断罪されるラスボス皇女の兄に転生したモブの俺~妹を守り抜くために最弱魔法【闇刃】を過剰な努力で極め抜いたら、最強のぶっ壊れ性能と化していた件〜
こはるんるん
第1章。転生したらラスボスの兄でした
1話。ラスボスの兄であるモブ皇子に転生する
「おいおい、嘘だろ……!?」
会社から飛んで帰ってきて、大好きなゲーム【クリスナイツ】を始めた俺は、呆然自失となった。
天涯孤独の29歳の俺は、寂しさを紛らわすためにゲームだけを生き甲斐としてきた。家族も友達も恋人もおらず、会社から帰れば深夜までこのゲームをぶっ通しでプレイし続けた。
最高に盛り上がった気分で、いよいよ物語の佳境であるラストバトルに突入したのだが……
「魔王ディアナが、かわいそう過ぎるでしょうが!?」
このゲームは人間を滅ぼそうとする魔王──通称【黒月の女王】ディアナを、亡国の王子アレスが打ち倒すというヒロイックファンタジーだ。
途中までは、王道の勧善懲悪ストーリーで気分良く進んできたのだが、クライマックスで魔王ディアナの悲しい過去が明かされた。
『君の気持ちはわかる……だけど僕は正義のために、君を倒さなくちゃならないんだぁああッ!』
主人公アレスは動揺はしたものの、最後は魔王ディアナに聖剣を突き立てた。
俺は思わず突っ込まずにいられなかった。
「いや、わかるなら殺すなよ。お前は、今や世界の覇者な訳だし……ディアナと和平を結ぶこともできるだろうがよ。せめて話し合えよ……」
俺は昔から悲しい過去を背負った敵キャラに感情移入する
それが本来は心優しかったのに、闇落ちした美少女キャラならなおさらなのだが……
魔王ディアナは、父親から虐待されたのが俺の境遇とモロ被りしており、心にクリティカルヒットしてしまったのだ。
ディアナは元々、人間の国家──セレスティア帝国の皇女だった。
だが彼女が7歳の頃、母親ともども暗殺者に襲われ、母を目の前で殺されてしまう。
これだけでも超悲しくて、俺の涙腺は決壊寸前だった。
俺も幼い頃に
暗殺の首謀者はわからず終いだったが、同じ帝国の重臣ではないかと噂された。
ディアナの母ルーナは、父である皇帝が征服した魔族──ダークエルフの王女であり、そのダークエルフたちが謀反の旗印として、母を担ぎ出そうとしたことが原因であったらしい。
ディアナはその後、世界征服を目論む父親に戦争の道具として利用された。
ダークエルフの王族は強力な魔力を持つため、元々ディアナを兵器として使おうと皇帝は考えていたのだ。
皇帝は表面上は、ディアナを愛しているかのように振る舞い、ディアナは父親の愛を得たいがために戦場に立った。
しかし、ディアナが14歳になった時、皇帝に突如、裏切られて殺されそうになる。
『お前はもう用済みだ。もはや、帝国はすべての国家を従えた』
皇帝は戦乱の世を平定し、平和な時代をもたらした英雄ともてはやされた。
しかし、そこにディアナの居場所は無かった。
強くなり過ぎたディアナは、魔族の血を引いていることもあり、父親や腹違いの兄たちから疎まれ、危険視されたのだ。
『父を想うなら自害せよ』
『なんだその目は? ……やはり、あの時、母親ともども殺しておくべきだったか』
この時、7年前の暗殺事件の黒幕が父親であったことを知って、ディアナは衝撃を受ける。
俺の衝撃もすさまじかった。
この毒親の皇帝は、俺のクソ親父と同じだ。
親父は母さんが失踪した後、酒を飲んでは俺を殴るようになった。下手に怒らせたら殺されるじゃないかと思って、必死に親父の機嫌を取った。
