水落ちは生存フラグ
「が……あぁっ!!」
とある真夜中の港。そこで始まるのは、上級イグザムジェナスとバルナイザーの戦いだ。先制を制したジェナスのムチの刃が、バルナイザーを深く切り裂き緑のオイルをまき散らす。
「ふむっ……一撃で仕留めるつもりだったのですが……」
「ぐっぁ……!!」
バルナイザーは、胸を襲うその痛みに苦悶の声を上げる。今までで感じたことのない痛みだ……だが、動けないほどではない。
ならばと、バルナイザーは咄嗟に高速移動を始めようとする。
『トップブースト!!』
「っ!!」
マフラーから爆炎が上がり、バルナイザーは加速する……だが、ある程度ジェナスから離れれた途端彼の身体に電流が走り弾き飛ばされる。
「なっ!?」
改めて前方を、そこには紫色のバリアが張られていた……これに弾かれたのかと理解する頃には、バルナイザーの身体にジェナスのムチが巻き付かれていた。
「っ!」
「逃げるだなんて人が悪い……もっと一緒にいましょう……よッ!!」
ジェナスはバルナイザーを縛り付けたムチを大きく振るい、バルナイザー諸共何度も何度も地面に叩きつけ、積まれたコンテナに投げ飛ばす。
「ぐぁぁぁ!!」
倒れ込むバルナイザー……そして、彼は直感で理解した。このジェナスと言う女、今までのアメーバやサボテン、蟹の化物とは訳が違うと。
上級……その言葉に似合う実力は持っている。出来ることならこのまま隙をついて逃げ果せたい所だが……先程の高速移動にあっさりと対応されたところを見るに、なかなか難しく感じる。
バルナイザーはなんとか気を逸らさせようと、痛む身体に鞭打って立ち上がらせながら言葉を紡ぐ。
「はぁ……悪いな、俺アンタの事知らねぇんだ。俺なんかしたか?」
「私達の同胞のイグザムを倒した不穏分子であり、神から第二の命を授かった転生者。……簡単に言うと、私達と君は敵同士と言うことになる。」
「同胞……あのアメーバやら蟹のバケモンの仲間か?」
流石にこう説明されれば、バルナイザーも目の前の少女が今まで倒してきた化け物の仲間だということに気づく。そして、今までの会話からイグザムと言うのは彼女達の種族の名前だと言うことも察せられる。
問題なのは、転生者の部分だ。
「転生者……ねぇ。確かに俺は一度死んだ記憶はあるが、別に頼んで蘇らせてもらったわけじゃねぇんだがな。」
「だとしても君はここに居る。その力を持ってな……そして、君はその力を我々に向けて振るった。即ち……君は敵だと言うことだ!!」
「うおっ!」
『トップブースト』
そう叫びジェナスはそのムチを振るに、バルナイザーはなんとか高速移動で迫りくるムチを避けるが、その猛攻になかなか手出しをすることが出来ない。
バルナイザーの高速移動にすら容易くついてくるムチに彼は若干の恐怖も覚えるが、その間も2人の会話は続く。
「お前、詳しそうだな!なら教えてくれねぇか!?この世界のことを!俺はいきなりこんな世界に飛ばされてわけわかんねぇことだらけで困ってんだよ!」
「知る必要は無い!君はここで死ぬからだ!」
「っち!!」
どうやら、向こうは加減なし本気で倒そうとしているらしい。逃げが通用しないなら……このまま攻め続けるしかない。
「……やってみっか……!!」
バルナイザーは高速移動の出力をさらに上げるように力む、すると身体のマフラーがより高温になり出力の高い炎が吹き上がった。その黒い身体が少し赤色化していく。
そして、バルナイザーは地面を蹴ってジェナスのムチを掻い潜り彼女の懐へと飛び込む。先程とは比べ物にならないスピードだ。
「おっと。」
ジェナスもさすがに驚いた様子……だが、驚いた程度だ。バルナイザーは高速の徒手空拳を何度もジェナスへ打ち込むが、彼女はまるで剣の様に纏ったムチを用いていとも容易くいなしてみせる。
「確かに速いが……速いだけ、この程度では私は倒せんよ!」
「っ!!まだまだァッ!!」
