第7話 初めての勝利と複雑な感情

詩廼は小学校6年生から1年間、ほぼ毎日道場に通い続け、優太君との対局を繰り返していた。しかし、彼に勝つことは一度もなかった。優太君は圧倒的な強さを誇り、詩廼はいつも負け続けていた。


しかし、1年経ったある日、ついに詩廼にとって大きな瞬間が訪れた。


その日の対局は、優太君が駒落ちで挑んだ。飛車や角を抜いたハンデ戦だったが、詩廼は全力で挑んだ。局面が進むにつれて、優太君のペースを崩し、ついに詩廼は優太君に勝利した。


詩廼 「勝った…?」


詩廼は信じられないように盤面を見つめ、呆然とした。隣で見ていた巴も目を丸くして驚いた。


巴 「え、本当に勝ったの?」


優太君はにこやかに盤を見下ろし、軽く笑った。


優太 「うん、今日は詩廼が頑張ったね。でも、今回は駒落ちだったからね。」


その言葉を聞いた詩廼は一瞬困惑したが、それでも初めての勝利に胸が高鳴った。優太君は手加減していたとしても、勝ったという事実が彼女に自信を与えた。


詩廼 「でも…私、優太君に初めて勝ったんだよね。」


詩廼の目には尊敬の色が浮かんでいた。1年間勝てなかった相手に勝ったことで、彼の強さを改めて実感し、ますます優太君を尊敬するようになった。


詩廼 「優太君、本当に強いんだね。駒落ちでも、私がやっと勝てたくらいだもん…。」


優太君は少し照れたように笑いながら答えた。


優太 「まぁ、僕ももっと強くならないとね。」


しかし、その一方で、巴は複雑な気持ちを抱えていた。これまで詩廼とは一緒に将棋を楽しみ、同じペースで強くなっていくと思っていたが、今や詩廼は優太君を尊敬するようになっていた。


巴 (私より、優太君のことばっかり…)


心の中で少し嫉妬を感じた巴は、微笑みながらも、何かを言い出せずに黙っていた。


巴 「詩廼、すごいね…よかったじゃん。」


そう言いつつも、心の中で感じる複雑な感情に戸惑っていた。


道場を後にし、三人で帰り道を歩く中、詩廼は優太君との勝負について楽しそうに話し続けた。巴はその様子を見守りながら、自分の中の感情がもやもやと広がっていくのを感じていた。


巴 (私はどうしてこんな気持ちになるんだろう…)


それでも、二人の笑顔を見て、巴は微笑ましいと感じつつ、少しだけ切ない気持ちを抱えたままその場を歩いていた。


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