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次の日、(あんまりよく眠れなかった)三久は本当に、このあと、鞠の思いに自分がどう答えたらいいのか、またどんな選択を自分がして、どんな風に自分が鞠の前で振る舞えばいいのか、……本当になにもわからない状態だった。
(自分が自分の音楽のことを本当に好きなのかどうかも、よくわからなくなってしまった)
三久はまるで自分が霧の深い森の中にでもさ迷い込んでしまった迷子の小鳥のような気持ちになった。(そんな心象風景を描いた曲を、昔、三久は演奏したことがあった)
もう二度と、この霧の深い森の中から、自分が外に出ることはできないのではないか、私は一生、この霧深い森の中で迷い続けるのではないか、とすら思った。
「……はぁー」
校舎の三階の廊下を歩きながら三久は深いため息をついた。
大きなため息。そんなことしていると、幸せが逃げちゃいますよ。先輩。
と、いつものような、明るくて可愛らしい笑顔で鞠が三久の心の中でそう言った。
その日の放課後の時間。
西中学校の校舎内にある音楽室の中で、森三久は三雲鞠と昨日の別れ以来、初めての再会をした。
いつものように顧問の並木香先生の指導のもとで、約十人くらいの音楽部の部活動を行いながら、三久は時折、ピアノの休憩中に鞠の顔を確認した。
鞠はいつものように、一生懸命になって、テナーサックスを吹いていた。
鞠はずっと真面目な顔をしていた。
三久のように、不謹慎な思いに心を支配されているようなことはないように思えた。
それは三久の奏でるピアノの音と、鞠の吹くテナーサックスの音を聞けば、一目瞭然? で、音楽をやったことのある人なら、すぐに理解できることだった。
「どうしたの、森さん。珍しく、今日は演奏にあんまり集中できてないね」
三久は部活動の途中で、そんなことを笑いながら、並木先生に指摘されてしまった。すると、音楽室の中に明るい笑いが起こった。
「すみません」頬を赤らめて三久は言った。
並木先生には、三久はすごくお世話になっていて(部活動のことだけではなく、卒業後の進路のことや、あと個人的な悩みなども三久は普段からとても仲の良い並木先生によく相談をしていた)、そのこともあって、(あと自分にファンができたという悩んでいる理由も理由だし)三久はいつも以上に恥ずかしくなって、その顔を真っ赤にした。
ちらっとみんなの様子を確認すると、鞠もみんなに混ざって、その顔に優しい笑みを浮かべていた。
いつもとまったく同じ三雲鞠がそこにいた。
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