バルナイザーはひたすらに拳を打ちつけ続ける。始めこそ悠々と防いでいたジェナスだが、段々とギアを上げるように上がっていくスピードに少し焦りの表情が見えてくる。
「オラオラオラオラァッ!!」
バルナイザーも、出力の上げ方のコツがわかってきたのか、エンジンをフルスロットルにするように爆速で攻め続ける。
ジェナスも何とかしのいでいるが、だんだんとその頬や胴に拳やケリが掠るようになってきている。
「ッ!!こ、これは……」
速いだけと嘲笑したのが嘘のように、今度のジェナスはそのバルナイザーの圧倒的スピードに唖然とする。
だが、同時にジェナスに一つの疑問が浮かんだ。
――これほどのスピードを出し続けて、彼自身は平気なのか?――と。
一方の、バルナイザーはなりふり構っていられないからかひたすらにスピードを上げ続けて殴り続ける……やがて、ジェナスの腹に加速を込めた一撃を撃ち込んで大きく吹っ飛ばすことに成功したり
「ぐぁっ!!??」
「ぜぇ……はぁ……!!っし!このまま……!!」
バルナイザーはダメ押しにさらに力を込めてスピードを上げようとする……体の節々にあるマフラーから爆炎を超える炎を巻き上がらせる。
「喰らい……やがれ……!!ハァァァァァッッッ―――」
だが、次の瞬間バルナイザーのマフラーが赤熱化し、バルナイザーの身体が内部から爆破を受けたような衝撃を襲った。
「がはぁぁぁっっっ!!!!!」
バルナイザーはその衝撃を受けて、がくりと膝を地面へとつける……身体が全く動かせない。辛うじて声を上げられる程度だ。
すると、ジェナスは不敵な笑みを浮かべながらつぶやく。
「ふふっ……アレほどのスピードを出すには、相当なパワーが居るはず、もしそれを出し続けられたのならば私も危なかったが……どうやら、お前がエンストする方が速かった様だな。」
エンスト……それを聞いて、バルナイザーは漸く自身の身に何が起こったのか理解する。要するに、全力で動き続けたせいで身体の方が持たなかったのだ。
(マジ……かよ……)
手加減して勝てる相手ではなかったが、もしこうなることが分かっていたのなら彼だってもう少しやり方を考えた。
だが、彼は自身の力を誰にも教えてもらっていない、ずっと手探りでやってきたのだ、こういう事も起こるだろう。
ジェナスは笑いながらバルナイザーへと近づき、その首根っこを掴み……そのムチの刃で彼をメッタ切りにする。
「ふんっ!」
「がはぁっ!!」
ムチで斬られる度に、バルナイザーの身体に傷がつきオイルが血のようにたれてくる。その様子を見て、ジェナスは恍惚の表情を見せる。
「あぁ!機械相手にこんな気持ちになるなんて!その流れる液体、苦悶の声!いい!!ゾクゾクしてくるよ!」
「ぐはっ!?ぐぁっ!」
なんて悪趣味なやつだと、バルナイザーは心のなかで悪態をつく……だが、一切身体も動かせない今、彼に出来ることはなにもない。
やがて、意識が遠のいてくるのを感じる……ジェナスは笑みを浮かべながら、そのムチを握りしめて、勢いよく斬りつけた。
「でぇい!!!」
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!!!」
深く斬りつけられたバルナイザーは、大きく吹き飛ばされてしまう。ジェナスも不本意だったのか少し慌てた表情を見せる。
バルナイザーは大きく吹き飛ばされ、海の中へと堕ちていく……大きな水しぶきが上がり、ジェナスに掛かっていく。
彼女は海へと近づき顔をのぞかせるが……しばらく待ってみても、バルナイザーは浮き上がってこない。
「……もう少し楽しみたかったが、力加減を間違えるとはな。……まぁいい、不穏分子を消すことには成功した。戦乙女だけでも精一杯なんだ、これ以上敵が増えてはたまらんからな。」
ジェナスは、そう言い残すと周囲に張っていたバリアを解除し、彼女の姿は暗闇の中へと消えていった。
その頃、バルナイザーは……
(……不味いなあ……)
海中を漂いながら、考えていた。
