第30話 もう一度
キスをした後、俺と有沙は顔を見合わせることが恥ずかしく、俺は夕食を作り、彼女はソファでクッションを抱きしめて寝ころんでいた。
(危なかった……)
守りたい、大切にしたいはずなのにもっと触れたいと思ってしまった。
あのまま欲のままにキス以上のことをしたら俺は一生後悔していただろう。
(いつも通り……いつも通り)
いつも通りに接すると心の中で唱えて、夕食を作り、2人分テーブルへ持っていく。
「有沙、夕食できたぞ」
「ん……」
彼女はんとしか言わずソファから動こうとはしない。
寝ていたかはわからないが、夕食は後にした方がいいのだろうか。
「有沙、夕食は後にするか?」
ソファのところへ近づき、しゃがみこむと彼女と目があった。
「……千紘。私はおかしいのかもしれないです」
「ん? 具合でも悪いか?」
そっと彼女の額に触り熱がないか確認したが、少し顔が赤くなっているような気がしたが、熱はないようだ。
「い、いえ……そうではなくて……」
彼女はそう言って、クッションを抱き抱えたまま起き上がりソファに座る。
すると俺の腕を触り、顔を赤くして口を開いた。
「は、はしたないことかもしれませんが、もう一度キスしたいです」
何を言うかとドキドキしたが、全くはしたなくないことだし、可愛くねだられてそっちの方が刺激が強いんですけど……。
「や、やっぱりダメですよね! キスは1日1回と決まっていますし、そんなに何度もしては千紘が私のことを……!」
慣れないことだが彼女の言葉を遮り、俺はキスをした。
「だ、ダメじゃない……そう思うのは有沙だけじゃないしな」
「えっ……千紘も───ふぎゅっ」
千紘もの後は言われると恥ずかしいので俺は彼女の口を塞ぐのだった。
***
体育祭。運動はできるほうだが、あまり自分からやりたいとは思わない。
出る競技は、リレーと綱引き、後は借り人競争だ。リレーはなぜか同じ競技に出るクラスメイトと話し合った結果、アンカーになった。
嫌と断ったが、同じくリレーに出る深に推薦された。まぁ、走るだけだからいいやと思ったのと断れる空気でもなかったのでやることにした。
「千紘の両親は来るのですか?」
リレーの後、俺は有沙と一緒に応援席に戻っていた。
「来てるよ。有沙に会いたいって母さんが言ってたけど会うか?」
お昼休憩の時に会える時間があるので彼女に聞いてみた。
「はい、是非、香織さんに会いたいです」
有沙と母さんは連絡先を交換しており、定期的に連絡を取っているそうだ。
何を話しているか気になるが、女子トークを聞くのもあれな気がして聞けない。
「なら、昼休みに会いに行こうか」
「はい。あっ、お母様!」
有沙はを見つけ、紗奈さんのところへ走っていった。
「有沙、さっきのリレー見たわよ。もちろん、天野くんのも見たわよ。カッコ良かったわ」
「そうですよね、カッコ良かったです」
有沙と紗奈さんからカッコいいと言われて俺は顔を赤くした。
(カッコいいとか言われ慣れないな……)
「紗奈、飲み物を……有沙と天野くんじゃないか。さっきのリレー良かったよ」
飲み物を買って帰ってきた有沙の父親、和樹さんはそう言って娘の頭を撫でた。
「ふふっ、一生懸命走りました。1位だったんですよ?」
彼女は和樹さんに頭を撫でられてふにゃとした表情になる。
なぜかわからないが、少しモヤッとしてしまった。彼女のこういう表情をさせるのは自分だけと勝手に思っていたが、家族にも……。
「千紘、帰ったらモフモフしてあげますね」
考え事をして突っ立っていると彼女は俺の耳元でそう囁いた。
「モフモフ?」
「はい、モフモフです。頑張ったら膝枕してあげるってことです」
彼女はそう言って家族と再び話し始めた。彼女の楽しそうに話す姿を見て俺まで幸せな気持ちになっていた。
「そう言えば、天野くん。有沙とは家がお隣さんらしいじゃないか」
先に俺は応援席に戻ろうとしたが、和樹さんに声をかけられた。
「は、はい……そうですけど」
「娘を支えてやってほしい。彼女は、頑張り屋でいいのだけれどたまに見ていて怖くなるからね」
「……わかりました」
「そんなに私の言葉を重く受けなくてもいい。側にいるだけでいいからね」
俺が重く受け止めすぎて負担にならないよう和樹さんは笑ってそう言った。
有名企業の社長さんと聞いて偉い人だから怖いイメージがあるが、やっぱり優しい人だ。
俺と有沙は応援席に戻ると、紗奈さんはふふっと微笑んだ。
「仲が良さそうで良いことです。和樹さんもそう思いませんか?」
「そうだね。いいことだけど私は……いや、何でもない」
***
お昼休憩になり、昼食を食べる前に母さんと父さんに会いに行った。
「有沙ちゃーん、会いたかったわ~」
母さんは有沙に会うなりムギュッと抱きついた。周りに人がいることをわかっているのだろうか……。
「香織さん、お久しぶりです」
「また可愛らしくなったわね。千紘から聞いたわよ。付き合い始めたそうね」
「は、はい……千紘のことは私が守ります」
「あら、それは千紘の台詞よ。変な奴が寄ってこないように千紘が有沙ちゃんのことを守るの」
母さんがねっ?と目で視線を送ってきたので俺はそうだなと一言返した。
「千紘に大切な人ができたのなら良かったよ。初めまして、千紘の父の天野蒼人です」
父さんは、有沙に挨拶すると彼女は一礼した。
「は、初めましてお父様。月島有沙です」
「お父様……蒼人でいいよ。まだ早いからね」
「す、すみません!」
父さんに笑われ、有沙は恥ずかしくなったのか顔を赤くした。
「あら、可愛い。2人とも、クッキーを作ったら良かったら食べて」
「あ、ありがとうございます!」
「ふふふ、感想聞かせてね。蒼人さん、行きましょうか」
「そうだね。千紘、午後の競技も頑張るんだぞ」
母さん達も昼食を食べに行くのか行ってしまった。
「俺らも教室に行って食べるか」
「はいっ、そうですね」
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