆してはダメなんだよ。堂々とやるんだ。自分たちが加害者だと罪人だと知ることをいちばん嫌うから、早く大人になりたい諸君には大人の対応を選択していると思わせるんだ」
兼崎の声は洋二の疑問の答えになっていた。
「オヤビ~ん、一旦帰るなんてもったいないから、この部室で、銃の手入れやカメラテストをしますさかい!」
「うん、オレもここで撮影するんだから、演出のためのロケハンするゼ!」
桜木は「オレは残りの七人に渡りつけておきやす」と云った。
洋二は動画サイトのコメントをチェックした。
だが彼の期待に答えるようなものはなかった。
「いい加減にしろよ、KとT」
偶然にもそれがたった今上がった。
出所を直ぐに追うとこのクラスのPCから出されている。
―どこだ!? このコメントを発したのは!?
ホッパー機能は直ぐに入力したヤツを探し出した。
―前の席に座っている信夫だ!
信夫の持つiPadに映っているのは江野がくすぐりの刑に合っている動画だと洋二の席からでも判る。
「おい!野暮がいるゼよ!」
これは桜木の声。
この声の後に、信夫のコメントは直ぐに消された。
「いるんだよなぁ、こういう正義マンがよ~。たまにTwitterでもイジメ映像と紐付けしているから気を付けないとな」
「だがな、桜木、親父の会社は芸能プロダクションだから、つぶやきや発言には注意を払っている。ついでにオレらのこのチャンネル『フレンドシップ・チャンピオンシップ』も不用意なことをつぶやかれても直ぐに見つかるようプロに頼んである」
前の席にいる信夫は既にアカウント自体を消した。
―信夫は気づいていたのか。
それは自分が気づいていなかった、ということが前提にある思いだ。
―クレゼンザ、このクラスの兼崎たちの〈フレンドシップ・チャンピオンシップ〉の感想を集めてくれ。
だがそれは本来ならば、直ぐに蒐集できるクレゼンザだが、今回は少々時間がかかった。
信夫のように消されたり、自分で消したコメントやつぶやきの断片が引っかかるだけで、それを復元させるのはクレゼンザでも難しいようだ。
―しからば!
洋二のいるクラスの正面には大きなスクリーンがある。
それに投射してPowerPointやExcelを使い、発表するのに授業で使うのだ。
そのスクリーンに江野くんが半裸でくすぐられている映像を流すようクレゼンザに指示した洋二。
結果、教室は一瞬で凍りついた。
―いや、違う。むしろさっきまでの喧騒がこの現実から目をそらすようしていたとしか思えなくなってきた。
教室には動画の中の江野くんの滑稽な悲鳴と笑い声の混ざり合ったものがこだまする。
その間、十数秒だが、ようやく動いたのが2人、林田と大森だった。
2人はスクリーンの前に立ちはだかり、皆に見せないようにしていた。
そして、大声で「これも兼崎さんのドッキリなんだよ~!」と云っている。
―この2人も桜木と寺田と同じで、兼崎の手下、か。
点と点が繋がり、線になるのを洋二は感じた。
そして自分にも覚えがあった。
〈滑稽な悲鳴と笑い声の混ざり合ったもの〉は何度も洋二は耳にしていたことに気が付いた。
スクリーンの動画は消えた。
―オレも知らないフリをしていたのか!?
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