意識は保っているが、いつ失うかわからない…息はなぜか平気なのだが、このまま海中にいたら不味いことになるのは流石に分かる。
なんとか身体を動かそうとするが、波になかなか逆らえない……このまま、また死ぬことになるのかと、彼は若干の諦めを感じていた。
だが、このまま何も出来ずに野垂れ死ぬのも釈だ。こんな間抜けな負け方をしたままと言うのも目覚め悪い……バルナイザーは波に流されながらもなんとか体を動かす。
すっかり動けないと思っても居ても、案外死にたくない気持ちと沢山の意地を持っていれば気合でなんとかなるもんだ……あとは、まぁこの身体の力が大半だろうか。
やがて、時間と体力を使ったが何とか海に沈んだテトラポットを見つけてその手につかんだ。
バルナイザーはなんとかそのテトラポットを足場にして海から這い上がる。
「ぜぇ……はぁ……」
バルナイザーはその身体をテトラポットに沈み込ませ、なんとか生きていることを実感する……だが、それも長くは続かない。
(案外丈夫な身体……だな………)
バルナイザーは一安心すれば、バイクへの変身も忘れてその場で気絶してしまうのだった。本当に根気だけで保っていた意識だったのだろう。
翌日の早朝、数人の小さな子供を連れて歩く一人の女性が居た。淡い銀色の髪を持った女の子だ。周りには、年端もいかない子供小学生くらいの子供たちを連れていた。
「やっぱ朝の散歩気持ちいいね!姉ちゃん!」
「そうね、海風が心地良いな……」
「猫さん居るよ!猫!!」
「猫!!猫だ!!猫だよ!!」
皆、若い子にしては珍しく楽しそうに早朝の散歩を過ごしていた。彼女達は、この付近にある養護施設で過ごしている子供達だ……時たま、こうして早朝の海岸沿いを散歩したりしている
……すると、そのうちの一人の男の子が海岸をみて指差す。
「ねぇ!見て!なんだあれ!?」
「ん?」
少女が男の子の指さす方を見れば……そこにはテトラポットの上で倒れている黒い謎の怪人が倒れていた。ボロボロになりだらんと力なく倒れる様は、まるで廃車の様だ。
少女はその姿をみた瞬間驚きを隠せない。
(まさか……イグザム?)
イグザム……この世にその名を知る者は、戦乙女に関係する者のみ……彼女――古川シズクも、世界各地に居る戦乙女の一人なのだ。もっとも、まだまだ新米ではあるのだが。
(と、兎に角戦乙女機関に連絡を……)
シズクがケータイを取り出して、本部へと連絡を取ろうとする……だが、不意に辺りに目を回すと、子どもたちが居ない。
シズクが慌てて辺りを見回すと……子どもたちが階段から海岸へと降りて、その黒い怪人へと駆け寄っていた……男の子たちはその姿に目を輝かせ、女の子らはそんな男子を止めるために。
「すげぇ!かっけぇ!!」
「ヒーローみたいだな!」
「おぉ……タイヤついてる!バイクみてえ!」
「危ないよ!?あんまり触んないほうがいいんじゃ……」
「皆!何してんの!」
シズクは子供達の下へ駆け寄る……子供らは、シズクの剣幕を怖がってしまう。
「危ないでしょーが!?」
「うあっ……ごめんなさーい!」
「でもかっこよくて……」
男の子らが言い訳している次の瞬間、その怪人の目が赤く輝く。思わずシズクは子供たちを後ろを下がらせて、前に出る。
「っ!!!……」
直ぐに戦乙女のアームズが使えるように変身用のペンダントを握りしめるシズク……その怪人は、シズクの方へと顔を向ける。
そして、若い男の声で一声あげる。
「……あー、すまん。ちょっと助けてくれないか?」
「……えっ?」
思わず腑抜けた声を上げるシズク……そんなシズクに、その怪人は身体をばたつかせながらため息を付いて言葉を漏らす。
「テトラポットの窪みにはまったみたいだ、一人じゃ抜け出せん。……引っ張ってくれない?」
その男の子心擽る格好良い見た目から放たれた間抜けすぎる言葉に、その場に居た一同は思わずずっこけそうになるのだった。
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