バルナイザー!高速移動だ!
『チェェェェンジ!バルナイザー!!』
「よっと!……全力疾走、初めてやったけどかなり速いもんだな。」
あっ、どうもこんにちは。俺だ、バルナイザーだ!……マジで誰だよバルナイザーって名付けた奴!語感100%じゃねぇか!!
まぁ、そんな愚痴は置いといて……いやぁ、危なかったな。女の子が完全に踏みつけられてもう少しで野外凌辱が始まる雰囲気だった、そう言う動きだ。
にしても、俺も初めてバイク形態で全力疾走ってやつをやってみたが、かなり速いな。ここまでそれなりに離れてるはずなのに一瞬だった。
そしてその加速を付けた一撃……どっかの兄貴も速さを一点集中させればどんな壁も砕け散るって言ってたし、勝ったな、洗車してくる。
「あれは……あの時のわかってる人。」
「アイ、あんたどんな覚え方してんのよ……」
俺どんな覚え方されてんだよ。別に俺が作ったわけじゃねぇからなこの姿!いや……確かにこれデザインした奴は相当な通だけど!
「おぉい、大丈夫か?」
「んっ……助かった、ありがとう。本当に……」
「……ま、良いって事よ。」
まぁ、あのままほっといてなんかあっても目覚めが悪いしな。
「でも、アイがここまでやられるなんて……どんな相手だったの?」
「……硬くて火力があって速い。」
「シンプルに強い奴か。」
フィジカル特化はもう、相性悪いとどうしようもねぇよな。変な能力で絡め手使う奴も怖いけど単純な硬い速い強いも厄介だからな。
まぁ、流石にあんだけぶっ飛ばしてやったんだからしんだやろ!!
「じゃあ、アイは休んでて……第2ラウンドは私が出るから。」
はっ?第2ラウンド……え、まさか。
「ハイ……ジョ……!!!」
んげぇっ!?生きてたァッ!?相当なスピードでぶっ飛ばしてやったのに……蟹っぽいけど、流石に硬すぎんだろ。
「やっぱり、かなり硬いみたいだね。」
「確かにコイツは手強そうだな。」
「ハイ……ジョ……!!」
うおっ!?消えた……いや、猛スピードで近づいてるのか!?
「ぐぁっ!?」
いっでぇ!?速すぎだろ……あぁ言う重戦士タイプの相場は動きは鈍いもんだろ、なんであんなに速いんだよ!?……アカリの方は大丈夫か!?
「ッッッ!!どりゃァッ!!」
「―――!!??」
えぇ……何あの娘、真正面から大剣の一撃を受けた上でカウンターしてるんですけど。痛くないのか!?大丈夫!?
「ハイ……ジョ……!!」
あっ、また消えた……助走なしでいきなりトップスピードに入るのやばくねぇか!?
「はぁ、はぁ……一撃が結構重い。そう何度もは受けきれないな……っ!」
結構マジで痛かったからな、あのサボテンやアメーバとは訳が違うみたいだ。と言うかこの子ら見た感じいつもこんなのと戦ってるの?マジで?まだ高校生くらいなのに?大丈夫か……?いろいろ心配になるんだが。
いや、それよりも今は目の前の敵だ。なんとかこのスピードに対応できれば良いんだが……
んっ、なんだ?なんか、身体が熱くなってきた……具体的に言うとマフラーが熱くなってきた……
『トップブースト!!』
またなんか知らん技出てきたぞオイ!?と言うかだから何で俺の声だ!?ほら、アカリもアイもすげぇ目でこっち見てるから!!
「トップ……何?」
「さっきもそうだけどそれ何!?」
「音は気にするな!」
俺もなんなのか聞きたいんだよなぁ……トップブースト?あんま想像がつかな……っ!やべっ!化物こっちに来てる!!
「ッ!!」
「ッ!!ハイ……ジョ!?」
っ!?拳が当たった!?……いや、と言うか、なんでコイツの動きが見えたんだ?さっきまで見えなかったのに……と言うか、俺の動きが追いついた?んっ、どうなってんのこれ?
「っ……?うおっ、いつの間にこんな動いてた!?」
なぁるほど、ちょっとわかってきたぞ。コイツは高速移動の類か!マフラーから炎も出てる!っし……これなら付いていける!いや、追い越せる!
「っしゃっ!……やるかぁ……!!」
「っ!ハイ……ジョ……!!」
《hr》
アカリとアイは、目の前で起こっている光景に唖然とする。急にバルナイザーが『トップブースト』と叫びだしたかと思えば、その姿を消してしまった。
そうかと思えば、離れた場所でバルナイザーは蟹型のイグザムへその拳を打ち付けていた。音すら置いていくような圧倒的高速。
先程までスピードで完全に優位に立っていたイグザムが、今度はバルナイザーのスピードに、完全に置いていかれているのだ。
高速で動く2人は、場所を変えながらお互いに一撃を撃ち付け合う……アカリとアイには、そのスピードを目で捉えることなんて不可能だった。
「凄い……!」
「本当に速い……」
最早、二人が手を出せるスピードを、二人が認識できるスピードをとっくに超えていた。二人が知覚できないほどのスピードで、バルナイザーは拳と蹴りを打ち込み、イグザムはそれを防ぎながら大剣を振るっていた。
それほどのスピードで行われていたから、アイは気づかなかった。
と言うよりも、予想すらできなかった……2人が唖然とその戦いを眺めていた次の瞬間……アイの頭上に、イグザムの大剣が振り下ろされていた事を。
(えっ……?)
