第2話 『平凡令嬢』の婚活事情



 ギリギリ伯爵家として存在するシュミット伯爵家当主であるミランダの両親は、貴族としては珍しく恋愛結婚である。


 今でもラブラブな伯爵夫妻は子供達が幼い頃からこう言い聞かせた。



『お前達にも素敵な恋をして欲しい。敢えて婚約者は定めないから、自分で素敵な運命の相手を見つけなさい。その思いが本物ならば結婚に反対はしない』、と……。




 幼い頃はそんな両親の言葉に、『いつか自分も両親のような素敵な恋をするんだ!』と夢見ていた。実際、兄も子爵家の令嬢と恋に落ちた。



 運命の人はいったい何処にいるのかと、子供も参加する貴族のお茶会でもキョロキョロと見回して探す。

 仲良くなった隣の領地の伯爵令嬢ロミルダに『そんなに物欲しそうに見ていてはいけない』と注意されてしまう程。


 街への買い物や領地へ行く時も、どこでもいつ運命の出会いがあるのかとずっと考えていた。

 あまりに挙動不審な娘を見かねた母は『出会いは多分学園ね。私達も学園で出会って恋に落ちたのよ』と耳打ちした。

 そこからミランダは学園での運命の出会いを心待ちにしていた。


 ……のだが……。



 現実は無情だった。



 ミランダは男子学生と恋愛的な関係になる事は一切無く、彼らの話題になったかと思えば先程の男子学生の評価の通りだった。






「はぁ……。一体どこに居るのよ私の運命の人は……」



 ため息ながらに学園の廊下を歩いていると、前から華やかな集団が歩いて来た。



 彼らはこの学園で今話題の集団である。


 何が話題かというと……。



「セイラ。今度の休日は一緒に街に出ないか?」

「この間セイラ嬢が行きたがっていた人気のカフェの予約をしてありますよ」

「その後王立植物園に行きましょう。10年に一度しか咲かない花がもうすぐ咲くそうなのです」



 聞こえて来た彼らの話に心の中で『うげぇ』と思うミランダ。……それが何故かというと。



「えぇ~! あのなかなか予約の取れなくて有名なカフェの予約を!? それに王立植物園は珍しい花が咲きそうだからって人数制限されてるのにぃ? それに入れちゃうの~!? セイラ嬉しぃ~」



 ……これである。


 女子生徒1人に男子生徒3人。

 彼らはキャッキャウフフとベタベタしながら通り過ぎて行く。彼らは最近学園で大いに噂される男爵令嬢とその取り巻き……。

 しかも、彼らはただの取り巻きではない。


 我が国の王太子を筆頭に、侯爵家嫡男、騎士団長嫡男。いずれも超がつくほど美形で優良物件な彼ら3人は学園でも大人気の方々だったのだ……!


 そう、『だった』。……過去形である。


 彼ら有望な3人が約1年前何故かあの男爵令嬢セイラと関わるようになってから、全てが変わった。王太子を筆頭に高位の貴族である彼らには当然婚約者もいるというのに。

 1人の男爵令嬢の取り巻きと化した彼らの評価は地に落ちた。


 ……勿論高い立場がおありの方々であるから周囲は表立っては悪く言わない。



 ミランダは彼らが通り過ぎて少し経った後チラリと振り向く。そして一つため息をついた。



 ……別に、羨ましいとか思ってないわよ? ただ、たった1人の運命の人が見つからない人もいれば1人に何人もが群がる、そんな世の不条理さにため息が出ただけ。



 ……それに、あの方達のしている行動を思えば呆れるばかりだしね。婚約者を放置して他の女性を取り合うなんて!

 もしも、万一……億が一よ? あの中の1人が私の事を好きだと言って来たとしても、あんな無責任で薄情な人なんて御免だわ。



 ミランダはそう思いながらも、先程の4人をもう一度チラリと見た。



 ◇



 そんな日々が過ぎ、もうすぐ卒業式。そしてとうとうミランダは最終学年となる。



 ……そう、両親との『運命の人』を探す期限まであと一年。


 ミランダのシュミット伯爵家は最弱とはいえ腐っても伯爵家。勿論、縁談を組もうなら組める。

 両親からは、もし卒業迄に相手が見つからなかった場合は隣領の子爵家の子息か、もしくは伯爵家の次男で現在王都で騎士爵を得て働く男性との縁談をと言われていた。



 どちらの男性とも一応面識はあったミランダ。2人とも今までいいご縁が無かったのか年齢は30代半ば。……17歳のミランダからすれば、出来ればご遠慮したい相手である。



「だからなんとか……! 誰でも良くはないけど、せめて同じくらいの年齢の方で……!」



 そう切に神に祈るミランダだった。


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