だから親父が飲酒運転で事故って、あっさり死んだ時は、心底、ホッとした。
親父は結局、子供を愛する気持ちなど、これっぽっちも無い人間だったのだ。
ディアナの父──皇帝アルヴァイスは、俺の親父より、数倍タチが悪いと思う。
この男はダークエルフの乱を鎮めるためにディアナの母を殺し、幼かったディアナを道具にしたんだ。
『お母様の仇──皇帝アルヴァイスと帝国の者たちを、私は絶対に許さない……ッ!』
命からがら逃げ出したディアナは、父親のみならず、セレスティア帝国と人間そのものを憎んだ。
俺はディアナの気持ちが本当に良くわかった。
こんなのが父親だったら、人間そのものに絶望してしまうのも無理はないよな。
ディアナの腹違いの4人の兄たちも、妹をイジメ抜いた上に、処刑に加担しようとは許せないにも程があるぞ。
2年後、ディアナはダークエルフの女王となり、他の魔族や魔物たちを従えて、帝国を──いや人間そのものを滅ぼすべく、大戦争を巻き起こした。
主人公アレスの王国は、セレスティア帝国に従う小国であったが故に、運悪く真っ先に滅ぼされてしまったのだった。
そして、アレス王子は魔王ディアナ打倒を掲げて、立ち上がることになった。
『やりましたねアレス王子! これで王国を再興できます!』
『死んでいった仲間たちも報われますな!』
『ああっ! これで世界に真の平和が訪れる。天国から見ていてくださいましたか!? 父上、母上!』
アレス王子と仲間たちは、大喝采を上げ感動のフィナーレとなった。
だが、俺はまったく感動することはできなかった。
なぜって魔王ディアナは、最後に『お母様……』と、目尻に涙を浮かべて事切れるのだ。
「シナリオライターは鬼かぁああッ!?」
スタッフロールの最後に、幼い頃のディアナとその母親が笑顔で抱き合っているスチルが表示された。
幸せだった幼い頃に戻り、天国で幸せになった暗喩だと思うが……
こ、これでまさか感動しろと言うのか? いや、ちょっと救いがなさ過ぎだぞ。
俺はメンタルに大ダメージを喰らって、放心状態のまま寝床に入ったのだった。
☆☆☆
目が覚めると、豪奢なレリーフの掘られた天井が真上にあった。
あれっ? 俺は三畳半の自宅のベッドで寝ていた筈なんだけど……ここは一体、どこだ?
「あぇ……!」
状況を確認しようと身体を起こそうとするが、頭が異様に重い上に、四肢にうまく力が入らずに起き上がれなかった。
しかも、口からは甲高い声が漏れた。
な、なんだ、これは? 俺の身に何が起こったんだ。
「あぎゃ!?」
動揺した俺は大声で近所に助けを求めようとするも、意味不明な叫びにしかならなかった。
なぜか、口がうまく動かせないぞ。
まさか、何か危険な病気にでもなってしまったのか?
とにかく身体の状態を確かめるべく、右手を持ち上げて見ると、驚くほど小さくてプニプニした手がそこにあった。
……な、なに? ま、まさか、これは赤ん坊の手?
あまりのことに、俺の思考は数秒フリーズしてしまった。
俺は赤ん坊になってしまったのか? そんなバカな……?
でも、この白玉餅みたいな小さな手は、絶対に今までの俺の手じゃないぞ。
激しく混乱していると、突如、全身が火で焼かれたように熱くなった。
「おっぎゃあああああッ!」
耐え難い痛みに、思わず絶叫する。
何か得体の知れないマグマのような激流が体内で荒れ狂っていた。
「どうしたのルーク!?」
すると部屋の扉が開いて、ドレス姿の16、7歳くらいの少女が大慌てで飛び込んで来た。
その娘を見て、俺は仰天した。
えっ、魔王ディアナ?
