第39話 ショッピングモールデート

「こ、こんにちは……」


 会うとは、当然思っておらず緊張して声が震えてしまった。


「誰か待っているのかな?」

「はい、有沙さんを待っているところです」

「そう……」


 会話はそこで終わり、和樹さんはどこかへ行くと思っていたが俺の隣にいて動かない。


 物凄い気まずい状況なんだが、和樹さんは俺に何か言いたいことであるのだろうか。


「そうだ、天野くん。君にこの前伝え忘れていたことがあるんだ」

「伝えたいことですか?」


 今からどんなことを言われるかわからないが変にドキドキしてきた。


「有沙は昔からあまり自分のことを話さなくてね。友達がいるかとか親として少し心配だったんだ。けど、君みたいな人と出会えて友達もできたみたいで安心したよ。有沙と仲良くしてくれてありがとう」


 そう言って和樹さんは、俺に優しく微笑みかけてきた。


「い、いえ……」


 俺と有沙が隣の家に住んでいて、あの時、彼女を助けなかったら俺は彼女と仲良くはなっていなかっただろう。


 和樹さんと少し話していると下に降りてきた有沙が駆け寄ってきた。


「千紘、お待たせしました……? なぜ、お父様がここに?」


 有沙は、和樹さんがいることに驚いていた。運動会では仲がいい親子に見えたが今日は違った。


 有沙が和樹さんが来たことに対してあまりいいように思っていない。


「特に用はないよ。仕事で偶然こちらに来ていて有沙の家に行こうかと思っていたんだ。けど、どうやら今からどこかに行くみたいだね」


 仕事で偶然近くに来ていて、家に行こうとしたが、タイミングが悪く俺と有沙が出かけるところだったということか。


「は、はい……ショッピングモールに少し……」


 彼女は小さな声で話し、和樹さんにどう言われるのか気にしているように見えた。


「そうか、楽しんでおいで」


 和樹さんは、そう言ってこの場を立ち去っていった。


「有沙。お父さんと何かあったのか?」


 困っていることがあるのなら俺に相談してほしい。そう思い、尋ねると彼女は首を横に振った。


「何もないですよ。それよりどうですか?」


 彼女はそう言って俺の目の前でくるりと回った。どうというのはおそらく服のことだろう。


 白のシャツと黒のキャミドレス。落ち着いた感じがしてとても彼女に似合っていた。


(あっ、ネックレス……)


 彼女の首に誕生日に渡したネックレスがあることに気付いた。


「可愛いよ。服もネックレスも」

「ふふっ、ありがとうございます!」


 ネックレスに気付いてくれたことが嬉しかったのか彼女は喜んでいた。


「じゃあ、行くか」


 手を彼女の前に差し出し、俺は微笑みかけた。すると、有沙は嬉しそうにその手を握った。



***



 ショッピングモールに着いて最初に向かった場所は本屋だ。好きなところを見てもらっても構わないのに有沙は俺の側にいた。


「千紘は、推理小説が好きなんですね。私も好きですよ」

「良かったら貸そうか?」

「はい、是非借りたいです」


 彼女にオススメの推理小説を貸す約束をして気になった小説を買った後は、雑貨屋へ向かった。


「ペアで……千紘、恋人というのはこういうのをお揃いで買うのでしょうか?」


 有沙は同じ種類で色ちがいのマグカップセットを見て俺に聞いてきた。


「さぁ……けど、お揃いっていいな」

「ですね。千紘とお揃い……ふふふ、ありです」


 何を想像しているのかわからないが、彼女は小さく笑う。


「い、一緒に住み始めたらこういうお皿とか必要ですね……なんて」


 顔を真っ赤にしながら俺の方を見て言ってきたのでつられて俺も顔が赤くなる。


「そ、そうだな……。まぁ、今ある分でもなんとかなるけど、一緒に住むってなれば考えないとな」


 先のことはわからない。けど、将来、一緒に住みたいとお互い思っている。


「そうですね。私は、早く千紘と一緒に暮らしたいです……」


 そう言って商品を見ながら呟いた彼女の表情は、笑顔ではなく暗かった。


「有沙、次、行きたいところあるか? 俺が行きたいところばかりに付き合わせるのは悪いし」

「行きたいところ……で、では、ゲームセンターに行きたいです」

 

 彼女からゲームセンターに行きたいと言われるとは思ってもいなかったので、少し驚いた。


 雑貨屋からゲームセンターに移動し、中に入ると彼女の表情は明るくなった。


「この前、ひまりさんとゲームセンターで遊んで楽しかったので千紘とも是非勝負したいです」

「勝負?」


 何の勝負かわからず彼女に着いていくとそこにはレースゲームだった。


「俺、久しぶりにやるんだけど勝負になるかな」

「大丈夫ですよ。私も1回しかやったことないので」


 それなら大丈夫かと思い、俺と有沙は、レースゲームをすることに。


「ま、負けました……。けど、楽しかったですね」

「そうだな」

 

 こういうゲームをやるのは久しぶりだ。小さい頃は友達とよく遊んでいたな。


「あっ、イルカさん!」


 レースゲームを終えると有沙はイルカのぬいぐるみのクレーンゲームを見つけた。


「よし、やってみるか」

「えっ、わ、私は別にほしいなんて……」

「俺がほしいからやる。ダメか?」

「い、いえ……ダメではないです。では、私は千紘が取れるよう応援しますね」


 彼女は、邪魔にならないよう少し距離を取り、見守っていた。


「と、取れそうです……千紘は、クレーンゲーム得意なんですね」


 何回かやっているとイルカのぬいぐるみはだんだん入り口の方へと近づいていった。


「まぁ、たまに深と来たらやるからな」

「そうなのですね。千紘、頑張ってください。ファイトですっ!」


 満面の笑みでガッツポーズをした有沙を見て俺はドキッとした。


「お、おう……」


(可愛すぎるだろ……)


 有沙の応援の効果かイルカのぬいぐるみは無事取ることができた。


「わ~やりましたね、千紘!」

「あぁ……」


 有沙とハイタッチし、イルカを手に取るとそれを有沙に渡した。


「はい、プレゼント」

「い、いいのですか? 千紘がほしいと言っていましたよね?」


 彼女は、受けとるもののもらっていいのかと困っていた。


「有沙にあげたいと思ったからほしかったんだ。だから受け取ってくれ」

「は、はい。ありがとうございます。絶対に大切します……」


 彼女はそう言って嬉しそうにイルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

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