(はっ……?)
アイも、隣にいたアカリも完全に唖然とすることしかできない。油断していなかったと言えば嘘になるが、完全に出遅れてしまった。
庇おうにも、アカリの鈍重な動きでは間に合わない。アイは心はともかく身体は完全に打ちのめされてグロッキー状態だ。
アイには、もはや思考する時間は残されていない……はずだった。
次の瞬間、アイの身体がフワリと宙に浮きアカリの胸元に飛び込んでいた。勿論、アイが故意にやったわけではない……何が何だか彼女自身もさっぱりだ。
だが、ふと後ろに目をやればその理由が分かる。
そこにいたのは大剣を振り下ろしたイグザムと、それを片腕で受けているバルナイザーの姿だった。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
「だぁ……クソッ!ついで感覚で襲おうとしてんじゃねぇよ!俺も出遅れて受けるしかなかったじゃねぇか……よっ!!」
バルナイザーは、腕についているマフラーの装飾から爆炎を上げて、その勢いを乗せてそのイグザムの胸に拳を振るう。
振るわれた拳は、あの高速の中でダメージを負っていたイグザムの甲殻に、確かなひび割れを打ち込んでいた。
「っ!!」
流石にこれにはイグザムも参っているのか、胸元を押さえながら後退りする……だが、深手を負ったのはバルナイザーも同じ事。
「ちっ……いってぇ…………っ!?」
バルナイザーは腕を押さえる……その腕からは、緑色のすこしベタついた、まるでオイルの様な血……いや、恐らくはオイルそのものであろうそれが流れていた。
バルナイザーは、その流れる液体を驚きを示す。だが、そんな驚きが冷めぬままにバルナイザーは接近したイグザムに胴を思いっきり切り上げられ大きく仰け反る。
「がぁっ!?」
「ハイ……ジョ……!!」
一転してマウントポジションを取ったイグザムは、倒れたバルナイザーをその大剣でメッタ切りにする……火花がバルナイザーの体表で舞う。
先ほどまでやられた仕返しと言わんばかりに、何度も、何度も斬りつける……明確に苛立ちを感じられる行動。それが、反撃の狼煙を上げる火種となった。
「でやぁっ!!」
「っ!?」
イグザムは、目の前のバルナイザーに集中したせいで最後から迫るアカリに気が付かなかった。
アックスで重い一撃を食らったイグザムは一瞬動きが止まり、バルナイザーはその隙にそのイグザムの横っ腹に蹴りを打ち込み地面に転がした。
「ハイ……ジョ……」
イグザムはまたしても立ち上がるが、次にその目に映るのはその手に持った大弓を、アイが引いている姿だった。
「そこっ!」
放たれた光の矢は3つに分離……それぞれが別な軌道を取ってイグザムへと向かう。
そのバラバラな動きとスピードにイグザムは対応しきれず、2本の矢はその大剣で弾いたが、1本の矢がその胸へと向かい撃ち込まれる。
先ほどにひび割れた、イグザムのその胸の傷に、正確に。
イグザムもそれに気づいたのか、咄嗟に矢をつかみ深く刺さらないようにして、引き抜こうとする。
だが、その一瞬が分かれ道だ。
『トップブースト!!』
流れる音声……その音声と共に、爆炎をマフラーから上げながら、バルナイザーがイグザムの目の前へと高速移動する。
「貰ったァッ!!」
バルナイザーの拳の一撃が、イグザムに突き刺さった矢へと撃ち込まれる。
その矢はイグザムの胸に深くえぐりこみ……やがて、その胸の奥にあった輝く意思諸共貫かれてしまった。
そのイグザムは、立ったままだらんと力なく腕を下ろし、やがて灰となって消えていった。
「はぁ……はぁ……やった、の?」
「みたいね……」
「あー、しんどっ!いった!!」
安堵するアカリとアイ。
反対にバルナイザーは腕を押さえて地面へと膝をつける……なかなかの強敵だった。三人の初めてとは思えないコンビネーションが無ければ倒せない相手だった。
「……。」
アイは脇腹を押さえて、体を引きずりながらもバルナイザーへと近づき、肩に触れる。
「……ありがとう……助けてくれて。」
「考え無しに動いただけだ、怪我は?」
「少し痛む。」
「そっか。」
「2人とも!?大丈夫!?」
アカリは2人と比べて比較的ピンピンしながら駆け寄ってくる……一応先ほどまで毒にやられていたとは思えないタフネスっぷりだ。
「……お前、逆になんでそんな元気なんだよ。」
「アカリはこう言う人なの、タフネスの塊なの。耐久力お化けなの。」
「なんで若干引かれてるの私。」
アカリは不服そうにそういうと、不意にバルナイザーの腕を見て呟く。
「それよりも、その血……」
「平気だ。この位……」
「……貴方、ロボットなの?」
「……さあな。」
アイの質問にそう返すバルナイザー。彼本人としては、本当に知らないからそう答えるしかないだけなのだが……その意味ありげな返答を深読みするのは、当然のことだろう。
バルナイザーは2人に背を向けて、足早に何処かに去ろうとする。無論、2人はそれを止める。
「ま、待って!だから話を……」
「……じゃあな。」
「っ!ちょっと待っ……!!」
今度はアカリに掴まれる前に、バルナイザーはその身体をバイクへと変形させ、マフラーから爆炎を放ってその場から走り去っていく。
一度走り出したのなら、二人がバルナイザーに追いつく方法はもうない……既に見えないバイクを、二人は見送ることしかできないのだった。
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