妖精かと思うほど美しいその少女は、【クリスナイツ】の魔王ディアナにそっくりだったのだ。
だけど、肌の色が違った。この娘は褐色、ディアナは雪のような白い肌をしていた。
しかも、この娘は犬のような首輪をしている。ファッションにしては奇抜過ぎるし、まるで奴隷か何かのようじゃないか?
「お〜っ、よしよし。マンマが欲しいの?」
少女は俺を抱き上げた。
すると意識を砕かれるような激痛の中にあっても、言い知れぬ安心感を覚えた。
「あっ、熱ぅ!? まさか……魔力暴走! 1歳で!?」
魔力暴走? 何を言っているんだ、この娘は……?
しかし、俺の身体が異常な高温になっていることは、少女の様子からも察せられた。
「おっ、お、おお落ち着くのよ! た、確か、お母様の教えでは……
少女はパニクって右往左往していたが、やがて意を決した様子で、俺に語りかけた。
「いいルーク? 痛いの消すには、お歌を歌う必要があるの。お母様と一緒に、楽しくお歌を歌いましょうね?」
「はぇ……?」
少女は無理やり作った笑顔で俺をあやす。
お母様って? この娘は、まさか赤ん坊になってしまった俺の母親なのか……?
こんな絶世の美少女が母親って、嬉しすぎるけど、今はそれどころじゃない。
「『混沌の魔力よ、我が手に宿れ。魔刃よ、顕現せよ
うん、あれ……? どこかで聞いたような呪文だな。
熱に浮かされながらも、俺は思い至った。
そ、そうだ。これはゲーム【クリスナイツ】に登場した最下級魔法
「お願いよ、ルーク! このままだと、あなたは死んでしまうわ! お母様の後に続いて、頭の中で歌うのよ!」
少女は必死に懇願してきた。
それで、彼女が俺を本気で助けようとしていることがわかった。
少女の口から再び、
俺をあやしながら、なるべく楽しい歌なのだと思い込ませようとしていた。
確か【クリスナイツ】の設定では、魔力の多すぎる子供は6歳までの間に命を落とすことが大半であるというのがあったよな?
魔力暴走という魔力によって体温が急上昇する現象のせいだとか……
まさか、俺は【クリスナイツ】の世界に転生してしまったのか?
たまに読んでいる異世界転生物の漫画やアニメなどではお馴染みの展開だったが、自分の身に起こるとは信じられない心境だった。
「う、うた……?」
「そ、そうよルーク、お利口さんね! 楽しいお歌よ。一緒に歌いましょう?」
俺が意思疎通しようと拙い言葉を発すると、少女は大喜びした。
「……ルーク、がんばるのよ! お母様だけじゃなくて、生まれたばかりの妹ディアナも応援してくれているわ!」
俺を激励しつつ、少女は俺の手を虚空にかざさせる。
えっ、ディアナだって?
魔王ディアナと瓜二つの少女の娘が、ディアナって。偶然にしてはでき過ぎているというか……ま、まさか。
いや、今はとにかく、この窮地を乗り切ることが先決だ。
ゲームの設定では、魔力暴走は魔法を使って魔力を消費すれば収まるとあった。故に幼い頃から魔法が使える真の天才にしか乗り越えられない試練だとか。
少女の言う通り、
お、落ち着け俺、きっとやれる。
『……こ、混沌の魔力よ、我が手に宿れ。魔刃よ、顕現せよ
その瞬間、頭の中で、何か歯車がカチリと噛み合うような感覚があった。
身体を内側から焼くマグマのような熱が右手に収束して、解き放たれるのを感じる。
「あぎゃっ!?」
虚空にかざした俺の右手から、小さな闇色の刃が伸びた。
これは間違いない。
ゲーム【クリスナイツ】で何度か見た
「や、やったわルーク! 本当に
少女──俺の母さんが愛おしそうに、俺を胸に掻き抱いた。
俺を苦しめていた体内の熱は、右手から流れ出して、徐々に消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【★あとがき】
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