第20話 検索と実験と再会 10
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『では4、5メートルをジャンプできる跳躍力があるのは、この身体スペック内に収まる能力だからなのか?』
【イエス。走る速度や握力も同世代のものより大きく上回っていますが、電柱を引っこ抜いたり、マンホールを投げたりはできません。その身体でそれらを為すには、脚部の大型化や固定する別の特装が必要になります】
―投げる時には反動が伴い、引っこ抜くには支点 力点 作用点が必要というワケで、この限られた身体の中だけで可能なことは同じ世代の男の中ではフルに使えるということだな。
『治癒能力は?』
【みるみるうちに傷が消えるということはありませんが、生活内で起こるような切り傷めいたものはひと晩で修復します】
『今回、あの女性に刺されたような傷だと?』
【活動停止はしませんが、メンテナンスは必要です。鋼鉄で出来ているワケではないので』
―そう、おそらくかなり特殊な有機物質で作られている。じゃないと生活できなし、他人から奇異に見られる。ということは、
『メンテナンスしてくれる場所はあるのか?』
【password please】
『判った、判った。生活する上で必要なことを知りたい』
【体重と身長は元の肉体のままですし、レントゲン撮影されてもステルス機能でまやかしの写真が写されるようになっています。特にありません】
『食い物や飲み物の注意は?』
―まさかガソリンやソーラー発電で動いているワケではなかろうて。
【普通です。それなりの消化器官により、エネルギーに還元されます】
『それで出てくる大便や小便といった排泄物も普通なのか』
【全てをエネルギーに変換するので、排泄の必要はありません】
『それはおかしい。この数日、私はトイレで何度か用を足した』
【脳に直結したこの複製生体のコンピューター、つまり私が見せた幻惑です】
にわかには信じられなかったが、洋二は確かに小便も大便も見ていなかった。
彼は座って小便をするタイプの少年だった。
『では、このようにキーボードやマウスといった古臭いインターフェースを使用するより、脳内で直接あなたとやり取りした方がいいということか』
【そうです。不自然なく動きます。ただ高い身体能力やネット内にダイブするならば、今のあなたなら、この方が良いと思われます】
『面倒なのに、何故?』
【未だに信じ切れてないからです。今のようならば、アニメのロボットを操縦するように、TVゲームのコントローラーを操作するようにそれが可能です。いいですか、あなたの本当の身体はこの複製生体の脳内にあり、現実にあるその複製生体を不自然なく、脳内のイメージ通りに行うために私〈シンクエ・クレゼンサ〉がかなりのトランスミッションとフォローをしなければなりません。もしキーボードとマウス、いやそれ以外のインターフェースでもいいですが、そういうアナログ機器で社会生活を行えば、動きが奇怪過ぎて、救急車かパトカー呼ばれますよ】
―義手とか義足の身体全部版、ということか。
『切り替えは、その、自分の脳内から直結であなたのフォローありで生活していて、この空間からあたかも、あなたが言ったように、ロボットを操縦するような感覚にするのは切り替えは行えるのか?』
【一度、ここに来てしまえば、可能であると思われる。ともかく信じること。この自分が置かれた現実を信じること】
―案外それは難しいことなんだよな。
【恐れ入ります。一つ、云い漏らしをしていたかもしれません】
洋二は、本能的に奇妙なものを感じて、訝しく思った。
〈シンクエ・クレゼンサ〉はまさにこの複製生体のマニュアルにしか過ぎず、統括管理するこのロボットのコンピューターかもしれないが、対話っぽく見せているだけである。
その〈クレゼンサ〉がそちらから能動的に話しかけてくる体は今のが初めてだった。
【先程「生活する上で必要なことを知りたい」とのことで、判断で言わないこととしましたが、やはり「生活する上」に抵触することと判断し直したので申し上げます。生殖能力はありません。性交に必要な能力はこの複製生体からオミットされています】
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