第37話 花火大会の約束

 プールの施設でたくさん遊び、帰る頃には夕方になっていた。


「いや~、今日は楽しかったね。あーちゃん、疲れて寝ちゃったの?」


 ひまりは俺の背中に乗ってすやすやと寝ている有沙の頬をふにふにとつつく。


 着替え終わった後、施設を出てひまりと深は、コンビニへアイスを買いに行った。その時、俺と有沙は2人のことをベンチに座って待っていたのだが、有沙はうとうとし始めた。そして今に至る。


「寝てしまったみたいだな……。じゃあ、また」

「うん、またね~。寝てるあーちゃんを襲うんじゃないぞっ!」

「襲わないから」


 ひまりと深が別れた後、有沙を背負い家まで帰った。


 今日は楽しかったな。初めての彼女との夏休み。去年と同じようなことをしているはずなのに有沙がいるだけで特別に感じる。


 また来年も一緒に……今度は2人で来るのもありだな。


「千紘……?」


 起きたのか後ろから彼女の俺の名前を呼ぶ声がした。声からしてまだ眠そうだ。


「家までもうすぐだ。寝ていていいぞ」

「……はい、寝てます」


 てっきり降ります!とか言って起きるかと思ったが、どうやら相当疲れているようでまた寝てしまう。


 家へ着くと彼女をベッドへ寝かせて俺は夕食を作ることにした。


 夕食を作った後は、デザートに彼女が好きなシュークリームを作ることにした。


 作り終え、ソファに座ってテレビを見ていると後ろから誰かに抱きつかれた。


 誰かと言っても有沙しかいないので、俺は振り返らず話しかける。


「おはよう、ぐっすり寝れたか?」

「はい……寝てました」

「そうか。夕食できたけど食べるか?」

「食べます!」


 先程まで眠そうに話していたが夕食となると彼女は目が覚めたのか俺から離れて、夕食の準備をしにキッチンへ向かった。


(有沙って食べ物のことになると元気でるよな……そこが可愛くていいところだ)


 2人でテーブルへ運び、向かい合わせになって座ると一緒に手を合わせて食べ始める。


 すると有沙は何かを思い出したのか俺に予定を聞いてきた。


「千紘は、今週の土曜日、空いていますか?」


 スマホでカレンダーを見たところ予定もバイトも入っていなかった。

 

「空いてるよ」

「で、では、一緒に花火大会に行きませんか? ひまりさんにやはり恋人同士で夏にすることはこれだと聞きました」

「そう、なのか……。いいよ、花火大会」


 恋人同士で夏にすることはこれというのはよくわからないが、有沙と花火大会……うん、いい思い出になる。


 去年は受験で行っていないし、今年は行ってもいいな。


「では、その日は予定を空けておいてくださいね」

「あぁ、空けておくよ」


 忘れないようにカレンダーに有沙と花火大会と書き込んでおいた。


(楽しみだな……)



***



 夜寝る前、有沙はひまりとビデオ通話で話していた。


『千紘をドキドキさせたい?』


「は、はい……。千紘って後ろから抱きついてもわりと普通に接してくるので意識されていないのかなとここ最近思うんです……まぁ、最近ではなくずっとですけど……」


 ベッドに寝転び、足をパタパタとしながら有沙は最近思うことをひまりに話す。


『心配しなくても千紘は意識しまくってると思うよ。1回、思いきったことしてみたら?』


「思いきったこと?」


 ひまりが言う思いきったことがよくわからず有沙は首をかしげた。


『うん。例えば千紘を押し倒して、キスするとか』


「お、押し倒すのですか?」


 有沙は自分にはできるのかと思ったが、千紘がどんな反応をしてくれるのかと気になり実行してみようかなと思い始めていた。


『色んなことして誘惑したら鈍感な千紘でも顔真っ赤にしてくれるよ』


「なるほど、とても勉強になります」


 彼氏持ちの先輩であるひまりに有沙は感謝し、言われたことをメモしておいた。


『あ~やりすぎはダメだよ。逆効果で嫌われるかもしれないから』


「わ、わかりました……」


 千紘が小さなことで自分のことを嫌うとは思えないがやりすぎはよくないということを学んだ有沙だった。


『まぁ、これくらいかな。あっ、深とゲームする約束の時間だ!』


「そうなんですね。私の相談に乗っていただきありがとうございます。ゲーム楽しんできてください」


 どんなゲームかわからないが、有沙はそう言ってひまりとの電話を切った。


 通話が終わり、寝たまま近くにある机にスマホを置いてベッドの上にあるペンギンのぬいぐるみを抱きしめた。


「ふふっ、やっぱりベッドの上にいて寝転ぶこの時間は至福です……」


 ごろごろとだらけていると千紘からの電話の着信音が鳴り、有沙はバッとペンギンのぬいぐるみを抱えたまま起き上がり、電話をとった。


「千紘!」


『おぉ、ビックリした……』


 つい、大きな声を出してしまい、千紘は驚いていた。


「ふふっ、ごめんなさい。千紘の声が聞きたかったので」


『俺も有沙と話したくて電話をかけたんだ』


「そ、そうなんですね。一緒です」


(本当に千紘はズルいです。そう言うことをさらっと言えてしまうところが……)


 それから1時間ほど千紘と話し、明日もまた会えることを思うと自然と笑みになる有沙だった。


「では、おやすみなさい千紘」


『あっ、ちょっと待って』


 おやすみなさいと言って電話を切ろうとしたが千紘が待ってほしいと言ってどこかに行ってしまった。


(どうしたのでしょうか……?)


 しばらく待っていると千紘は帰ってきたようで声がした。


『有沙、ビデオ通話にできるか? 見せたいものがあるんだ』


「見せたいもの? わかりました、今、ビデオ通話にしますね」


 そう言ってビデオ通話に切り替えると千紘の顔がスマホの画面に写った。


『これ、羊毛フェルトで作ってみたんだけど』


 そう言って千紘が見せてきたのは羊毛フェルトで作られたペンギンだった。


「ぺ、ペンギンさん! 可愛いです!」


『出来にはわりと自信あるんだけどいるか?』


「ほ、ほしいです! 千紘は、裁縫が得意だったんですね。知りませんでした」


『まぁ、得意なほうだよ。じゃあ、これ明日渡すよ。おやすみ』


「はい、おやすみなさい」

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