第107話 若者たちを導く手
翌朝。
まだ日が昇らぬうちに到着したネル、オリアーナ、エステルの3名は、日の出を待ってブリジットの宿を訪れた。
ブリジット、ボルド、プリシラの他にベラやソニア、そしてエリカとハリエットが集まる宿の前では、3人を代表してエステルがブリジットの前に
「お待たせいたしました。
そんなエステルの態度に、背後でネルは
その
彼女は右手に一頭の
ブリジットは
「よく来てくれた。エステル、ネル、オリアーナ。急に呼び立ててすまないな」
「とんでもございません。ブリジットからの緊急招集とあらば、いついかなる時でも駆けつけます」
そんなエステルの言葉にブリジットは内心で苦笑した。
彼女はウィレミナの元で学び、その知識は学舎の学徒の中でも
そして女王ら目上の者に対する礼節も
だがその顔の裏に
彼女を招いた
おそらく彼女はこの先、その優秀さでダニア政府の
その一方でその性格から敵を多く作るかもしれないという
そしてそのエステルの背後に立つ長身の女、オリアーナ。
彼女の横に立つ
ただアデラが頭を悩ませているのは、オリアーナの極端な社交性の無さだった。
彼女は他人とほどんど交流しない。
必要最低限の会話すらしようともしないため、
隊長のアデラもダニアの女にしては
アデラがもっと仲間と交流を持つようにそれとなく説得しているが、オリアーナは聞く耳を持たないらしい。
ブリジットが招いた
だがブリジットもボルドもそんな彼女を責めることも悪く思うこともなかった。
2人とも女王とその夫として、多くのダニアの女たちを見て来た。
勇猛なダニアの女たちと言ってもその性格はさまざまなのだ。
アデラのように戦いを好まぬ穏やかな性格の者もいる。
それは悪いことではないのだ。
オリアーナも
そんな彼女の長所を伸ばすように上の者が配慮をしてやれば、オリアーナは相当な戦力になり得るはずだった。
(しかし……この中で一番
ブリジットは弓兵のネルに目を向ける。
彼女はさも3人の代表であるかのように振る舞うエステルの背中を憎々しげに
首に
先ほども
ネルを
最初はおとなしく食事をしていたネルだが、酒が入り始めると徐々にくだを巻くようになり、自分の待遇に対する不満をツラツラとブリジットやボルドに
さてどうしたものかとブリジットがボルドを見ると、もう少しそのままでとボルドが目で合図してきたので、ネルの言い分を好きなだけ吐き出させたのだ。
もっと実戦的な場所で働きたい。
上司である双子の弓兵ナタリーとナタリアが口うるさい。
仲間たちが気に食わない。
そして……戦のある時代に現役戦士でいたかった。
そうした本音を酒の勢いに任せて吐き出した
ブリジットとボルドが目を丸くして顔を見合わせていると、青い顔をしたナタリーとナタリアが飛び込んできた。
そしてブリジットらに平謝りしながら、ネルを抱え上げて退散していったのだ。
ネル本人は酒を飲み始めた辺りから記憶がないらしく、無礼極まりないブリジットへの失言の数々はまったく覚えていないとのことだった。
もちろんブリジットは苦笑しながらすべてを不問に処した。
そうした一連の出来事を経て、彼女たちを
彼女たちはそれぞれが抱える精神的な難点を克服して成長すれば、ダニアにとって他に替えの利かない貴重な人材になってくれるだろう。
ボルドは彼女たちが今回の作戦行動の中で成長し、その能力の特異さを
だが、今この時点でエミルを救うための人材としては厳しいものがある。
(せめてプリシラを含めたこのじゃじゃ馬たちを導いてくれる者がいれば……)
そう思いながらブリジットは昨夜のボルドとの会話を思い返した。
ボルドは言ったのだ。
自分がプリシラたちについていくと。
エミルを探すために
ブリジットは反対したかった。
だが、確かにボルドしかいないと思った。
若いプリシラたちを
ボルドはブリジットに目を向けて優しげに微笑みながら
それを見たブリジットは覚悟を決めて一歩前に出た。
「おまえたちももうすでに聞いていると思うが、我が息子のエミルが敵の手によって
そう言うとブリジットはプリシラやエリカ、そしてハリエットに目を向けた。
3人は一歩前に出る。
「
ブリジットがそう言いかけたその時……ボルドが一歩前に足を踏み出そうとしたその時……その場に声が響き渡った。
「その役はワタシにお任せいただけませんか?」
その声に一同が後方を振り返る。
するとそこには旅装に身を包んだ1人の赤毛の女の姿があった。
ダニアの女としては小柄なその女を見たブリジットとボルドは、その女の
「……アーシュラ!」
「アーシュラさん!」
アーシュラ。
クローディアの腹心の部下として常にその
かつてはクローディアのために偵察や暗殺などを手掛けていた、その道の達人である。
そして何より特筆すべきは、彼女は赤毛でありながら
ブリジットもボルドもまさにこれは天の恵みだと思った。
なおかつ
アーシュラはブリジットの前に
「クローディアに申しつけられ、参上いたしました。ブリジット。お命じ下さい。ワタシが彼女たちを導き、必ずやエミル様をお2人の元へ連れて帰ります」
そう言うとアーシュラは顔を上げる。
ブリジットやボルドが見慣れたその顔は、30歳を過ぎた年齢を感じさせぬ若々しさと、積み重ねた経験からくる自信に
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